5、コンタクト
作戦室から歓声が響いた。
「見つけたー!」
哨戒機の映像にはジャングルの中に開けた場所があり、中心に炎。それを取り囲むように人の姿が映っていた。もし、煙が上がっていなかった見つける事は不可能だっただろう。低空を飛ぶ哨戒機ならではの映像である。さらに広場を取り囲むように人工物、おそらくは住居が確認された。どうやら集落のようだ。人口は約百人前後だろう。姿、住居の様子から推測して、心配していた文明社会の生き残りではなく、原始的な生活を続けている人たちのようだ。
スカイクルーザーはすでに準備が整えられている。
「それでは出発します。スカイクルーザーへ乗ってください」
私だけが確認に行く。それが最善だったが、子供たちは了解しないだろう。これも運命。私は私自身にそう言い聞かせた。出発する前に私は彼からこの地域に存在した原住民に関する情報をもらった。このデータは彼がマスターと接触を断つ直前にマスターデータベースからコピーした物だ。そして、艦を原住民が住む場所から最も近い場所へ移動するように彼に頼んだ。
スカイクルーザーはヘリポート上で離陸準備が整っていた。
「早くダイスケ」
スカイクルーザーの入口でジュンイチが大きく私を手招きするとその横でポチが早く来いとばかりに大きく吠えた。私が乗り込むやいなやスカイクルーザー出力最大で戦艦リバティのヘリポートを飛び立った。方向を変える為、スカイクルーザーは上空百メートルの所で大きく旋回した。窓の下には深い緑のジャングルの中に一筋の川が太陽光を反射してきらめいている。そしてそこに似つかわしくないグレーの戦艦が鈍く光っている。
私がやっている事は無謀なのだろうか。ジャングルの奥地へ子供たちを連れて行く。もし、このスカイクルーザーが故障したとしたら。彼とて我々を助け出す何のすべも持っていない。いや、その前に原住民が好戦的だったら。哨戒機の映像では百人近くの人間が居ると思われる。それが一気に襲い掛かってきたら私一人で太刀打ちできるだろうか。もっと強力な武器を持ってくるべきだったか。
思い悩む私を乗せたスカイクルーザーは一直線に目的地を目指した。行けども行けども緑のジャングルが何処までも続いている。目的地に近づくにつれ私の不安は恐怖に近い物になっていった。
戦艦リバティを飛び立って一時間。スカイクルーザーは目的地に到達した。
上空で旋回する私たちに人々は驚き逃げ惑っている。「マズイ!」私はそう直感し、一旦この場所を離れた。
「ねえダイスケ。どうして降りないの」
「下の人たちが驚いているようです。刺激するのはよくありません」
「じゃあどうするんだよお。このまま帰るのかよ」
「それは……」
私は困惑した。次の行動を見出せなかった。
「降りましょ。それで驚かせたんだったら謝ればいいのよ。そうでしょ」
「分かりました。降りましょう」
いや、ほんとは分かっていない。でも降りるしかなかった。この後どんな事が起ころうと運命として受け入れる他に無い。確かに三人の子供たち以外に人間が存在している。それを確かめるためにここまでやって来たのだから。私はスカイクルーザーをゆっくり広場の中央へ降ろした。人々は家に隠れ、ジャングルに逃げ込んだ者もいる。しばらくにらみ合いが続いた。
「さあ、行くよ」
「ダメです。危険です。私が行きます」
「ダメよ。ロボットがいきなり出てきたらみんな驚くわよ。宇宙人が来たって」
「そうだよ。ぼくらにまかせて」
そう言うと三人はさっさとドアを開け外へ出てしまった。私は隠し持っていた閃光弾を握り締めた。閃光弾なら音と光が出るだけで被害は与えない。そう思った。
「皆さん!驚かせてごめんなさい!出てきてください!」
モモコがそう叫んだが反応は無かった。
「おれたち悪い人間じゃないぜ。出てきてくれよ!」
「そうだよ。出てきて!」
何の反応も無かった。
「困ったなあ、誰も出て来ないや」
「おれって悪人づらか?」
タモツが心配そうにモモコを見ながら言った。
「ちょっとね」
そう言うと三人は広場の真中で大笑いした。その時、スカイクルーザーのドアからポチが駆け出してジャングルへ向かって走っていった。すると集落のあちこちから犬の吠える声が聞こえた。
「ポチ! ダメだ! 戻って来い!」
タモツの声も聞かずにポチはジャングルの中に消えていった。私は出て行くべきか、どうか迷った。確かにモモコが言うように私は現地人の目に異様に映るはずである。それとどうやら好戦的な種族ではないようだ。そうでなければ今ごろヤリか弓矢の嵐が降り注いでいるだろう。ここはジュンイチたちに任せ、見守るのが得策と考えた。
しばらくこう着状態が続いた後、一人の少年がポチといっしょにスカイクルーザーの方へ歩いてきた。ジャングルの中からは大勢の大人たちが子供を呼び止めるような仕草をしながら大声で叫んでいる。私はその言葉を直ちに解析した。やはりアマゾンで暮らす一種族の言語に非常に似ていた。
ヤギー、これはこの少年の名前だろう。その後に危ない、戻って来いと続いている。私はコンタクト可能と判断した。
ヤギーはモモコの前に立ち止まり、モモコがしている首飾り、そう白骨死体が首にしていた物を指差し、ジャングルに向かって大声で叫んだ。「これ、父さんの首飾りだ!」間違いなくあの白骨死体の部族である。しかも少年はその子供。
「なに?これ欲しいの?」
モモコが少年に話し掛けた。
「モモコ! モモコ!」
私は見つからないようにスカイクルーザーの床に寝そべり、頭を少し出してモモコを呼んだ。
「なに、ダイスケ。なんでそんな格好してるの」
「モモコ、その子のお父さんのだって」
「なにが」
「だからその首飾り、その子のお父さんのだって」
「言葉わかるの、じゃあ、ここがあの原始人さんの村」
「えっほんと!」
ジュンイチがそう言うと三人は手をつなぎジャンプしながら喜んだ。
「ねえ、ダイスケ。出ていらっしゃいよ。もう大丈夫よ。さあ、早く」
私はモモコに言われるまま外へ出た。ジャングルのあちこちから「うおー!」と驚く声が聞こえた。私はちょっとショックだった。
「みなさん、こんにちは。驚かせてすいません。私たちはこれをとどけに来ました」
現地語でそう大きく叫びながら、モモコの首飾りを指差した。すると、モモコは首飾りを外し、頭の上に高く掲げ、少年の首にその首飾りをかけた。
ジャングルの中から一人、また一人とスカイクルーザーの周りに集まり始め、次から次へと私の体を触り「うおー!」歓声を上げた。
しばらくして一人の老人が近づくと人々はさっと後に下がった。
彼の名はタンダ。この集落のリーダーだ。私は彼にここへやって来た理由を説明した。首飾りの持ち主が死んだこと。私たちが手厚く葬った事。そして、この首飾りをとどけに来た事を伝えた。
タンダはいたく感謝し、私たちに一晩泊まっていくように勧めた。
「みなさん、今晩ここへ泊めてくれるそうですが、どうしますか」
「そりゃもちろん泊まっていくよ。なあ」
三人はお互いの顔を見合わせうなづいた。
「ところでダイスケ。何もってんの」
「いえ、別に何でもありませんよ」
私は手に握り締めた閃光弾を後に隠した。
その夜、私たちは大歓迎を受けた。子供たちは自分たち以外の生の人間と初めて会い、心から感動したようだった。何しろ今まではマスターが作り出した仮想空間でしかなかったのだから。そして振舞われた豚の味に驚いていた。このアマゾンで村人が大事に守りぬいた豚なのだ。
夕餉が終わり、私たちはタンダと共に火を囲んだ。
「みんな、眠かったら寝てもいいですよ」
だが誰も寝ようとはしなかった。タンダが語り始めた。子供たちはその話を訳す私を見つめた。
「ヤギーのお父さん。そうあの浜辺に丸木舟で流れ着いた人です。ヤギーのお父さんはだいぶ前、おそらく一年以上前でしょう。急に旅に出ると言い出したそうです。何があったのか誰も分からなかったそうですが、遠くに居る仲間に会わなければならない。そう言ったそうです。村人は皆止めたそうですがヤギーのお父さんは一歩も譲らなかったそうです。そこで、タンダは旅の安全を祈りあの首飾りを授けたそうです」
子供たちは皆黙ってしまった。何故ヤギーの父親が旅に出ると言ったのか我々がいくら考えても分からない事だろう。それより子供たちは残されたヤギーの気持ちになっているのかも知れない。三人はしばらく目の前で燃える木を見つめていた。
「でも、そのお陰で私たちここへ来れたんだね」
そう言ったモモコに私は深く頷いた。
急にタンダが語り始めた。今度は我々に語るのでは無く、燃える火を見つめ、その中に映し出される情景を語るように。この村に伝わる伝説を。遠い昔、あの大河アマゾン川が枯れ、ジャングルが荒地に変わった。タンダの先祖たちは残されたわずかな緑を求めてさ迷った。そして、都会から文明人が大勢押し寄せてきた。それはおそらく地下都市に入れなかった人々だろう。何万、何十万の人たちがやってきて食料を奪い合い殺しあった。タンダの先祖たちはその争いから逃れ、荒地の中で苦しい生活を送った。大勢やって来た文明人は争いで生き残った者も食料を得るすべを知らず、すぐに死に絶えた。長い年月が流れ少しづつ緑が戻ってきた頃、また文明人が現れた。今度は都会で悪い病がはやり次々と人が死んだと言う。疫病だと言うその文明人は感染を恐れ逃げてきたのだ。今度の文明人は争うことはせず、タンダたちと共存していった。しかし、その文明人たちはやはり病気で次々と死んでいった。
一通り語り終わったタンダがしばらくして呟いた。
緑が元に戻り水も食料もたくさんある。ヤギーの父親はこの事を知らせようとしたのかも知れないと。どこからやってきたか分からない文明人たちに。
翌朝、私たちは子豚を十頭頂き、帰路についた。




