表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイスケ -人類再生を託された子育てロボットの生涯-  作者: 陰謀論爺(インボーロンジー)
第一章 誕生
3/26

3、計画


 火災の騒ぎがあってからと言うもの疑似体験装置の中での三人の浮かれようはなかった。自分たちの家、つまり部屋の事やそれぞれのロボット事やらを話し合い、楽しい学校生活を送っているようだった。

 だが私には心配事がひとつあった。ジュンイチが外の世界に興味を持ち始めた事である。何かにつけ私に外の様子を聞きたがるのである。私はあまり興味を持たれては困るのでいつも話をごまかすのに苦労している。ジュンイチは好きなゲームもやらず廊下に通じるドアの前に立ち、なにやらスイッチを探したり、呪文を唱えたり、挙句の果てには蹴っ飛ばしたりと外に出たいと言わんばかりである。

 私はエレメントでイチゴジュースを作り、リビングのテーブルの上に置いた。

「ジュンイチ。こちらへ来てジュースでも飲みなさい」

「ねえダイスケ、このラボ・クリブってどうゆう構造になっているの」

 壁蹴りから戻ったジュンイチはいきなり恐れていた質問を私にぶつけた。私はジュンイチの目をにらめつけ、強い調子で言った。

「何をたくらんでるんですか、ジュンイチ」

「ええーっ、ひどいなあ、たくらんでるなんて。ただ自分が住んでいるところの事を知りたいだけだよ」

「本当ですか。ここから逃げ出そうなんて考えても無理ですよ。マスターによって厳格に管理されているのですから」

「本当だよ。信じてよ」

「わかりました。ラボ・クリブの構造はメインスクリーンで簡単に見れますが、そんなことをすればマスターにあらぬ疑いをかけられてしまいます」

 私はそう言うと自分の中に格納されているデータを立体映像として映し出した。

「これがラボ・クリブです。希望の丘と呼ばれる場所の地下に作られています。この部屋の場所はココ、地下三階になります。地下一階から五階までが居住用フロアーで、現在使用されているのは私たちが住む地下三階のみです。地下六階にあたる最下層には機械室などこの地下実験施設の運営に必要な装置などが設置されています」

「この一番下の階から横に伸びている長いのは?」

「それは避難通路です。隣町のエリアリバティまでつながっています」

「隣町!」

 ジュンイチの目が輝いたのを私は見逃さなかった。

「ダメですよ! この避難通路は細菌の進入を防ぐために中が真空状態となっています。私たちならともかく人間は通る事は出来ません。このラボ・クリブに何らかの非常事態が発生し、退避する必要が発生した場合にだけ空気が注入されて避難経路となります。もちろんこの通路もマスターにより厳重に管理されています」

「やだなあ、変な事言わないでよ。じゃあ、ここがこの前みんなが集まったロビーだね」

 ジュンイチが話をごまかそうとしたのはその表情で分かった。それで冷たく答えた。

「そうです」

「それでっと、これが煙が上がってきた階段で、その階段を降りた一番下にあるのが火事が起きた機械室」

「そうです。機械室の隣の大きなスペースが貯蔵庫です。ここに君たちの食事や衣服などの原料となる元素が蓄えられています」

「へえ、それで貯蔵庫の横から上まで伸びているこの階段は?」

「それは非常脱出口です」

「ふうん、でここも真空?」

「いいえ」

「じゃあ警備ロボットとか居たりして」

「ジュンイチ!」

 私はジュンイチをにらみつけた。

「ううん、なんでもないよ。聞いてみただけ。ありがと。もう分かったからいいや」

「ジュンイチ。ここから出る事は絶対に不可能です。二十歳になったらイヤでも出て行かなければなりません。それまで我慢しなさい」

 ジュンイチは天井を見て聞かぬふりをしている。

「もし仮に出る事ができたとしても、あなたは食料も服も住むところも失う事になるのですよ。しかも、もうこのラボ・クリブへは戻る事は出来ません」

「なんで」

「この人類再生プログラムはマスターにより厳格に管理されています。マスターは驚異的な処理能力を持ったスーパーコンピューターです。しかし、私たちのような人工知能は持っていません。つまり出来るだけ人間と近い発想をすると言う考えは持っていないのです。なので罪を許すなどと言う曖昧な思考は一切無く、状況に基づいて正確な判断を下す。それがマスターの使命です。このラボ・クリブから逃げ出し、人類再生実験を混乱させたたあなたには不適合者の烙印が押されるでしょう」

「その烙印がおされるとどうなるの?」

「マスターに抹殺されるかも知れません。抹殺、つまりこのラボ・クリブの最下層にあるリサイクル用エレメントで元素単位に分解され貯蔵庫に入る事になります」

「分解!そんな怖い事言わないでよ」

 その夜ジュンイチはなかなか寝付かれぬ様子だった。

 次の日からジュンイチ、モモコ、タモツのヒソヒソ話が始まった。もちろん疑似体験装置の中での話である。疑似体験装置で作られる仮想空間はマスターが作ったものなので、いくらヒソヒソと話してもマスターの耳元で話しているのと同じである。

 今のところマスターから警告は出ていないが、いつ排除命令が出るか気が気ではない。 排除命令、つまりジュンイチ、モモコ、タモツの三人をこの人類再生実験から排除する事、それは三人の死を意味するからだ。

 子育てがこんなにスリリングな事とは私は思わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ