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白翼の堕天使  作者: 紡未夏樹
第二章
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第八部 〈少年と少女の力〉

 雫の足をがっちりと捕らえた触手は、ちょっとやそっとの力ではびくともしない。

「——クッ!」

 身体を捻り、何とか足に絡みつく触手を切って、地面に降り立つ。

「逃がしませんよ」

 新たな触手を飛ばし、追撃してくるカラコック。それを撃ち落としたのは彩芽の真空刃だ。辛くもその場から逃げ出し、黒羽達の元へと戻る雫。

 ケイに焼かれたこともあってか、触手の勢いは増していた。ともすれば塊すら出来上がっていた。その姿は控えめに言っても気持ち悪い。

「ケイ、さっきの技、もう一回使えるか?」

 全てを焼き尽くす業火をもう一度使えれば、勝機が見いだせるかもしれない。

「いや、あれでほとんど魔力を使っちまった。今は無理だ」

 先ほどより厳しい顔をして応えるケイ。魔力の回復はしばらくの安静が必要だ。戦場でそれを行うわけにもいかない。

「チッ……他に出来る事といったら……」

 黒羽には魔法がある。しかし、あの力は体力の消耗が激しい。この一撃で仕留められなかった時の事を考えると、最後の手段にしたい。

「私の技は水ですし……今の状態では使えないかもです。植物は水を吸収しますし……」

 万が一にも、相手を成長させるような真似をしてしまったら、勝ち目がさらに薄くなる。万全を期すには、全ての可能性を考えて慎重に行動すべきだ。

「そろそろよろしいですか? これ以上抵抗されると私も加減が出来ませんので、大人しくしてください」

 展開した触手を一本に捻じり上げると、纏める前とは比べ物にならない程に、太く大きく成長する。

 この場にある物全てを薙ぎ払うが如く、唸りをあげて迫る触手。

「跳べっ!」

 それまで立っていた地面が大きくえぐれる。まともに喰らったら即死だろうことは、見ただけで分かる。

「まるで大蛇だな、ありゃ」

 各々が木の陰に隠れ、やり過ごした。

 のたうつ巨躯は、獲物を求めるかのように地を這いずり回る。母体である木の色も相まって、それはとてつもなく気持ち悪い。

「黒羽、アレ切れるか?」

 ケイは無茶な事を聞く。いや、実際のところ無茶ではないが、やりたくない。

「正直言ってやれることはやれる。だが、博打になるな。仕留められなかった時、辛くなるぞ」

「そうか、まだ死なれたら困るな」

 全てを察したかのように言うケイ。

 なら、と。

「使わずに何とかするか。もう一回援護頼む」

 疲弊した体に鞭打って、再度魔力の錬成を始める。しかし最初程、早く魔力は溜まらない。

「五分くれ」

 先程より長めの時間を要求する。三分でギリギリだったのだ。間に合うか分からない。

「やるしかないんですよね。お兄さん、魔法、使えますか?」

 さっき黒羽が魔族だと知った雫は、彼に聞く。

「すまん、原理自体は知ってるが、やったことは無いな」

 ナナトとの戦闘で魔法は一度使ったが、あれは例外だろう。

「大丈夫です。私が水を出しますから、それを凍らせてください」

 本来魔法とは無から有を作り出す、魔族の法則だ。有から有を作り出す人間の法則とは違う。雫はそれを、魔法に不慣れな黒羽のために、水という媒介を使うことで補助しようと言うのだ。

 確かに、氷魔法は、まず水を作り出してから、更に急速に冷やして完成するものだ。それは、水という媒介を使うことで、ステップが一つ少なくなる。要するに、一つの事に集中できるようになるというわけだ。

「分かった、やってみる」

 とは言え黒羽もぶっつけ本番だ。上手くいく保証はない。

「いきますよ」

 そう言うと雫は、己の武器である双剣の一本に水を纏わせた。それは次第に大きさを増す。

「お兄さん、お願いします」

「ああ」

 上手くいくかは分からない。しかし、やらねばならない。

 果たして、幸いにも魔法は成功した。出来上がったのは、氷の刃を持つ長剣だ。双剣よりスピードは劣るが、敵である大蛇もその大きさ故、そこまで速さは無い。十分だろう。

だが、魔力の気配に気づいたのか、大蛇が黒羽達の潜む木の陰に、にじり寄ってくる。

「切れるのか?」

 どう見ても、切れるようには見えない。それどころか、氷でできた刃が折れかねない。

「切りませんよ。固めるんです。出来るか分かりませんが、凍らせれば機能は停止するはずです」

 水を操れるなら、氷も操れますし、と続ける。

「くろにぃ、私は?」

 それまで黙っていた彩芽が口を開く。

「何すれば良いの?」

「俺も行ってくるから、さっきみたいに真空刃で援護してくれ」

「わかったー頑張ってねー」

 敵の触手に向き直る。

「よし、行くか」

 覚悟を決めて、地面を蹴る。スピードは黒羽が上回ってる。気付かれるが遅い。

「はああああ————!」

 その巨体に刃を突き立てる。

「クソッ! やっぱり硬え!」

 動きが止まった黒羽を狙い、別の触手が伸びる。

「——っ!」

 通らない刃を支点に、強化した筋力で強引に体を捻って避ける。空振りした触手は地面を叩いて砂埃を巻き上げるが、気にしない。

「てええいっ!」

 雫は氷の長剣を巨躯に叩きつける。刃が通らないことは分かっている。纏った氷を操り、その大蛇を包む。

「これでっ——!」

 飛来した空気の刃が、氷で動きの鈍った巨体を揺らす。しかし、傷が付くほどの威力ではないようだ。

近距離の二人の攻撃が、自分に通らないことを確認した大蛇は、狙いを彩芽に定める。遠方からの妨害を阻止しようとしているようだ。

「私を忘れてるんじゃないっ?」

 大蛇の頭に数本の矢が刺さる。それは大きな爆発を起こして、その巨体を地面に叩きつけた。

「時間はたっぷりあったからね、特別強力なやつぶち込んどいてあげたわ!」

 得意げに、あまり無い胸を張る志音。

 しかして、大蛇の狙いは志音に切り替わった。周囲の木々の間を縫って、志音の元へと飛ぶ。

「いやぁ! こっち来たぁ!?」

「させねえよっ!」

 黒羽は持っていた刀を待機形態に戻し、駆け出す。

「お兄さん!? 武器はっ!?」

「まあ、見てろ。俺の予想では成功するはずだ」

 不敵に笑って雫に応える。

「来い! 〈天明〉!」

 構えた拳を移動する大蛇に当て、叫ぶ。

 すると、呼び出した刀は、その大蛇に突き刺さった状態で現れた。本来刃があるべきところに、その巨体があったからだ。

「これでどうだ!」

 突き刺さった刃から、己が持つ魔力を全て注ぎ込む。

 すると、堕天使由来の膨大な魔力に耐え切れなくなったその巨体は、跡形もなく吹き飛んだ。

「ケイ! 準備は!」

「ああ、出来たぜ! 燃やし尽くせ! 〈炎獄(プロミネンス)〉っ!」

 大蛇、触手の母体を焼き尽くす炎獄は、それが灰になるまで燃え盛る。

「あとは術者か……ケイ、探せるか?」

「デカい魔法を撃たせた後に、まだやるか……良いけどよ」

 ケイはそう言って感情検知型の索敵魔法を使う。

 しかし、

「見つからない……」

 どこにも存在が感じられない。

「感情がない……? いや、そんなはずは……」

 困惑するケイ。

 あの敵はどう見ても生きていた。生きている者は、すべからく感情を持つ。しかし、その気配が感じられない。

『いやー面白い物が見れました。これだけでも収穫ですネェ』

 母体ではない木の陰から、触手を操っていた張本人、カラコックが姿を現す。

「ではでは、救援も来たようですし、これにてお暇(いとま)させていただきます」

 最後まで丁寧に腰を折ると、そのまま頽(くずお)れて灰になる。

「人形だった……ってことか。道理で……」

 その姿を見て、自分の魔法に引っ掛からなかったことを、納得するケイだった。

また更新が一日空きました、夏樹です

これにて第二章完結……の、はずです

常に感想、評価、レビュー、ブクマはお待ちしておりますので、よろしくお願いします!

ここが悪い等の意見も受け付けてます。それが私の糧となりますので

では、次回も楽しみに待ってくれると嬉しいです

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