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ダイスケ -人類再生を託された子育てロボットの生涯-  作者: 陰謀論爺(インボーロンジー)
第一章 誕生
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6、一部始終



「ああ、疲れた!さあ早いとこメシにしようぜ!」

 確かに今日はみな良く働いた。食堂の一角を片づけ、二階にある個室から使えそうな物をこの場所に運び込んだ。安全面を考えれば二階で寝起きした方が良いかもしれないが、この建物の二階には窓が一つもない。十二年間窓の無い部屋に閉じこめられていた子供たちには抵抗があるようだ。しかし、この食堂には大きな窓があり外が見渡せた。またトイレが一階のみと言う事もあり全員一致でこの場所に決定した。なによりエレメントが近くにあると言う安心感が本当の理由のようだ。

 ただこのエレメントはジュンイチたちの部屋にあった物と違い旧式で食事のメニューが「栄養食」のひとつしか無い。しかも操作方法が英語というのも子供たちには不評だった。

 また安全面に関してはあまり心配しなくても良さそうだった。タモツが見つけた子犬はガイコツを抱いていた子育てロボットから転送したデータによると、どうやら第三十五回人類再生実験の折、ペットとしてエレメントにより再生された犬の子孫のようだ。やはり、あの過酷な環境の中を生き残れる大型動物はいなかったのだろう。今のところ親犬の存在は確認できていない。ちなみにタモツが見つけた子犬は発見者によって「ポチ」と言う名前が与えられた。

 結局夕食に用意した栄養食には誰も手をつけず、ラボ・クリブから持ち出した各自の好物を食べていた。栄養食は明日の朝ご飯として食べる約束になっている。

 夜も更けたが誰も寝ようとはしなかった。

「ねえ、ダイスケ。僕、何がなんだか分からないよ。少しは教えてもらったけど結局何がなんだか。今までこの地球で何が起こったの」

「ダイスケだけ知っててズルイ!」

 モモコが頬を膨らませた。

「分かりました。私が知っている事をすべて話しましょう。長くなりますが構いませんか?」

 三人は目を輝かせて何度も頷いた。

 食堂の大きな窓から見える空には丸い月が輝いていた。

「西暦二〇五〇年頃からです。それまでオゾン層の破壊だとか温暖化だとか、いろいろな環境異変が心配されていましたが、それらが一気に現実化したのです。そればかりが予想を遙かに上回る気象変動が地球を襲ったのです。異常気象は回復する気配を見せず、どんどんと悪化していきました。洪水と干ばつ、海面上昇、巨大台風などが各地を襲い食料の生産が一気に低下、世界的な食糧危機に見舞われたのです。これに伴い各地で人々の争いが続き地球は飢えと憎しみに包まれました。また空からは有害紫外線が降り注ぎ、植物は枯れ、動物たちは死に絶えました。もう地球で人間が生きていく事はほとんど不可能な状況に陥っていました。この時、地球の人口はすでに三分の一にまで減少していました」

 私は話を止め、窓から見える大きな月に目をやり、そのころの地球を想像した。私も聞いただけで実際の光景は見ていない。私は三人の子供を抱え不安に襲われている。だがここには豊かな自然があり、住む場所も食べ物も確保されている。当時の人間は、特に子供を連れた親たちはどんなに不安だっただろう。

「ねえ、それから」

 ジュンイチが待ちくたびれて言った。

「ああ、それから……。それでも人々は生きる事を諦めなかった。アメリカ議会は地球以外の惑星への移住を立案し、数百機の偵察衛星を宇宙のすべての方向へ向け放ちました。ヨーロッパ各国は地下都市を建設する計画を推し進めましたが、この計画には食料の確保という大きな課題が残されていました」

「おい、日本はどうしたんだ」

 タモツが自分の出番はと言わんばかりに割り込んだ。

「日本、そう日本は大筋で地下都市計画に賛同しました。それで、日本は地下都市建設に必要な掘削機械の開発を進めると共に食料確保のための研究を推し進めました」

「やっぱ日本は技術だぜ」

 タモツが誇らしげに言った。

「地下都市の建設は急ピッチで進みましたが食料の確保についてはまったく目処が立ちませんでした。アメリカが宇宙に放った偵察衛星は新しい惑星を見つけ出す事が出来ず、次々と宇宙の塵となっていきました。この時、すでに地球の全人口は五億人を下回り、資力の無い小さな国々は次々と地図の上から消え去っていったのです」

「大きな国は助けなかったの」

「大国は自分たちの国民を守るために精一杯と言うより、自国の国民さえ守れず人口は急速に減少していました。そんな頃です」

「なになに!」

「画期的な装置が発明されました」

「日本だね!」

「いいえ、世界中。それも大学生たちが開発した装置でした」

「何、何を作ったの」

「物質合成装置エレメントです」

「元々リサイクル用の装置としてアメリカの企業が開発を続けていた物だったのです。すべての物はいろいろな元素が集まって出来ています。そこで廃棄物を元素単位に分解して再利用しようと言う装置でした。ですが世界的な混乱でその企業が倒産し、開発が途中で止まっていました。ネット上に残されていたその装置のデータを学生たちが見つけ出し、逆の動作をさせる仕組みを作り上げたのです。製造したい品物の元素配列を正確にスキャンして、エレメントで元素をその通りに組み上げて再生する。つまり物体の完全コピー装置。それがエレメントなのです。ですがその頃、すでに食料とするべき野菜や肉などほとんどの物は食べ尽くされ残っていませんでした。コピーする元の品物が無かったのです。そこで科学者たちは炭素、水素、酸素などを人工的に配列し作り出したのがあの栄養食です」

「ああ、あれね」

「でもよく大学生にそんな装置が開発できたんだね」

「当時大学生はヒマでした。勉強なんてしている場合ではありませんでしたから。大学は教授も管理者も誰も居ない、研究装置は使い放題、しかも全世界の大学はネットワークで繋がっていましたから、頭脳とやるきがあれば何でもできたんです」

「でも勉強しなくてもいいなんて、うらやましいなあ」

「うらやましいなんて。彼らはの前には死がせまっていたんですよ」

「今の僕たちと同じだね」

 私には返す言葉が無かった。

「それで、それで」

「エレメントの開発により、アメリカの惑星移住計画は中止され、地下都市建設計画が全世界で本格的に進められました。しかし、地下都市に収容できる人数には限りがありました。資力、技術力の無い国は地下都市を建設する事も出来ず、大国でさえすべての人を収容する事は出来なかったのです。地下に潜れたのは一部の特権階級の人たちと金持ち、それに特別な技能を持った人たちなどが優先されました。多くの人たちは地上に取り残され、エレメントの恩恵も受けられませんでした。そしてもう一つ」

「なんなの」

「人類を救うと思われたエレメントですが、思わぬ欠点がありました。コピーを行う際大量の電力を消費したのです。当時太陽電池パネルを使い電力を作り出していたのですが、一気に需要が増え、深刻な電力不足に陥りました。そして、地下都市同士で電力の奪い合いが起こりました。その上、地上に取り残されていた人々が暴徒化し、地下都市の襲撃、太陽電池パネルの破壊など、地上は大混乱に陥りました」

「そんなの警察や軍隊がでていけばいいじゃん」

「その警官も軍人も地下へは入れてもらえず暴徒となっていたのです。その時、一部の国で、決して使ってはいけない兵器が使用されました。わずか数百人の暴徒を制圧するためだけにも使われたのです」

「何?」

「核兵器です。軍隊を失った政府はボタン一つで壊滅的打撃を与えるその武器を自国民に対して何度も使用しました。これが環境の悪化にさらに拍車をかけました。そして、ついに地上に残された人々は全滅しました」

「ひどい」

「多くの犠牲を払いましたが、地下に潜った人たちは救われました。この時、世界の人口は一億人足らずでした。それから人類は平和に暮らし、人口も順調に増えていきました」

「えっ? 絶滅したんじゃ無かったの」

「新たな試練が人類に襲いかかったのはそれから三百五十年ほどしてからでした。原因不明の病気が発生し、次々と人が死んでいきました。八億人まで回復していた人口は、また急速に減少していったのです。まるでカウントダウンが始まったように」

「でっ、原因はわかったの」

 私は首を横に振った。

「人類は絶滅の危機から逃れる事が出来ないと悟った時、人類再生プログラムの作成が始まりました」

「今度はアメリカ」

「いや、日本です。日本の成田博士を中心とするグループがその任務にあたりました」

 私はすでに日付が変わっているのに気がついた。

「さあ、もう夜遅い。続きは明日話しましょう」

「ええー! せっかくいいとこまで来たのに!」

「これからが僕らに関係ある事でしょ」

「そうですか。眠くないですか」

 三人はそろって首を横に振った。

「そうですか……。その時すでに地球の人口は一千二百万人。人間の力により大きな事業を興す事は難しくなっていました。そこで作業用のロボットが開発されると共に、エレメントを使ってまったく新しい素材が次々と開発されました」

「作業用ロボットは分かるけど新しい素材って何のために開発されたの」

「その頃地上は荒れ果てたままでした。相変わらず有害紫外線が降り注ぎ、緑の無い不毛の大地が広がっていました。人類再生は地球の自然が回復した後になります。何百年かかるか何千年かかるか分かりません。その為に耐久性を最優先に考えた素材が作られました。新しく生まれる人類の為に残す機材が壊れないようにと。そして、四十二万台の作業用ロボットがオーストラリアへ投入されました」

「四十二万台!」

「オーストラリア?」

「そう、人類に残された時間は限られていましたから急ぐ必要があったのです。オーストラリアが選ばれた理由は電力の確保です。電力は太陽電池パネルを使って作られます。広い土地と長い日照時間、それに安定した大地が必要でした。地震が起きて発電装置が壊れては困りますからね。すべての資材はエレメントを使って作られます。エレメントの最大の欠点は膨大な電力を必要とする事でした。まず巨大な太陽光発電システムが建設され、そして地下に大型エレメントを備えた生産工場が建設されました。発電システムで作られた電力は慢性的な電力不足に陥っていた全世界の地下都市へ送られました。そしてラボ・クリブへは最優先電力供給ラインが敷設されました。そして……。そして、オーストラリア地下の最深部にマスターが設置されたのです」

「マスターはオーストラリアにいるの」

「はい。今でもオーストラリアの地下から全世界をコントロールしています」

「さあ、もう終わりにしましょう。続きはまた今度と言う事に」

「ええーまだ眠くないよ!」

「ほら窓を見てみなさい」

 空はしらじらと明け始め、森の上を鳥の一群が飛び去った。


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