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白翼の堕天使  作者: 紡未夏樹
第二章
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第一部 〈少女の望む戦い〉

「ねえ、くろにぃ。戦いで折れた刀ってどうしたの?」

 とある休日の午後。

 黒羽の自室に入り浸って漫画を読んでいた彩芽が、脈絡もなく話を振る。

「刀? あれなら直してもらったぞ。もちろんヴァイスの力は無くなっているが、十分扱える」

「そっか。魔法も使えるしね」

「そのことだが、俺はあの力を使いたくはない。少なくとも学校では、な」

「どうして?」

「そう易々と使うべきではないような気がする。使えるものは使うべきと話したが、俺のこの力は事情が違う。今まで俺に魔族の血が混ざってるなんて、誰も思ってなかっただろう。それなのに急に魔法なんか使いだしたら、それこそ皆を困惑させて、統率を乱してしまうかもしれない」

 考えるべきなのはそれだけではない。

「使ってみて分かったが、この力は強大過ぎる。一度使うだけであのザマだ。とても扱いきれるとは思えなかった」

 過剰過ぎる力は身を滅ぼす。そのことをあの時実感した。

 黒羽とて、使えるものは使いたいと考えている。それで戦闘が楽になるのなら万々歳だ。

 だが、一度使うだけで倒れてしまうような危うい力に、命を掛けたくはない。万が一仕留められなかった場合、動けない体を敵前に晒すことになってしまう。それはあまりにも危険過ぎた。

「使うにしても、訓練が必要だ。だが、訓練する場所が無い」

「ほえー、大変だねー」

 さして関心が無いかのような返しをする彩芽。

「そんなことより、だ。お前、休日だろう。どこか出かけないのか? クラスに友達は出来たのか?」

 転校したてだった彩芽は、所属するチームも黒羽達のものであり、同級生と交流を図る機会が多少減るとはいえ、やはり休み時間などはクラスメイトと話す機会はあっただろう。遊びに誘われたりもしているはずだ。

「みんな髪とか目の事言ってくるから嫌ーい」

「……そうか」

 天使の羽のように綺麗な白い髪も、宝石のような赤い瞳も、人と違うというだけでコンプレックスになりえるのだろう。

「だがな——」

 ——ピンポーン

 インターホンの音が鳴る。

 ——誰だ?

 黒羽が自宅を教えているのは志音とケイくらいしかいないが、二人は家に来る場合、事前に連絡を入れるタイプの人間だ。連絡が来ていない今、二人である可能性は低い。しかし、母親である千春なら連絡は入れないかもしれないが、インターホンなど使わないだろう。

 宅急便か何かだろうか。

 ノブを回し、扉を開く。

「彩芽ちゃん! あーそーぼー!」

 ツインテールの少女。白無地のTシャツにジーパンという、いかにも元気っ娘という言葉がピタリと当てはまるような恰好をしていて、耳元では刃を模したイヤリングがキラリと光る。

 彩芽の同級生だろうか。友達は居ないような口ぶりをしていたが、そんなことはなかったようだ。家まで教えるのはどうかと思うが。

「およ? 彩芽ちゃんじゃない。お兄さんですか?」

「まあ、そんなところだ」

 幼馴染ならば似たようなものだと考え、特に否定はしない。

 少女は首をかしげて何やら考え込むそぶりを見せる。

「どうした」

「いや、お兄さんが居るとは聞いてなかったんですよ」

 黒羽の家に居候しているという情報は聞いていないのだろうか。

「まあ、兄というか、幼馴染だな。彩芽は今、うちに居候している」

 家まで来たのならそれくらい知っていそうなものだが、彩芽は教えていないのだろうか。

「なるほど、幼馴染のお兄さんなんですね! お名前は?」

「俺は黒羽。北条黒羽だ」

「北条? もしかして新しく来た先生ってお母さんだったりするんですか?」

 やはりと言うべきか、関係を問われる。

「さあ、どうだろうな」

 あくまで自分からバラすつもりはない。

「それよりも、お前の名前を聞いてなかったな。教えてくれるか?」

「あ、そうでしたそうでした。あたしは音(おと)葉(わ)雫(しずく)といいます!」

 敬礼でもするのかと言いたくなるほど姿勢を正して自己紹介を始める雫。

「中等部三年で、武器は双剣で、趣味は強い人と戦う事で、それから——」

「まてまてまて、いきなり喋り過ぎだ。用事は彩芽に用があるんだろ? 呼んでくるから待ってろ」

 趣味を指折り数える雫を家に入れ自室に向かい、当然部屋に居るであろう彩芽を呼びに向かう。

 しかし、そこに彼女の姿は無く、代わりに不自然に盛り上がった黒羽の布団があった。

 もちろん、慈悲は無い。

「痛い!」

 振り下ろした手刀の先から悲鳴が聞こえる。

「何の用なのさー?」

「客だ。降りろ」

「ぐふぅ……」

 布団を引き剥がすと、転がり落ちた彩芽は腰を打ったのか悶えている。

「そ、それで、客って誰……?」

「音葉雫とか言ったな。ツインテールのやつ」

「……誰?」

「知らないのか?」

 家を教えたのではなかったのだろうか。

「知らないよ。というか家を教えた記憶もないから、調べて来たんじゃない? なんか怖いけど」

 何の為にだろうか。

 まだクラスに馴染めていなさそうな彩芽と打ち解けるためか、はたまた興味本位か。

 それとも別の理由か。

「とりあえず降りないことには始まらないから来い」

「えーめんどくさいなー……」

 文句を言いつつも、降りるしかない彩芽は素直に従う。

「お、来た来た。彩芽ちゃん、遊ぼ!」

「やだ」

 即答である。

「まあ、そう言うと思ったよ、うんうん。とりあえず遊ぼう」

「私の言ったこと聞いてないよね。ともかく、余計なお世話。そもそもなんで私と仲良くなんてしようと思うの?」

 彩芽の言葉も当然と言えば当然だ。仲良くする気のない相手と仲良くしようなど、物好きのすることだ。

「んー……何でだろうね。——強そうだから?」

「は?」

 雫の謎発言は、黒羽と彩芽、二人を困惑させる。

「強い人と一緒に居たら、面白いことが起きそうでしょ? 大きな事件に巻き込まれたり、強い敵と戦えたりさ」

 余程腕に自信があるようだ。死と隣り合わせという状況を、自ら進んで望む者は少ない。

「何でそんな危険な事を望んでるんだ? 楽な道を選べるなら、それに越したことはないだろう?」

 こんなことを言ったら、努力を否定するようなものだが、選択肢があるなら楽な方を選ぶ。それが黒羽の考えだ。

「でも、戦うの楽しいですよ? あたしとしては、強い敵と戦うのも趣味の一貫なので楽な道ですし、だからこそ遊びに来たんです。彩芽ちゃんがうちに転校してきた時、この人は強くなるって思ったんですよ。強い相手と戦う機会を見逃す手はありません」

 とても楽しそうに笑いながら話しているが、黒羽としてはあまり共感できる考えではない。

「先輩も強そうだから気に入りました! 遊びましょう!」

 おかしな事を言っているが、本人は満面の笑みである。

「気に入ってくれるのはありがたいが、遊ぶというのはつまり、戦うことでいいのか? ここでやるつもりはないぞ」

「分かってるじゃないですか。学校でやりましょう」

「学校? 今から訓練場の申請しても遅いだろう」

 休日でも訓練を行う生徒のために、学校自体は開放されているが、現在の時刻は午後一時。今から申請しても、先客で埋まっていることだろう。

「それは大丈夫です。行きましょう」

「待て。行くとは言ってないぞ」

「行きましょう」

「私は行かないよ」

「彩芽ちゃんも行こうよ」

「行かない。そもそも着替えてすらいない」

 休日、家から出るつもりもなかったため、彩芽はあまり人様には見せられないような恰好をしている。

「そっか、じゃあ着替えてきて! そしたら行こう!」

 黒羽も賛同するように頷いく。

「まあ、行く行かないは別として着替えろ。さすがにその恰好は無い」

「別にくろにぃに見られるだけなら大丈夫なのに」

「それは俺が男として見られてないようで悲しくなるから、それも含めて着替えろ」

「ちぇー……」

 ブツブツ言いながら階段を上がる彩芽。少しして扉の音がした。

「さて、お兄さんも着替えるんですか?」

「俺も行かなきゃダメなのか?」

「もちろんです。暇でしょう? なら体を動かしましょうよっ」

「俺としては暇なら寝るに限るんだが……」

「ダメです! お兄さんには強くなってもらわなきゃ」

 どういう理屈だ。よっぽどそう言ってやりたいが、強くならないといけないのは事実でもあるので、言い返す気にもなれない。

「というかこれ、彩芽の着替えが終わったら行く流れになってないか?」

「あ、バレました?」

 てへっ、と舌を出して笑う雫。

 案外、戦い戦いと言ってはいるが可愛いところもあるのかもしれない。

第二章突入です! ぜひ感想、評価、レビュー、ブクマをお願いします!

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