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白翼の堕天使  作者: 紡未夏樹
第三章
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第四部 〈友人の家庭事情〉

「あんまり来ないでほしかったんだが……」

 それから程無くしてやってきたケイは、マスクを着けて憔悴した顔をしていた。

「仕方ないでしょ。プリント届けてって言われたんだから」

 重要なものかと聞かれるとそうでもないが、言われた事はやらねばなるまい。

「ところで、さっきの女の人って誰?」

「聞きたいか?」

 彼はあまり話したくなさそうにしているが、

「聞きたいわ。さっきの人って誰なの?」

 志音はそれに気付いていないのか、質問を繰り返す。

「あー、そうだな。俺の……」

 一拍置いて、

「母親だ」

『え……』

 あまりの事に驚きを隠せない二人。

「お姉さんとかの間違いじゃないの?」

 流石に見た目が若すぎる。年なんてそう離れていないようにしか見えない。

「魔族が長命なことくらい知ってるだろ。ああ見えても四十は越してるぜ」

 それを聞いて二人は、なるほど、と思う。

 魔族が長命なのは常識中の常識だ。見た目と年齢が比例しない、なんてことは良くあることだ。

「俺の見た目と年齢が比例してるのは、ハーフだからだ」

 しっかりと付け加える。

 そんな時、件の女性が現れて、ケイに声を掛ける。

「ケイ、おうちに入れないの?」

「俺、風邪ひいてるんだが……」

「簡単に移りはしないわよ、〈守命者〉なんだもの」

「〈守命者〉を何だと思ってるんだ。」

 黒羽達は、彼女の話をしていたためか、思わず、その姿をまじまじと見つめてしまう。

「あら? そんなに見つめられたら恥ずかしいわ」

 少し照れたように身をよじる。

「とりあえず、おうちに入りなさい。まだ秋とはいえ、寒いでしょう?」

 彼女がそう言った途端、何かに誘われるように、フラフラと歩き出す黒羽と志音。

 まだケイが何か言ってはいるが、彼らの耳には届かない。

「フフ、良い子たちね」

「母さん、さすがに魔法使うのはどうかと思うぞ」

「あら? ダメかしら?」

 口元に指を当て、首をかしげるケイの母。

 その姿は、身内の前だというのに、妖艶に見えた。


「サキュバス?」

「そうよ? ケイから聞いてなかったのかしら?」

 いつの間にか入っていた三上家にて、なぜかケイではなく、その母親と話に花を咲かせる、黒羽と志 音。

「魔族のハーフなのは知ってたんですけど、何を言っても種族だけは話してくれなくて……」

「まあ、そうよね。なかなか言いづらいのよね、サキュバスって。自分は淫乱ですって言ってるようなものだもの」

「——っ」

「フフフ、赤くなっちゃって。可愛いんだから」

 彼女はそう言って笑っているが、照れるなという方が無理だろう。

 ケイの口から四十歳を越してると聞かされ、尚且つ友人の母親だと分かっていても、傍から見れば二十代の美人な女性なのだ。そんな女性が、淫乱です、などと言い出せば、場の空気もおかしくなること請け合いだ。

「そ、その、ケイのお母様って——」

「フィアツィオーネよ。フィアって呼んでちょーだい」

「じ、じゃあ、あの、フィアさんって、本当に四十歳超えてるんですか?」

 馬鹿な質問をする志音。おかしな空気が、今度は凍った気がした。

「年は、そうねえ……覚えてないわ。四十は越してるはずだけども……」

 口元に指を当て、思案するフィア。張り詰めた空気が緩む。

 ——本当に四十超えてるのね……。

 志音は、彼女のしわ一つない顔を見て、私もこんな歳になっても若々しくいられるかしら? と、見当違いな事を考える。

「若く見えないと大変なのよ。そうしないと男を漁れないじゃない?」

 今度は別の理由で空気が凍る。

「——なんて、冗談よ。さすがに旦那がいるもの」

「その親父も音を上げて、しばらく帰ってきてないけどな」

「ケイ、何か言ったかしら?」

 背筋に怖気が走る。

 何気ない言葉から、命の危険を感じる。

「いや、なんにも」

 いつもの事なのか、あえておどけて見せるケイ。

「そう、なら良いわ」

 空気を改善するためか、志音が口を開く。

「そ、それにしてもあれよね。ケイの性格の由来が分かった気がしたわ」

「そりゃそうだろ。俺だってインキュバスに分類されるわけだしな」

 結局のところ、ケイは何も道を踏み外したわけではなく、極々当たり前の性格をしていたわけだ。彼の使う魔法、感情検知型の索敵魔法も、インキュバスであることに由来してるのかもしれない。

「ってか、プリント届けに来たんじゃなかったのかよ」

「……あ、そうね。すっかり忘れてたわ」

「おい」

 ケイの家庭事情の驚きが強かったためか、すっかり忘れて話し込んんでしまった。

「はい、これ」

「おう」

 鞄からプリントを取り出すと、ケイに手渡す。

「暗くなっちゃったわね。送っていくわ」

 秋の日は釣瓶落とし。時刻は五時半だが、すっかり外は暗い。

 心配したフィアが、腰を上げる。

「いえいえ、いいですよっ。ちゃんと帰れます」

 慌てて志音はその提案を拒否する。勝手に来たのに、送ってもらうのも申し訳ない。

「大丈夫よ。すぐに終わるわ。——ちょっと失礼」

 そう言うと、黒羽と志音、二人の額に手を当てる。

「ふーん……こんなものかしら?」

 額に当てた手を、今度は虚空へ向ける。

 すると、

「〈門(ゲート)〉!?」

 部屋の一部が歪む。その歪みの奥に、見慣れた光景があった。

「私の家じゃないっ!」

「ウフフ、そうよ。記憶から場所を読んだけど、上手くいったみたいね」

 そう言って彼女は妖艶に笑う。

 もちろん歪みはもう一つあり、その奥には黒羽の家も見える。

「すごいな……」

「そうよ。これでも魔界では、それなりに名の知れたサキュバスだったんだからっ」

 胸を張って誇るフィア。当然の如く常識はずれなサイズの胸が揺れる。

 その姿を冷めた目で見つめるケイ。

「ほら、面倒なことになる前に帰ってくれ」

 ケイに背中を押されて〈門〉を潜る。その間際、

『また来て頂戴ね?』

 頭の中まで響くような、フィアの声が聞こえた気がした。

謎の回になりました、夏樹です。

最近新しいキャラを出し過ぎてる気もしますね。書きたいと思ったらそこに向かって書く癖があるのです。

よって執筆が進まない。悪い癖です。楽しみにしてくださってる方がいらっしゃったら、申し訳ありません。

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