第一部 〈演劇と噂の王子〉
人間とは不公平な生き物である。
とある日の放課後に、そんな事を言い出したのは、黒羽のチームメイトにして同級生、三上ケイだ。
そもそも、なぜそれを言い出したのかと言うと、
「イケメンが恨めしい……」
そういう事らしい。
いったいどうして急にそんな事をのたまい始めたのか。
現在季節は秋、真っ只中。実はこの時期、この学園ではとある行事が毎年開催されていた。
その名も、演劇鑑賞会。
守命館学園演劇部による、演劇発表会だ。
〈守命者〉だからこそできる独自の動きや、白熱した戦闘シーン。さらには魔法を組み合わせた、異次元の演劇。世界で唯一のイベントである。
「いやー、王子、なんて呼ばれてる人初めて見たわよ。驚いたわ」
そう。実はその演劇部。今年からとある二年生が加入したのだが、その人物が桁外れのイケメンだったのだ。
登場すれば会場は黄色い歓声に包まれ、何かアクションを起こせば、これまた会場が黄色い歓声に包まれる。ともすれば、そのイケメンの台詞が聞こえない程に。
「まだ耳が痛いわね……」
顔をしかめる。
「何だ、志音は興味ないのか?」
お前も女子だろう? 意外そうに聞く黒羽。
「んー、格好いいんじゃない? まあ、私にはくろ……何でもない」
「?」
志音の言葉の先は、本人と、そばで聞いていたケイだけが知るものである。
「あー、黒羽も恨めしいや。爆発しろ」
「今の流れから何でそうなる」
理解しがたい、といった表情をする黒羽。
「しーちゃんしーちゃん」
そこで突然、志音は袖を引っ張られる感じがした。
「ん? 何? どうしたの、ノノ?」
志音の袖を引っ張ったのは年齢の割に小柄な、いや、小柄すぎる少女、ノノ・アルセル。
高一にしては幼すぎる言動。その百四十にも満たないかという程の小さな体躯。クラスのマスコット的存在でもある、魔族とのハーフだ。
ちなみに彼女は、クラスに出来ているほとんどのグループに、自然に溶け込める能力があるとかないとか。
「あのね! 演劇の人、格好良かった!」
満面の笑みで志音に話すノノ。志音はそれを、膝を曲げ、顔の高さを調節して聞いている。その姿は、年の離れた姉妹か、母娘にしか見えない。
「そうね。格好良かったわね。」
志音の、案外あっさりした受け答えに、ノノは不思議なものを見るように、
「あれ? イケメン、興味ないの?」
しかし、そこでとある事に気付いたのか、
「ああ、そっか! しーちゃんにはくろ……むぐぐ……」
「ノノ、ちょっと……廊下においで?」
セリフ半ばでノノの口を塞いだ志音は、そのまま彼女を引きずるようにして廊下に連れて行った。
「いやああああ!!!」
ノノの、とても楽しそうな声が廊下に響く。
「……何、やってるんだ?」
その様子を眺めていた黒羽は、ケイに問う。
「とりあえずお前は爆発しろ……」
不服そうに声を漏らすケイだった。
「——ところで、そのイケメンって結局誰なんだ?」
黒羽は、今まで話題になっていたはずの事に対して、根幹たる部分を質問した。
「え、今まで分からずに話してたのか?」
「いや、俺はほとんど話してないが……」
口を開いたのはせいぜい一回だ。
そういやそうか、とあっさり納得するケイ。
「説明要るか?」
「ああ、一応頼む」
王子とまで言われる程のイケメンの話だ。聞いて損はないだろう。
「高等部二年の日向って名前でな。茶髪が白夜、黒髪が極夜。二卵性の双子だな。双子の分、余計に質が悪い」
注目度が二倍だ。
「ああ、あれ双子だったのか」
ステージに上がった男は二人居た。どちらも「王子」だったのか。
「白夜……先輩は、爽やかな人だな。ザ・王子様って感じで、人当たりが滅茶苦茶良い」
「詳しいな」
「ああ、一応少しだけ調べたんだよ。で、極夜先輩が、なんというか……お前とキャラが被るな」
「は?」
「あんまり喋らねえし、目つき悪いし、恋愛に興味無いって顔してんのに、顔が良いんだよな」
「俺はお前に目つきが悪いと思われてるんだな」
今更かよ、そう呟くと更に説明を続ける。
「演劇部に入ったのも、イケメンだから部長がスカウトしたって理由らしい。まあ、間違ってなかったよな」
現に、入部希望者が一瞬で一気に増えたらしい。今頃大騒ぎしていることだろう。
「ただいま」
「おう、いつもより長かったな……ってなんだそれ!?」
見ると、先ほど連れていかれたノノが、ロープでぐるぐる巻きにされていた。
「いや、いつまで経っても黙らなかったから、ちょうど近くにあったロープでぐるぐるっと……」
「なんでロープなんてあるんだよ……」
何の為に使おうとしてたのか。確かめようが無いため、想像するだけ無駄だが。
「ちょ、たす、け……」
ノノが暴れている。
「苦しいから。早く……」
志音がノノのロープを解く。
「ふう、助かった助かった」
「いや、全部あんたのせいだからね」
疲れた顔で指摘する志音。
「いやいや、しーちゃんが素直にならないのが悪いんだよ。早くくろ……」
「もう一回廊下行く?」
「行かない!」
志音は、走って逃げだすノノを追うが、ちょこまかと動く彼女を捕まえることは敵わない。
だが、本気で怒ってるわけではないことは分かる表情をしていた。
第三章始まります、夏樹です。
どうなるのか私にも分かりません。が、頑張ります。そのためにも私に感想、レビュー、、評価、、ブクマを!
……読んでくれてありがとうございます。




