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ダイスケ -人類再生を託された子育てロボットの生涯-  作者: 陰謀論爺(インボーロンジー)
第一章 誕生
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9、日本へ


 スカイクルーザーを手に入れたおかげで、私たちは容易に魚を入手する事ができるようになった。当初、子供たちがこの僕らの家を捨て、何でも揃うエリアリバティで暮らすと言い出すのではないかと心配したが、彼らは不便なこの家を出るとは言い出さなかった。

 ある夜、ジュンイチが私に質問をした。

「ねえ、どうして僕らは日本人なの。ここアメリカでしょ」

 そろそろ彼らが生まれた訳を話す時が来たと私は感じた。そこで私はモモコとタモツを呼び話しを始めた。

「以前、人類が避けようのない危機に襲われた話をしましたね」

「そうそう原因不明の病気で次々と人が死んだって。それで人類再生プログラムが作られて、オーストラリアにマスターが置かれたって」

「そうです。これから君たちに話す事を忘れないでください。君たちを生み出すためにどれだけ多くの人が努力をしたかを」

「なんか学校の先生みたいだ」

「シッ!」

 モモコがタモツをにらみつけた。

「人類を襲った謎の病気は依然原因が特定されませんでした。医者はもちろん、細菌や遺伝子の研究者たちなど、ありとあらゆる立場の人たちが原因の追求にあたりましたが結局それを特定する事はできませんでした。世界のリーダーたちは最悪のシナリオを想定し、西暦二四五〇年、人類再生プログラムの作成を決定しました。その責任者に選ばれたのが日本の成田博士です」

「あっ分かった!だから僕たち日本人が生まれたんだね」

「いいえ。それは違います。成田博士が選ばれたのは、謎の病気による人類絶滅の回避が不可能とされる以前から人類再生プログラムの必要性を訴え、独自に研究を進めていたからです。また人種の区別無く再生されるべきとの強い信念を持っていた事が世界的に支持された理由の一つです」

「ふううん」

「成田博士は任命される以前より優秀なスタッフを集めていました。成田博士が全体のシステム設計とマスターのプログラム、沢村研究員が人工知能と各設備設計、西田研究員が各関係機関との調整などを行うコーディネーターとしてその任にあたりました」

「えっ!三人だけ」

「そうです。三人だけです。この時点で優秀な研究者はほとんど生き残っておらず、生きている研究者のほとんどが病気の原因追及にあたっていたのです。つまりそれだけ人類の力は衰えていたのです」

 私はさらに続けた。

「世界中の人々は、君たちの食料や衣類の元となる元素を残すために、自分たちの生活を極限まで切り詰め、また自分自身の財産を元素単位に分解し、貯蔵庫のあるオーストラリアへと送り続けました。もうこれ以上、地球を傷つけて資源を採取する事はしなかった。君たちの為にも。そして、人々はさらに自分たちの文化や言語、芸術など君たちに必要となるであろうありとあらゆる資料をデータ化し、マスターのデーターベースとなる電子ライブラリへと送りました。自分たちに死が迫った、残されたわずかな時間のすべてをその作業に費やしたのです。その甲斐あって、人類再生プログラムの準備は無事整いました。それとほぼ同時にオーストラリアの地下に建設されていたマスターが起動しました。そして、マスターに最初で最後の命令が成田博士から与えられたのです。『地球の環境が回復し人類の生存が可能になり次第人類を再生せよ』と。それから十八年後、人類は地球上から消え去りました。命令受諾から三千余年。人工衛星から送られたデータ、各地に設置された観測機器のデータは共に自然が完全に回復した事を示しました。西暦五千五百年、マスターは人類再生プログラムを実行に移したのです」

「なんかワクワクするね」

「順調に見えた人類再生プログラムでしたが、大きな問題を抱えている事が分かりました」

「なになに!」

 モモコが急かすように言った。

「エレメントにより再生された人間は、肉体的にはまったく問題は無りませんでした。ですが……。その心を再生することができなかったのです。私たち子育てロボットは必死に子供を育てました。言葉を教え、計算の仕方を教え、笑い方、怒り方も教えました。やれと言えば何でもできる。ですが自分からは一切行動は起こさない。まったく自分の意志を持たなかったのです。暑いとも、寒いとも言わない。腹が減ったとも言わない。目の前に食べ物があっても、食べろと言わないと餓死するまで食べない。エレメントで作られた人間は、それまで本能と考えられていた行動さえ機能していなかったのです。つまり人間においては、その本能さえ心の支配下にあったのです。ただ、さすがに生命に直結する自己防衛反応だけは心の支配を受けていなかったようですが……。マスターは育て方を変え、何度も何度も再生を試みました。ですが結果はすべて同じでした。前回、そう君たちが見た第三十五回の再生実験では心を持たぬまま外界で育てる事にしたのです。結果は君たちが見たとおりです」

「じゃあどうして僕たちには心ができたの?」

「ジュンイチ、覚えていますか? 君が三歳の時でした。君は私に言いました。『イチゴ タベタイ』と」

 ジュンイチは首を横に振った。

「あのときはラボ・クリブが大騒ぎになりました。リビングにあるメインスクリーンに子供がイチゴを食べる映像が流れたとき、ジュンイチが自らそう言ったのですから。それはまさしく心の発芽でした。それからが大変でした。今後に備え、色々な食べ物を用意したかったのですが、イチゴと鳥以外のエレメント用データはありませんでした。それもそのはずです。エレメントが開発された時には人類は極端な飢餓に陥っていて、食べ物らしい食べ物は無かったのですから、データなど作れるはずも無かったのです。その時、ジュンイチがイチゴを食べたいと言った時には地上の自然はすでに回復していました。それで作業ロボットを投入し、自然の中から果物や穀物、鳥や魚などを捕獲しデータ化していったのです。それだけではありません。人類が生きていた頃の料理の画像やレシピを解析し実際に料理が作られデータ化されました。同時にエレメントのメニューも一新され新型エレメントとなったのです。その後すぐです。モモコとタモツに心が生まれたのは」

「へえ、そんな事があったんだ」

「第三十六回、つまり君たちの時です。マスターは新しい方法を試みました。今までは成田博士の意志に基づき、すべての人種から無作為にDNAデータを選び、人類を再生していました。しかし、度重なる失敗、しかも旧人類が残してくれた資材、つまり食料や設備の元となる元素の残りが心もとなくなっていました。そこでマスターは無作為抽出をやめ、作為的に実験を行ったのです。もちろん、マスターと言えどもコンピューターが自らそのような判断をする事は出来ません。おそらく、私の先輩にあたる人工知能を持った子育てロボットが提案し、それを選択肢に取り入れ、判断したのだと思います。作為的抽出と言っても特別な事ではありません。登録されているDNAデータを最初から順番に選んだだけです。日本で始まった計画ですから当然のことながら、手近な人間のデータから順番に登録されていました。それで今回は日本人ばかりになったのです。疑似体験装置に展開する仮想空間も日本人ばかりですから日本に。そして年代は人類が平和に過ごした最後の時期、西暦二千年に設定されたのです」

「やっぱ日本人か!日本人だから再生できたんだぜ!」

「いいえ。違います。謎の病気が発生した時、DNAデータは隅から隅まで調べ尽くされました。ですが、心の発生につながるデータはひとつもありませんでした。それに、当たり前の事ですがDNAデータを提供した人たちは人種に関わらず、みな心を持っていたんですから」

「じゃあどうして」

「分かりません。ただ、心が生まれた後は急速に成長する事はわかりました。問題は心が生まれるきっかけです。それさえ分かれば人類再生プログラムは成功します。ですが、心が宿った君たちが逃亡してしまっては、そのきっかけを探る手段がありません。おそらくマスターはもう次の実験を始めているでしょう。ですから君たちが外界で勝手な事をすると次回の実験の邪魔になるのです。マスターは君たちのことを快く思っていないと思います。なのであまり派手な行動は慎んでください」

「やっぱマスターか、俺たちを目の敵にしてるって事だな」

「ねえねえ、で、結局なぜ心が生まれたかって事は謎のままなの。謎の病気と同じみたいに。私たちの事は調べたんでしょ。少しはヒントか何か見つかったんじゃないの」

「何も分かっていません。完全に謎のままです」

「日本へ行けばわかるんじゃねえか。なんたって日本人から心が生まれたんだから」

「それは無いと思います。ですが……」

「何。なにかあるの」

「人類再生プログラムが成功し、二十歳になってラボ・クリブを出る時、全員に見せる成田博士から新人類に送る映像メッセージがあるのですが、それを見れば何かヒントになるかもしれません」

「じゃあ、早く見ようぜ」

「その画像データはマスターの中にあります」

「じゃあダメじゃん」

「どんな内容なの」

「私には知らされていませんので分かりません」

「やっぱダメじゃん」

「でも、オリジナルデータが成田博士の研究室にあると記録されています。人類再生プログラムでは、マスターになんらかの障害があった場合には、そのオリジナルデータを見せるように計画されています。つまりそれだけ重要なデータだと言う事です」

「やっぱ日本へ行くしかないじゃん」

「それでは行きますか。日本へ」

「賛成!」

「おお、じゃあスカイクルーザーでひとっ飛びするか」

「残念ながらスカイクルーザーでは航続距離が足りません。途中に何ヶ所か充電できる場所があるのですが、どのようなルートをとっても日本まで到達する事は出来ません」

「じゃあ、日本へ行くのは無理なの?」

「いいえ、シャトルが用意されています」

「シャトル?!」


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