第三部 〈少年の休日と茶〉
「なんか、いつも以上に疲れたー」
家に帰るなり、自室ではなく黒羽の部屋のベッドに倒れこんだ彩芽。
「おい、俺のベッド……」
「くろにぃも一緒に寝よ?」
少し端に寄り、空いたスペースをポンポンと叩く。
「寝ないぞ」
彩芽の誘いを断って階下へ降りる。やることは無いが、彩芽は放っておくのが無難な選択だろう。
何を考えるでもなく、冷蔵庫を開ける。
「そうか、何も無いんだったな……」
今日は金曜日。食材は休みの日に纏めて買うため、この日は良く食材が無くなる。
「暗くなる前に買ってくるか」
幸いにして今日は、演劇鑑賞会があったため、平日だが帰りが早い。まだ日があるうちに買ってくる方が良いだろう。
「彩芽、買い物行ってくるが、何か要るか?」
例の如く、黒羽のベッドに寝転がる彩芽に声を掛ける。
「んー? じゃあ炭酸の飲み物買ってきてー」
「おう」
——数十分後。
「まさか雨が降るとは思わなかったな……」
雨が降りしきる中、買い物から戻ってきた黒羽は、タオルで頭を吹きながら、彩芽に飲み物を手渡す。
「ほらよ」
「ありが…………くろにぃ、これ、お茶、だよね……」
渡された飲み物を見て、彩芽が唖然とする。
「お茶だな」
「私が頼んだのは……?」
「炭酸だな」
何がおかしい、という顔をする黒羽。
明らかにおかしい光景だが、例の如く黒羽は真面目だ。
「もう一回聞いても良い? これは?」
「お茶だな」
「炭酸どこ!?」
普段の彼女からは考えられない声量で叫ぶ彩芽。
「? 炭酸だろ?」
やはり何のことだか理解していない黒羽。
「え、炭酸なの? ……ホントだ……」
手の内にあるものをよく確認して驚愕する彩芽。確かにそこには「炭酸茶」との表記があった。
「こ、こんなのどこで売ってるのさー」
泣きそうな、いや、目の端に涙を浮かべながら嘆く彩芽。
「新しく出てたからな。とりあえず買ってきた」
お茶への執着心が半端ではない黒羽は、見たことのないお茶類を躊躇いなく買う。
「貰うけどさ……今度から炭酸も頼めなくなるのかぁ……」
選択肢が狭まったことに悲しみを隠せない彩芽。
「ところで、洗濯物は良いの?」
「……やっべ」
慌ててベランダへ駆け出す黒羽だった。
休日明け、放課後の教室にて。
「それにしても、ケイが休むのって珍しくない?」
珍しく空いているケイの机を見ながら志音が言う。
「何とかは風邪ひかないって言うんだがな」
「まあ、馬鹿ではないわよね」
黒羽のボケにもっともな事を返す志音。
その時、担任から声が掛かる。
「お、橘、丁度いい。三上と同じチームだったな。プリント、届けて来てくれ」
「はい」
プリントを手渡されてから気付く志音。
「私、アイツの家知らないんだけど」
「俺も知らん」
なぜか彼は家を教えてくれない。というより、黒羽達は彼の個人情報をあまり知らない。
「聞いたら教えてくれるかしら」
「どうだろうな」
「ちょっと聞いてくるわ」
「おう」
志音は廊下に出ていき、黒羽は残る。
「……お茶でも買ってくかな……」
見舞いの品としてはあまり適切ではないものでも、お茶を選ぶ辺り、彼の執着は凄まじい。
「ここね」
見ると、それなりに大きな家だった。
「ほー、金持ってるんだな」
「言い方悪いわよ」
志音に肘で小突かれる黒羽。
「素直な感想だろ良いじゃねえか」
減らず口を叩く黒羽を無視してインターフォンを押す。
『はいはーい』
綺麗な声が聞こえる。
「どなたですかー」
出てきたのは美しい女性だった。燃えるような赤い髪に、少し巻き気味の大きな角。豊かに育った胸元の二つの果実は、動くたびに上下左右に揺れる。
——この人、ブラ付けてるの?
志音は思わず脳裏に疑問を浮かべる。
——というか、誰だ?
髪が赤いため、ケイの家族だろうが、こんな美人が居るとは知らなかった。
「ケイのお友達? 待っててね。今呼んでくるから」
そういうと、彼女は家の中へ消えていった。
短く、遅くなりました、夏樹です
ごめんなさい! 何でも(ry
レビュー、評価、感想、ブクマお待ちしております!




