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ダイスケ -人類再生を託された子育てロボットの生涯-  作者: 陰謀論爺(インボーロンジー)
第二章 絶滅
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6、ハッタリ


 成田博士が帰ってきたのは翌日の事だった。妻の晴美と息子の大祐を連絡機に乗せ、出発を見届けると、その足で研究室へと向かった。

「沢村君、西田君ちょっと来てまらえますか」

 成田博士は研究室のドアを開けるとすぐさま沢村と西田を呼び寄せた。

「先生お帰りなさい。それとイチゴのデータ、どうもありがとうございます」

「沢村さんたら、先生からイチゴのデータを先に送ってもらったもんだから、昨日からイチゴばっかり食べてるんですよ」

「どうですか、おいしいでしょう。私も向こうで一つ頂きました。オリジナルを。でも食べ過ぎてお腹をこわさないようにして下さいよ。さて、立ち話もなんですから皆さん座ってください」

 成田博士は自分のデスクに座り、沢村と西田は椅子を引き寄せ、向かい合うように座った。成田博士は背筋を伸ばし、あらたまった顔つきで話を始めた。

「ええ、アメリカの生物化学研究所所長霧島博士より人類再生に関わる詳細な実験データが送られてきて以来、一時中断していました人類再生プログラムの準備ですが、本日より改めて継続したいと思います」

 西田は立ち上がり拍手をした、沢村も出遅れたようにゆっくり立ち上がり拍手をした。

「まあまあ、座って聞いて下さい。せっかく考えてきたスピーチです。めったに無い事ですから」

「えー、懸案となっていました新人類の心に関する問題ですが、現在の所、まだ解決の糸口さえ見つかっておりません。計画の中止も視野に入れ検討してきましたが、人類として希望を捨てる事はおろかな行為だと考え、全力をあげ計画の実行に尽力したいと思います。以上。です」

「先生」

 西田が感激に少し詰まったように言った。

「西田君、ありがとう。君のおかげですよ。いやー、あの自然はすばらしかった。あの景色を見ていなかったら私は諦めていたかも知れません。自然は確実に回復し始めています。時間がかかるかも知れません。ですが必ず地球上が大自然に包まれる日がやってきます。そこへ人類を送り込む事が私たちの使命です。時間がありません。頑張りましょう」

「先生、それで心の件は」

 沢村が小さな声で言った。

「それですが、今の所対処方法はありません。ですが先日神谷という老人から面白い話を聞きました。心は体に宿るのではなく、自然の中に蓄積されるのだそうです。生まれた時にその蓄積された心を少し分けてもらうのだと。自然が崩壊した今、その分けてもらうべき心が無いのだそうです」

「先生、そんな話を信じるんですか」

「いいえ、信じている訳ではありません。と言うより科学者として何の根拠も無い空想と言うしかありません。でもどうですか、面白い話だとは思いませんか。どれだけ探してもDNAデータの中に心に関する情報を見つける事ができません。いくら脳が発達したと言っても小さな子供でさえ豊かな心を持っています。わずか数年の学習で会得できるとは思えません。もちろん、親や社会生活から正しい方向へ導く必要はありますが。でも持っているんですよDNAデータに無い物を。とっ、空想についていくら論じていても仕方ありませんね。実は私はこんな風に考えているんです」

 成田博士は立ち上がって電子ボードに図を描き始めた。

「みなさん、自然淘汰と言う言葉を聞いた事があると思います。たとえばAと言う種からBと言う種が派生したとします。BはAに対して遺伝的に優位で繁殖成功率が高く結果としてAは滅び、Bは繁栄すると言う考えです。地球上に生命が誕生して以来、何度と無く繰り返されてきた現象です。でもどうでしょう。外敵が少なく環境に十分適用していれば両方とも生き残ると思いませんか。元々が同じ種なので極端な差は無いはずです。でも現実は違った。自然淘汰は別の言い方で自然選択とも呼ばれます。私はこれを自然による選択と解釈しました。つまり自然の見えない大きな力により必要な方を残し、不要な方を切り捨てると。これを現在の人間にあてはめてみたらどうでしょう。人類はここ数百年地下に潜って暮らしています。エレメントの開発により欲しい物はボタン一つで手に入ります。この電力と材料となる元素は無償で支給され、人々はまったく働く必要がなくなりました。また家庭内の作業は家政婦ロボットが行い、人々は寝て食べてまた寝てを繰り返しています。こんな生活が数百年も続いているのです。これで生物と言えるでしょうか。もし、こんな人間を自然が不必要な物と判断したとしたら。今人類は絶滅の危機に晒されています。謎の病気。人類の英知を結集してもその原因も治療方法も見つける事ができません。昨日まで健康で何の問題も無かった人が機械の電源を切ったように死んでいく。私は考えます。謎の病気は病気では無く、自然淘汰の結果だと」

 西田と沢村は成田博士がおかしくなってしまったと言わんばかりの顔で話を聞いている。

「西田君、沢村君、そんな顔しないで下さいよ。私は狂ってなんかいませんから。大丈夫ですよ。科学者って言うものは不便なものでしてねえ。ウソでもハッタリでも構わないから信念になるものが無いと行動出来ないものなんですよ。でっ、これがハッタリという訳です。神谷老人の受け売りですがね。では本題に戻りましょう」

 成田博士はまた椅子に座り話を続けた。

「西田君、人類再生プログラムの期間を延長します。保守システムの見直しを行って下さい。資材も大量に必要となると思います。私から各国へ資材の追加提供を要請します」

「先生、期間はどれぐらいに変更しますか?」

「期間ですか。自然が人間を必要としてくれるまで根気良く続けます。五千年でも一万年でも続けられるシステムを構築して下さい。長期戦の構えです。やりたくはありませんが、もし途中で資材が不足する事態が発生するようなら、人類が残した居住区や施設のすべてを掘り起こして資材へ回すようにプログラムを」

「それと沢村君。霧島博士の報告書にあった再生した人類が自己防衛反応を示す件は見ましたか」

「はい、ちょっとした事で凶暴化して傷つけあうと言う」

「そうです。困った内容ですねえ。ほぼ百パーセントの確率で発生するそうですから計画を変更して、子供たちは一人ずつ個室で育てる事にしたいと思います。ラボ・クリブの構造変更を。それと各個室に運動が出来る装置と社会的な教育が出来る装置を用意して下さい。電力需要も大幅に増えると思います。アメリカ軍が使用していた古い太陽光発電システムがカルフォルニアのモハーベ砂漠にあるそうですからそこを利用してください。使用許可はとっておきました。かなり老朽化しているそうなので、作業ロボットに至急修復命令を出してください。それとラボ・クリブまでの送電設備の敷設を。西田君はこの電力をシステムに組み込んで下さい。以上です。それでは早速各自作業を進めてください」

 成田博士は資材の追加要請をする為に会議システムのある別の部屋へ向かった。

「いやー参ったなあ。運動出来る装置と教育装置かあ」

「何言ってんのよ。あんた機械設計が専門って言ってたじゃないの」

「そりゃそうだけど。分野が違いすぎて……」

「仕方ないわね、あんたって。結局大飯喰らい作るだけしか能が無いのねえ」

「それを言うなよ。ああ、困ったあ」

「能無しのあんたに、いい物教えてあげるわ」

「何だよ、いい物って」

「実はねえ、ウチにあんのよ」

「あるって何が」

「何がって、その運動と教育が出来る装置、まあ教育の方は使った事無いけどね」

「何それ。どんな装置」

「先生には言わないでよ。結構恥ずかしいんだから」

「何だよ恥ずかしいモンかよ」

「実はね。ダイエットの装置なのよ」

「ああ、そりゃダメだ」

「何でよ」

「お前の体見て役に立たないってすぐ分かる」

「イテ!何すんだよ」

「まじめに聞きなさいよ。でさあ、結構いいのよ、その装置。今、世界中からマスターに色々なデータが送られて来てるでしょ」

「ああ、電子ライブラリにか」

「そうそう、それ。で、さあ。ある王族から送られて来たデータにさあ」

「また王族かよ。おまえ王族好きだなあ。イテ!」

「まじめに聞けって言ってるでしょ。教えてあげないわよ!」

「分かったよ聞く聞く。教えてください」

「ダイエットの装置って言うから私、欲しくなっちゃってさあ。そのデータ使って、こっそり作っちゃたの。絶対先生に言ちゃダメよ。それがデカイのよ。ウチのエレメントじゃ作れないからさあ、この居住区の設備用エレメントで作ったの」

「お前大胆だなあ」

「作ったのはいいけど運べなくてさあ、作業ロボット六体呼んできて運ばせたら、今度は部屋に入んないのよ」

「それぐらい考えとけよ」

「仕方ないから隣の部屋の入口ぶっ壊して入れたの。もちろん作業ロボットにやらせたんだけど」

「お前なあ、私用で作業ロボット使い過ぎじゃねえ。それに何で隣なんだよ。自分の部屋壊せよ」

「やだ。自分の部屋壊すのなんて。隣、空き部屋じゃない。って言うか私のフロアー誰も居ないし」

「じゃあ廊下に置いとけばいいじゃん」

「それは無理」

「なんで」

「使うときに裸にならなきゃいけないのよ。しかも全面ガラス張り」

「いいじゃん誰も居ないんだったら」

「いやよ。裸よ裸。まだ嫁入り前の二十九歳なのよ」

「何言ってんだよ。お前平均寿命超えてるじゃん」

「それは言わないで。じゃあここからが本題。説明するわよ良く聞いといて。その装置なんだけど。中に透明な液体が入ってんの。これがすごいのよ。コンピューターからの制御電流で密度が変わるの、空気のようになったり、石のように硬くなったりするの。その中に裸になって入るの。頭にヘッドギアと、口に呼吸用のマスク付けて」

「潜るの」

「そう、そんな感じ。でさあ、制御コンピューターからヘッドギアへ信号が送られて脳の中に仮想空間が出来るの」

「ほう」

「その仮想空間にあわせて液体の密度が変わるの。もちろん全部が変わるんじゃなくて硬い所、柔らかい所が装置の中に自由に作れるの。例えばラニンングモードに設定すると下の部分が固くなって地面に、上は空気のようになるのよ。それでさあ、走り出すと地面と空気が後へ移動するの。止まると地面と空気も止まる。それで脳の中には海岸の風景や高原の一本道なんかが描き出されるの。木陰に入るとちゃんと液体の温度も下がって、そよ風なんか吹いたりするのよ。もう最高。それにさあ、ダイビングなんかも出来るの。海に潜って。目の前にいる魚をつかむとちゃんと感覚があるの。脳への信号じゃなくて、実際に触れるのよ。液体が魚の形になって硬化するのね。しかもブルブルってして逃げるのよ、その魚が。ちゃんと筋肉使ってるから一時間もやると次の日は筋肉痛よ。登山やスポーツも出来るの。この前、ボクシングって言うのやったらさあ、対戦相手が筋肉ムキムキの大男なのよ。そいつがさあ、このか弱いレディを思いっきり殴るのよ。それで私すっ飛ばされてさあ。すごく痛いのよ、本当に。頭に来たからさあ、股間を力いっぱい蹴飛ばしたの。一発でノックアウトよ。でも反則負けになっちゃった。ね、この装置すごいと思わない」

「そりゃすごいや。昔の人はすごい物作ったんだなあ」

「でしょ。でしょ。王族だから金にモノを言わせて作ったのよ。きっと」

「その装置、マスターにつなげばすごい精度の仮想空間が出来るぜ」

「今のコンピューターでもかなりリアルよ。マスターなら現実と区別できないんじゃないかしら。それと教育モードもあるのよ。語学だと外国へ行ってショッピングが出来たり、理科だと自分が小さくなって体の中に入って臓器を観察したり、昆虫の巣穴探検もあるみたい。気持ち悪るそうだからやった事ないけど」

「使えそうだねえ。こりゃ頂きだ」

「でしょ。データは電子ライブラリにあるから」

「今度俺にも使わせてくれよ」

「イヤ」

「なんで」

「王族が使ってた装置だからいろんなモードが入ってんのよ」

「どんなモード」

「エッチ」


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