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ダイスケ -人類再生を託された子育てロボットの生涯-  作者: 陰謀論爺(インボーロンジー)
第三章 仲間
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2、戦艦リバティ


 まだ夜が明けきらない頃、私たちはスカイクルーザーをエリアリバティへと飛ばした。特に細かな予定がある訳でもないが、昨夜は興奮したのか子供たちが寝付けず結局こんな時間の出発となった。

 周囲は真っ暗で何も見えない。ただ夜空いっぱいにきらめく星ぼしの下をスカイクルーザーはかすかなモーター音のみを残し、エリアリバティに眠る戦艦リバティを目指した。

 エリアリバティにある海軍基地のゲート。すなわち、このスカイクルーザーを拝借したとき、地上へ出た時に利用したゲートから中へ入る予定である。スカイクルーザーは海岸のすぐ脇にある草むらの上でホバリングを続けた。エリアリバティの警備システムがこの機を確認しゲートを開けてくれる事を期待して。

「やはりダメかも知れませんね」

「どうして」

 ジュンイチが不満そうに私に言った。

「マスターは我々があの殺戮兵器である戦艦リバティに近寄る事を嫌っているのかも知れません。ゲートを開ける判断をするのはマスターですから」

「でも、戦艦リバティを借りに来たなんて知らないはずだよ。マスターは」

「確かにそうかも知れませんが……。スカイクルーザーはあきらめて人間用の出入口から入るより仕方無いかも知れません」

「そうしたらスカイクルーザーはここへ置いておくの」

「戦艦リバティのコンピューターが私を受け入れてくれれば、無線で呼び寄せる事が出来ると思いますが、現状では戦艦リバティのコンピューターがどのようなシステムなのかも分かりませんから」

「なにそれ。ただの船じゃないの」

「確かに船なのですが、そこに搭載されているコンピューターが問題です。友好的なら良いのですが。血も涙も無い冷酷なコンピューターかも知れません。なにしろ兵器ですから。それに能力的にも私など足元にも及ばない能力のコンピューターが搭載されているはずです。どのような判断プログラムがなされているか私にも想像すら出来ません」

「へえ、面倒なんだね。コンピュータも上下関係が」

 確かにその通りだった。能力が上のものが下の物を支配する。それがコンピュータの世界だ。それはともかくスカイクルーザーを持っていけないのは大変困った事である。いざと言う時の脱出などを考えると決して手放したくは無い存在である。

「大丈夫よ。きっと入れてくれはずよ。マスターさん。意外と優しい気がするの」

 モモコが窓からズット下を見ながら言った。

「マスターが優しい訳ないだろ。俺たちの敵だぜ。ヤツは」

「そんな事ないわよ。タモツくんたらいつもそうなんだから」

「まあまあ、もう少し待ってダメだったら、スカイクルーザーは諦めていつもの入口へ回りましょう」

「ほら、開けてくれたじゃない」

 モモコが勝ち誇ったように言った。暗闇の草原から天に向かって一筋の光が走り、それが次第に大きくなっていった。確かにマスターはゲートを開けてくれた。海軍基地の内部にも眩しいくらいの明かりがともされている。もちろん我々のためにだ。マスターは何を考えているのか。我々がここへ到着し、警備システムがそれを感知したのは一瞬であろう。それからこのゲートが開くまでの時間はマスターの判断に要した時間だ。あの驚異的な処理能力のマスターがこれだけ長い時間何を考えていたのか。我々がこんな時間にエリアリバティを訪れる理由を。子供たちに病人が出てスカイクルーザーで設備が整ったエリアリバティへ運んでいると考えたのか。では何故海軍基地なのか。いやいや、もうやめよう私が千年考え続けてもマスターの一秒に遠く及ばないのだ。

「何やってんだよ。早く入ろうぜ」

「あっ、そうですね」

 私はタモツの言葉に我に返り、スカイクルーザーを基地内部へ下ろすと、戦艦リバティのすぐ上、天井とのわずかな隙間をゆっくりと飛行し、後部甲板にあるヘリポートへスカイクルーザーを着艦させた。

「わあ、すごい」

「とっても広いんだね」

 子供たちはスカイクルーザーから降りると広い甲板の上で思い思いに叫んだ。

 私にはまずやらねばならない事がある。そうこの艦のコンピューターにアクセスし、状況を確認。いや我々を受け入れてくれるかどうか問い合わせねばならなかった。

 見回すとヘリポートの横にコントロールボックスがあった。私はそこへ駆け寄り、必ずあるであろう接続するコネクタを探した。ボックスの横にある完全防水の蓋を開けると案の定コネクタがあった。私は腕からケーブルを引き出すとそれを接続する直前で躊躇った。

ここへ接続した途端、私はこの艦のコンピュータと直結する。そして、この艦はマスターと直結している。つまり私とマスターが直結状態となる。あのラボ・クリブに居た頃と同じように。だが、ここで迷っていても何の前進も無い。だが、マスターは私に何と言うか。もしや、死の宣告。

「大丈夫、ダイスケ。やっぱり悪いコンピューターなの。この船のコンピューター」

 気が付くとモモコがすぐ横で心配そうに私を見ていた。

「大丈夫、いや、ちょっと怖い。でも大丈夫」

 私はそう言うと接続ケーブルをコネクタに差し込んだ。私の中の情報を次々と送り込み相手の反応を待った。すぐさまこの艦のコンピューターが応答した。彼は私を快く受け入れてくれた。いや、そうではない。私が来るのを待っていたのだ。

 私は彼から次々と情報を取得した。この艦の操船方法、能力、搭載兵器などなど。私は驚愕の連続だった。私は彼が持っている情報の中から必要な物だけピックアップし、残りは随時彼に教えてもらう事にした。なにしろ彼の持つ知識は尋常な量ではなかったからだ。

「大丈夫、いじめられてるの」

「あっ、大丈夫ですよ。とても優しい人でした」

「そう、良かった。そうだと思ったんだ」

 モモコは安心するとジュンイチ、タモツのところへ走っていった。三人の子供たちとポチは広い甲板の上を走り回り、搭載されている装置を観察しているようだった。それらはすべて殺戮兵器ではあるが。

 それにしても、一体誰がこの艦に搭載されているコンピューターを作ったのだろう。規模から言ってマスターとは比較するのは酷だが、それにしてもすさまじい処理能力である。マスターは大量のデータを解析しじっくり考える、人間で言えば学者や博士。この艦のコンピューターは戦場で一瞬の判断を下す部隊の長。まさしく戦艦のコンピューターにふさわしい。もちろん、彼には私のような人工知能は搭載されていない。ゆえに人格を持っていない。これは現在の人工知能の持つ特性上大規模なコンピューターには搭載できないからである。

 彼は私たちを待っていてくれた。それは彼が兵器であるがゆえに情報収集能力を駆使した結果である。彼は常にマスターを通じこの地球上で起きている事柄を常に分析し続けている。我々がラボ・クリブを脱走した時から彼は私たちを注視し行動を観察してきた。それはこの艦が新人類の為に作られたからだ。我々が脱走した事により、この艦へたどり着く可能性が最も高かったのが我々だったのだ。彼は脱走してからは元より、三人の子供の誕生に遡ってすべての情報を取得していた。我々の行動がつぶさに記録されている。それはマスターを通じて取得された情報である。つまり、マスターは我々の行動をすべて把握していたと言う事だ。

 私はケーブルをコネクタから外した。

 彼は私がこの船に乗船した事をマスターへは報告しなかった。彼は命令権を私に委ねてくれた。この艦は新人類の為に用意されたものだから。私たちはこの地球上でもっとも強い味方を手に入れた。

 私はコントロールパネルを操作し、ヘリポート上にあるスカイクルーザーを格納庫へ移動させた。その音を聞きつけ子供たちが集まってきた。

「ねえ、もう出発するの」

「いいえ、外はまだ真っ暗です。朝になってからにしましょう。中に食堂があるので、まずはそこで休憩する事にします」

 私は最後部のヘリポートから船室の入口に向かった。甲板上には高射砲、ミサイル発射装置などが並んでいる。

「ダイスケ、前の方にスゲー大砲があったぜ」

「それは主砲ですね」

 私はそう言った後、背筋が寒くなった。それを使わずに済めば良いが。

「いやあ、上から見るとまたでかいなあ」

「いいえ。船としてはそれほど大きな部類には入りません。戦艦と言っても大きさ的には巡洋艦サイズですから」

 手摺から下を見たタモツに私が答えた。機械設計担当の沢村研究員の血が目覚めたのだろうかタモツのはしゃぎようは無かった。

「なあ。これ、どうやって海まで運ぶんだ。ここは地下だぜ。それに水に浮いてないし。なんか床にくっついてるぜ」

「大丈夫です。ちゃんと考えて作ってありますから。さあ、中へ入りましょう」

 重い扉を開けて中へ入り階段を降り、殺風景で何の飾りも無い廊下の先に食堂があった。

 食堂と言ってもさほど広くは無い。この艦の想定乗船人員は百名ほどである。戦艦と言う性格上一度に全員が食事をする事は想定されていない。三十人、無理をすれば五十人と言うところだろうか。

「みなさん、好きな物をあそこのエレメントで作ってください。ただし、あまり食べ過ぎないように。この後、海に出ますから」

「ねえ、マスターは大丈夫なの。武装した戦艦を僕たちに使わせてくれるはずがないって言ってたでしょ」

「そうですね。難しいと思いますよ」

「じゃあ、どうすんの」

「そうですね。まずは食事にしましょう。難しい事はあとで考える事にして」

 私にはそう言うしか無かった。マスターがこの艦を使わせてくれる可能性は皆無だろう。強行突破。それしか我々に残された手段はなかった。

 皆、思い思いに食事を楽しんだ。この食堂にはラボ・クリブやエリアリバティには無いメニューがあった。アメリカ独自のメニューだろうか。

 食堂では初めての船旅を期待する子供たちの会話が続いていた。

 午前七時。私は行動開始を宣言した。

「さあ、みなさん、そろそろ行きましょうか」

 子供たちの歓声が食堂に響いた。

 食堂から階段を降り、船体中央にある操舵室へ向かった。

「なあ、ダイスケ。操舵室って船の一番上にあるんだろう」

「そうです。この船も最上部に操舵室があります。ですが、この船にはもう一ヶ所、船体内部から操船する事が出来るんですよ。さあ、ここです。みなさん入って下さい」

 私は大きく重い鉄の水密扉を開け、子供たちとポチを先に中へ入れた。中は薄暗く狭い空間だった。

「一番前の席が操舵席です。そこへ私が座ります。あとは好きな所へ座ってください」

「じゃあ、おれここ」

「わたしはこっち」

「僕はこのハンドルがついた席がいいや」

 中には操舵席とその後の左右に二席づつ、計五つの席があり、三人の子供たちは好きな場所を選んで席についた。最後にポチが残った席に飛び乗り、おすわりをした。私は全員が着席したのを確認し、水密扉を閉め操舵席に座った。この中央操舵室は艦が沈没した場合にそのまま小型潜水艇となり脱出できる構造になっている。

「さあ、行きましょう」

 私がメインスイッチをオンにすると目の前のパネルに赤い起動画面が表示された。まず言語モードを日本語に設定した。この船はスカイクルーザーと違い、いろいろと面倒な手順を踏まないと動かす事ができないのである。

「さあ、みなさん。パネルの上に手を置いて、目の前にある丸い穴を見つめて下さい」

 三人は言われるとおりにパネルの上に手を置き、穴を見つめた。ポチもみんなのまねをしてパネルに前足を乗せた。

「ニンショウ カンリョウ ヨウコソ リバティ へ」とアナウンスが流れパネルの表示が緑に変わった。

「今の何」

「あなたたちの指紋と網膜の認証を行ったのです。あなたたちのデータは生まれた時にすでにインプットされています。それと照合したのです。この船は新しく生まれた人類のために用意されています。つまりそれ以外の人には使えないようになっているのです」

「それ以外の人って」

「さあ、私にはわかりません」

「これで動かせるの」

「いいえ。あと一つ。私がこのボタンを押せば完了です」

「早く押してよ」

「このボタンを押すと後へは戻れません。覚悟はいいですか」

「そのボタンってなんだよ」

「現在、この戦艦リバティはマスターによって厳重に管理されています。しかも兵器であるので、マスターによりロックされた状態となっています。つまり勝手に動かす事が出来なくなっています。ですが、このボタンを押すことによりマスターの制御を強制的に切断し、自由に動かせるようになります。つまりこのボタンを押すことによりマスターと対立関係になるわけです」

「えー、何それ!」

「マスターが敵の手中に落ちた場合、この船を敵から奪還する事を想定して作られたシステムです」

「敵ってだれ」

「そりゃ……。そりゃマスターだろ」

 タモツの敵はマスターに決まったようだ。

「ああ、なんだか分からない!」

 モモコは頭を抱えた。

「押しますか、やめますか。決めるのはあなたたちです」

 三人は顔を見合わせ叫んだ。

「おしてー!」

 私はその声と共にスイッチを押した。

「セイギョガ マスターカラ アナタタチ ニ ウツリマシタ メイレヲ ドウゾ」

「出港せよ」

「リョウカイ シマシタ」

 このアナウンスと共に船が動き出した。

「ねえねえ、なんか動いてるよ」

「今、格納庫から海まで移動中です。五百メートルほど海に向かって水平に進みます。その後五十メートル上昇して海面と同じ位置となります。その後海水が注水されれば完了です」

「外は見えないの」

「ああ、そうですね」

 私はモニターのスイッチを入れた。すると前面と左右、それに後方に備えられた大型スクリーンにそれぞれの方向の画像が映し出された。船は真っ暗な通路をゆっくりと進んでいる。

「ねえ、床にくっついていたのにどうして動いてるの」

「床ごと動いているのです」

 しばらくして船は上昇を始めた。

「これで海へ出られるんだね」

「いいえ。ゲートを開けなければなりません。ゲートはマスターの管理下にあります」

「じゃあダメじゃん!」

「開けてくれるわよ。きっと」

「もし開けてくれなかったらどーすんだよ」

「主砲で打ち破ります」

「えーー!」

 船の上昇が止まった。

「チュウスイヲ カイシ シマス」

 ガタンと船が揺れ、水に浮かんだのが感じられた。

 しばらくした時、けたたましい警報音がなり、パネルの表示が真っ赤に変わった。

「やはりゲートが開きません。ジュンイチ。緑のスイッチをおしてください」

「なに?なに?」

「いいから早く!」

「押したよ」

 ジュンイチがボタンを押すと操舵室の照明がオレンジ色の薄暗いライトに変わり、艦内は戦闘モードに切り替わった。それを知らせる警報音が鳴り響くと同時に、各所に設けられた水密扉が自動的に閉まり、開口部のガラス窓には分厚いシャッターが下ろされた。

「次は主砲の一番と二番をおして」

「えー!どうして僕が!」

「その席が主砲のコントロール席です」

「えー!」

「ハンドルを握って照準をゲートの中央に」

「ヤダヨー僕ー!」

 ジュンイチがハンドルを動かすと正面スクリーンに映っている主砲が大きく右へ左へと動いた。

「落ち着いてジュンイチ。君ならできる」

「おい!しっかりしろよジュンイチ!」

 タモツが叫んだ。

「タモツ! ジュンイチと代わってください」

「いや、おれは遠慮しとく」

「いいよ僕がやるよ。僕たちが進む道だから」

「ハンドルの右側、一番上の赤いスイッチが発射ボタンです。照準が決まったらそれを押して」

 ジュンイチはハンドルを小刻みに操作し、スクリーンの中央にある十字のカーソルをゲートの中央に合わせた。

「行くよ! 押すよ!」

「ちょっとまって! 開いた!開いた!」

 モモコが叫んだ。スクリーンに映っているゲートがゆっくりと開き始め、目の前にちょうど海の上に登り切ったばかりの明るい太陽が現れた。その明るい光でスクリーンが真っ白になっり、操舵室は歓声に沸いた。そして私は胸をなでおろした。

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