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ダイスケ -人類再生を託された子育てロボットの生涯-  作者: 陰謀論爺(インボーロンジー)
第三章 仲間
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4、捜索


 現在、アマゾン川河口である。この場所では海の潮が満ちると川の上流に向かって流れが発生する。その流れに乗って上流に進めば電力が節約できる。この艦のコンピューターはそう判断した。満潮まであと三時間、潮が満ちるまでこの場所で停泊している。

 頭上では依然マスターの命を受けた衛星が我々を監視していた。これは我々にとってありがたい事である。衛星からマスターに送信されるデータを傍受し、この周辺のライブ映像を入手する事ができるからだ。

 私たちはすでにその映像を解析し、人間の痕跡を観察しているが、何も発見できていないのが現状だ。と言うより、衛星からの映像でジャングルの中に潜む人間を見つける事など不可能である。だが、ジュンイチたち三人にとって、この作業自体が重要なのである。もし、何も見つからなかったとしても自分たち以外に人間が存在した事は明らかである。いつかは会えるかもしれない。それが三人の生きる力を手助けしてくれる事に間違いはない。

 衛星からの画像に飽きた子供たちは思い思いの方法で遊びを楽しんでいる。長い船旅で暇を持て余すのでは無いかと心配したがそれは無用だった。と言うのもこの艦に搭載されているエレメントが非常に優れていたからだ。今まで子供たちがラボ・クリブやエリアリベティで使っていたエレメントは主に食事やちょっとした身の回りの物を作る為だけの機能しかなかった。だが、この艦のあちらこちらに設置されているエレメントにはスクリーン、キーボードなどが備え付けられている。つまりコンピューターの機能と物を作り出す機能が一体となっているのだ。具体的に言えば、コンピューターで昔の遊びを検索すると必要な道具が表示され、合成データが登録されている物ならそのままエレメントで作り出せるのである。やはり子供たちはラボ・クリブの疑似体験装置の中で西暦二千年頃を体験しているため、その頃の遊びが特に気に入っている様子だった。凧揚げ、コマ回しなどのオーソドックスな遊びから電子機器を利用した物まで。一通り遊んだところでそれぞれ自分にあった遊びに落ち着いたようである。

 ジュンイチは当時の科学雑誌を読みふけっている。現在のコンピューターで見た方が圧倒的に分かりやすいと思うのだが、博物館の展示品のような雑誌を好んで読んでいる。

 タモツはと言うとこれが今までとは打って変わって怪しげな道具を作るようになった。タモツのDNAデータの提供者、機械設計者である沢村研究員の性格が開花したのだろうか、艦後部にある工作室にこもりなにやら作り出した。だが、今のところ完成形となった物は無いようだ。

 モモコはエレメントで絵の道具を作り出し、甲板の上でスケッチを楽しんでいる。私は甲板へモモコの絵を見に上がった。

 モモコは艦後部のデッキの床面に座り、遠く海原に向かって絵を描いていた。

「ほう、上手ですねえ。何処の絵ですか」

「まあね。何処だと思う」

 モモコは照れたように答えた。私は周りを見回したが、モモコのえのような風景は何処にも無かった。高いところから見下ろした風景、草原が広がり、遠くには海が描かれている。草原にはピンク色の部分があり、あちらこちらに小さな家がある。その家には煙突がありそこから煙が昇っている。しばらく考え、私はその風景が何処であるかわかった。

「希望の丘ですね」

「そうよ。うれしい、分かってもらえて」

「でも家があるのは」

「うん、こうなったらいいなって思って」

 我々がラボ・クリブを脱走し、初めて希望の丘の頂上で朝を迎えたあの時の風景。そこに家を描き加えたのだった。

「原始人さんの家、見つかるかしら」

 絵に描かれた希望の丘を思い出す私にモモコは小さな声で尋ねた。

「見つかるといいですね。でも、相当難しいと思います」

「そうよねえ、ここ広いもんね」

 現在アマゾン川河口である。川と言っても左右どちらにも川岸は見えない。川岸すら見えないのに、複雑に枝分かれするこの巨大な川の全流域の捜索となると。しかも限られた時間で。艦後部の甲板から川の上流とは反対、海のほうを私とモモコは静かに眺めていた。

「あっ風が変わった」

 モモコの声に気が付いた。そろそろ潮が満ちてきたようだ。

「さあ、そろそろ出発しましょうか」

「うん」

 海が完全に満ち、川の流れが上流に向かって流れ始め、戦艦リバティはアマゾン川上流を目指した。それと同時に子供たちはそれぞれの遊びを止め捜索活動に専念した。先ほどからスカイクルーザーを飛ばし調査活動を行っているが、何一つ発見する事は出来ない。アマゾンのジャングルは想像を遙かに上回る密林であった。

「それにしてもさあ、いい加減にしてほしいよなあ。ジャングルって木がいっぱい生えているのは分かるけど、限度ってもんがあるよな」

 タモツがそう呟くのも無理はなかった。スカイクルーザーを地面に下ろして見ようと思っても小さな空き地一つ無いのである。行けども行けども濃い緑の密林が何処までも続いているばかりである。アマゾン川の方も川とは名がついているがとても川と思えるような川幅ではない。モモコが何か人間が居る証拠になる物が流れてくるかもしれないと言い、ずっと川面を眺めているが、どこからこんなに大量の水、しかも泥水のように濁った水が流れてくるのだろうか。あきれかえるほどの水が尽きる事無く流れている。もちろんそんな中から人間の痕跡を見つける事はできるはずもなかった。

 アマゾンの流れは艦のコンピューターに記録されている古い物とかなり違いを見せていた。ここでもマスターが操る偵察衛星の出番となった。偵察衛星からのデータを解析しアマゾンの奥地へと艦を進めた。本来なら大型船も航行できるこの大河であるが、長年の気象変化で流域も変化し、水深も変わっている。艦のコンピューターは船底に設置されているソナーを駆使しながら航路を選定した。堆積物で川底が浅くなっていたら、先へ進めないからだ。

 こんな状態が二日間続き、私たちはようやくアマゾンの中心地マナウスにたどり着いた。

「見つかるかなあ?」

 ジュンイチが私に小さな声で言った。

「正直言って、見つからないと思います。第一、あの白骨死体がここからやって来たと言う証拠は何も無いんですから」

「だよねぇ」

 私たちは三日間と言う限られた時間を有効に利用すべく、それぞれが作業を分担して捜索を行った。スカイクルーザーは安全を考慮して無人で飛行させ、さらにこの艦に搭載されていた小型無人哨戒機も投入した。小型無人哨戒機とは西暦二千年頃、子供たちが遊んでいたラジコン飛行機を少し大きくしたようなものである。だがその性能は最高速度三百キロ、航続距離三千キロとスカイクルーザーとほど同等の性能を持っている。搭載されたカメラからの映像をこの艦に送りながら飛行を続ける偵察機である。ただ、搭載されているコンピューターが小型ゆえ性能が悪く、途中での目的地変更が出来ないなど難点があった。

 ジュンイチはスカイクルーザーと哨戒機担当、タモツは甲板上から水面と川の両岸を捜索、モモコは偵察衛星からの画像を解析する事となった。私はこの艦のレーダーと流れてくる水中の物体をソナーで解析した。日が昇って、そして沈むまで子供たちは無心に自分に与えられた任務をこなした。夜間の人工衛星からの画像は艦のコンピューターが担当した。だが、人間が存在している証拠は何一つ見つからなかった。

「見ろよ。見ろよ。すげーもの見つけたぞ」

 それは二日目の朝、朝食を済ませ持場である甲板へ向かったタモツが大声を上げながら船内へ走り込んで来た。その手には何か握られていた。

「タモツくん、すごい。どこで見つけたの」

「俺が作ったマシンに引っかかってたのさ。やっぱすげーなあ俺って」

 タモツが作ったマシンとは、アマゾン川に入る前に工作室でコソコソと作っていた物らしい。そのマシンとやらに引っかかっていた物は、木製の柄が付いた柄杓もしくは小さな櫂のような物だった。確かに人間の手による物にも見える。が、枝か何かが折れ、もしくは根のような物で偶然に出来た物と見えない事もなかった。このあたりには奇妙な根を持ったマングローブのような植物が多かった。

「これ人間が作った物かなあ」

「決まってるだろ」

「なんか自然に出来た物にも見えるけど」

「バカヤロー、見てみろよ。ここ。ここだよ。ほらちゃんと削った跡があるだろ」

「そうかなあ」

「そうかなあじゃねえよ。そうなの。これは人間が作った道具に間違いないの」

 タモツとジュンイチの言い合いは果てしなく続いたが、結局、他に何の手がかりも無いのでこれは人間が作った物と子供たちによって決定された。確かに柄の切り口が微妙な感じがしないでも無かった。

 で、タモツが作ったマシンとは小さな水中凧のような物で、魚を獲る為に昨夜船の手摺から水中に投げ入れておいた物だそうだ。

 証拠品が上がった所で当然の事ながら何処から流れて来た物かが問題となった。そこで私は艦のコンピューターに計算をしてもらった。水流、高度差、漂流物の形状などを考慮し偵察衛星の画像から流れて来た方向を割り出してもらった。

「この艦のコンピューターに計算してもらったのですが、タモツが見つけたヘンの物は」

「ヘンな物って言うな!」

「いや、失礼。その証拠品ですが、この艦のコンピューターの計算によるとこちら側の支流から流れて来た物と推測されるようです」

 私は作戦テーブルのスクリーンを指差した。現在位置は昔マナウスと呼ばれた町。この地点からアマゾン川に大きな支流が流れ込んでいる。その赤道よりのギアナ高地南端に源を発する支流を。

「それでは、これからこの支流の上流を目指します。目的地はこの辺り、ここから六百キロほど進む予定です。偵察衛星からの画像ではなんとか進めそうですが、川底の状態で途中までしか進めないかも知れません。行ける所まで進みます。そして移動中も捜索を続けます。よろしいですね」

「了解!」

 子供たちは元気に叫んだ。

 艦は直ちに支流を遡った。ネグロ川と呼ばれるその川は非常に細かい流れが集まったような川だった。衛星からの画像ではそのどの流れを遡っても上流に行きつけるが実際には川底の深さの問題がありコース船底が非常に難しい。もちろん戦艦と言っても第二次世界大戦中の戦艦とはまるで違う。エレメントにより開発された新素材で出来た船体は非常に軽く強度的にも鉄の数倍の強度がある。この為船底は小型船並である。しかし、それでも場所により航行不能となる可能性がある。無人哨戒機を捜索から外し、水先案内に利用しながらの航行となった。

 二日目の大捜索も人間の痕跡を見つけ出す事は出来なかった。その夜、艦は予定通りマナウスから上流へ六百キロの地点に達した。アマゾン川の河口からはすでに二千キロ遡っている。

 三日目。艦は川の真中で錨を降ろし、川の流れでスクリューを回し発電を行っている。すでに電力を使いすぎた。搭載されている太陽電池パネルもフルに活用して不足分を補わなければならない。食料もエレメントを出来るだけ使わず、自然から得るようにした。この任にあたっているのはタモツである。もちろん危険を伴うので私も同行している。

 ジュンイチが飛ばしている無人哨戒機とスカイクルーザー、それにモモコが観察している偵察衛星からの映像、艦のレーダーが全力で捜索にあたった。だが、三日目も何の成果も得られなかった。

「三日間が過ぎました。私たちは戻らねばなりません」

 作戦会議で私は三人に最後を告げた。

「あと一日だけ。いいでしょ」

「ダメです。帰れなくなってしまいます」

 三人は納得できないと言わんばかりに頬を膨らませている。

「それでは帰る間もスカイクルーザーを飛ばしましょう。船を川の流れに乗せて電力を節約します。その電力をスカイクルーザーへまわします。いいですねそれで。いくら言ってもこれ以上の譲歩はできませんよ」

 三人は黙ってうなづいた。

 次の朝、戦艦リバティはエリアリバティへ向けて出航した。と言うより河口へ向かって流れ始めたと言った方が良いだろう。川に浮かぶ木片のようにゆっくりと流れに身を任せた。途中、河口付近では海の満潮に合わせ川が逆流するはずであるからその時はイカリを下ろさねばならない。エリアリバティへの到着が一日か二日遅れる事になるだろう。

 ジュンイチは日の出と共にスカイクルーザーを飛ばし、そこから送られてくる映像に張り付いている。モモコは作戦室で衛星のデータを傍受しライブ映像にくぎ付け。タモツは甲板に出て漂流物に目を凝らし、時折「誰か居ないか!」と大声で叫んでいる。

 出航から四時間ほど経過した頃である。

「大変!大変!」

 モモコが大声を上げながら船内を走り回った。その時は私はブリッジに、ジュンイチは下の操舵室でスカイクルーザーからの映像を、タモツはトイレの個室にいた。

「なんだよー。もう少しだったのにー」

 タモツがズボンを上げながら遅れて作戦室にやってきた。

「見て!見て! これって煙だと思うの!」

 スクリーンに映し出された衛星からの映像の片隅に白い物が映っていた。

「雲じゃねえの」

「違うと思う。私、ずっと見てたから分かるけど、雲が出るときは画面いっぱいに雲が見えるの。でもこれ一箇所だけでしょ。ぜったい雲じゃないと思う」

 確かに、はるか上空から見た衛星の画像では立ち上る煙か雲か判別が難しい。

「ねえねえ、ダイスケ。スカイクルーザーを向かわせてもいいでしょ」

「ううーん。気にはなりますねえ。でもちょっと遠い」

 そこは我々が現在航行中のアマゾン川の支流ネグロ川のさらに支流ブランコ川沿い、現在位置から直線距離は約二百キロ。偵察衛星のカバーエリアのちょうど限界位置だった。

「お願いダイスケ」

「そうですねえ……。ちょっと待ってください」

 私はスクリーンに地図を表示するとすばやく簡単な計算を試みた。

「エリアリバティへの到着はこれ以上遅らせたくありません。ここへは哨戒機を向かわせましょう。哨戒機の方が電力消費が少ないですから。艦はこのまま航行。哨戒機がこの地点に到着し、何も無ければ帰艦させます。このあたりで合流できるはずです。もし何か発見できたら艦を泊め、スカイクルーザーで向かう。どうですか」

「了解!」

「ジュンイチはすぐスカイクルーザーを艦に戻して充電をしておいてください。モモコは食料の用意を。タモツは艦の格納庫から必要になりそうな物を集めておいて下さい。私は……、いえ結構。各自作業へ」

「アイアイサー!」

 私は……。私はもし人間が発見された場合に備え武器を用意する事にした。私は心の奥底で見つからないと思い込んでいたのだろう。こんな事になるとは思ってもみなかった。人は常に友好的とは限らない。いや歴史的にみてそうでない方が多い。本当に原始人なら私一人で十分戦える。だが、彼らがもし文明社会の生き残りであったとしたら……。幸い、いや不幸にしてこの戦艦リバティで武器を探すのは事欠かない。地上を一瞬にして不毛の大地に戻してしまうほどの武器をも搭載しているのだから。

 私はここへ来た事を後悔し始めていた。


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