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白翼の堕天使  作者: 紡未夏樹
第二章
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第五部 〈少女は彼の元へ〉

 空きっ腹に辛い六時間目。こんな時に限って授業は戦闘訓練である。

「動きが鈍いぞ北条!」

 訓練場を使った模擬戦闘。時間の都合によりルールは一撃必殺だ。

「そんなこと言われてもな……昼食を抜いたんだ。これくらい許してくれ」

「教師には敬語を使え!」

 どうやらプライベートと仕事の区別ははっきりしているらしい。

「……頑張ります」

 相手を追う黒羽。ちなみにその相手とは、先日正体を隠すことを止めた少年、一之瀬ナナトだ。

 先日戦った時ですら、辛くも収めた勝利だが、現在黒羽は魔法と封じられ、更には空腹状態だ。とても勝てるとは思えない。

 案の定、気付いた時には目の前にナナトがおり、拳撃をモロに受けることになった。

 訓練終了の合図がなり、千春の怒声が飛ぶ。

「北条! 授業が終わったら職員室に来い!」

 千春の言葉を訓練場の外で聞いていた志音は、近くに居たケイに問いかけた。

「どう思う?」

「いや、主語はどうした。それだけじゃ分かんねぇぞ」

「先生の言葉よ。黒羽を呼び出したじゃない。何でだと思う?」

「まあ、普通は呼ばないしな。多分、あの人の事だから、また裏で黒羽を愛でようとしてるんじゃねぇか?」

 子離れできていない彼女は、ことあるごとに黒羽の居る所へ現れては黒羽に飛びついていた。もちろん、当の本人は必ず避けるのだが。

「やっぱりそう思う?」

「まあ、それしかないだろ。もっとも、他のやつらは完全に憐れんでるけどな」

 フッ、と笑って周りを見るケイ。

 彼の言う通り、周りの生徒は「やっちまったな」という視線が大多数だ。中には、千春が黒羽の母親だと気付いている人も何人か居るが、まさか裏で愛でようとしているとは思うまい。前述したように、意外にも千春はプライベートと仕事の区別ははっきりしている。

 彼らが話している間に授業は進み、最後の生徒も訓練を終えたようだ。

「よし、終わったな。じゃあ各自解散! 北条、お前はこっちだ」

「さて……どうなることやら……」

 ケイは、面白そうに肩を震わせながら教室へと歩き出す。



「お、戻ったな。どうだったよ先生の指導は」

「分かってて聞くな。厳しくしてすまない、と泣いて謝られた」

「ブフォッ! そりゃ傑作だな! ックク……ああ、面白れぇ」

 目の端に涙を浮かべながら笑うケイ。

 いくら何でも笑い過ぎだろう。黒羽が冷めた目線を送る。

「まあ、それは置いとくとして……ククク……」

「全然置いとけてねぇだろ」

「先に志音は訓練場に向かった。さっさと行くぞ。遅れたら今度こそちゃんとしたお怒りが入るしな」



「チームに入る?」

 放課後、訓練場で待っていた雫の口から飛び出したのは、意外な言葉だった。

「はい、私もこのチームに入ります!」

一体何を言っているんだ。

「あー、雫ちゃんは他のチームに入ってないの?」

 志音がもっともなことを聞く。

「入ってますよ」

 ……本当に何を言っているんだ。

「でも強い人が居るチームの方が良いじゃないですか」

「まあ、それはそうだがな、訓練なり、練習なりすればそのチームも強くなるだろう」

 それこそ、ポテンシャルは無限にあるのだ。雫より強い人物が出ないとも限らない。

「そうかもしれないですけど、でも決めたことですし、お父さんにも言ってきましたし」

 その言葉で黒羽は追い詰められたことを悟る。

 つまり彼女がここに居るのは、司令官である永久に止められなかったという事だろう。そしてそれすなわち承認を得たという事。ここで本部の司令官の指示があったならば、逆らうわけにもいかない。

 しかし、

「こんなに人多くて良いのかしら」

 志音が呟く。

 現在チームの人数は志音、黒羽、ケイ、彩芽の四人。そこに雫を加えると合計五人。他のチームが平均して三人と考えると、少し多すぎる気もする。

「大丈夫。チーム上限は六人だから」

 意外なことに彩芽が口を開く。

「志音。さすがに彩芽より知識無いのはどうかと思うぞ。チーム人数については学校に入ったとき、真っ先に教えられたしな」

「うっさいわね黒羽! ど忘れしてただけよ!」

 本当だろうか。普段の彼女の知識量からするとそれすら怪しい。

「そういう事なので問題は無いんです」

「なら良いんじゃないか? 戦力アップは良い事だろ」

 ケイがまとめに入る。

「で、でもほら、まだこの子のこと良く知らないじゃない」

「あ、そうでしたね。じゃあ、自己紹介します。あたしは音羽雫、中等部三年生です。武器は双剣で、趣味は戦う事。先日はお兄さんと戦いました。とっても強かったのでお気に入りです!」

 そう言って黒羽の腕に手を回す雫。

「なっ……」

「ちょ、ちょっと、なにやってんのよアンタ!」

 とっさの事だが、すぐに反応して引き剥がしにかかる志音。その様子にケイが怪訝な顔をする。

「さっきからどうした志音。お前らしくないぞ」

 明らかに分かっている様子のケイが、からかうように声を掛ける。

「ケイ、ちょっと来なさい」

「なんだよ」

 ケイを引っ張ってその場から離れる志音。

『あの子、どう思う?』

『どう、って言われてもなあ。まあ、お前の恋敵(ライバル)といったところか』

『分かってるじゃないの。じゃあ、何でチームに入れても良いなんて……』

『面白そうだからに決まってるだろ? やっぱり色恋沙汰はこうじゃないとな』

『はあ、アンタに相談したのが悪かったわ。今度からちゃんと人を考えましょう』

 そう言って黒羽達の元に戻る志音。

「——ですから、お兄さんにはもっと強くなってもらわないと! 今から一緒に訓練しましょう!」

「それは構わないが、ほら、チームでも訓練するって言ったろ? まずはそっちからだな」

「もー、お兄さん。あたしとチームどっちが大事なんですかっ」

「なんだそれ、ともかくだな——」

「——あー、はいはい、離れて離れて」

 あれこれ話している黒羽と雫の元へ割って入る志音。

「なんですか? チームに入れてくれるんですか?」

「そうね。チームに入れるわ。皆が良いって言ってるのに私だけ反対しても仕方ないし、貴女も強いのならチームにとって悪い事ではないし……」

 自分に言い聞かせてるかの様に次第に声を小さくさせながら、ブツブツと何かを話している。

「やったー! じゃあ、早速やりましょうお兄さん!」

 黒羽の腕を取り、走りだす雫。

「あ、私も行くー」

 バタバタと袖の余ったジャージを振りながらその後を追う彩芽。

「それに私より強いし、私より頭いいし……」

「志音、もう行っちまったぞ」

「——えっ?」

 遠くで三つの人影が走っている。

一日更新空いてすいません! 今週は諸事情により本当に更新遅くなります!

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