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第7話 破壊の限りを尽くしてやるわ!

 作戦を立てた。


 今度こそ失敗しない。これまでの悪行が全部シルフィにひっくり返されてきた原因は、やり方が地味すぎたからだ。侮辱、解雇、左遷、冤罪。どれも1対1、あるいは小規模な話だった。シルフィの変換が追いつかないくらい、大規模で、派手で、取り返しのつかない破壊をすれば、さすがに聖女化できないはずだ。


 王国の魔導兵器研究所には、試作段階の兵器が保管されている。手帳のプロットには詳しく書いていないが、この世界に転生してから得た情報によると、半径200メートル以内の魔力を無効化する装置らしい。城壁でも、建物でも、魔法障壁でも、範囲内のものを一瞬で無力化できる。


 それを持ち出す。


 王宮の訓練場で起動する。


 建物が半壊するくらいの被害が出れば、いくらシルフィでも「殿下の英断」には変換できまい。


 完璧だ。



 研究所への許可証は意外に簡単に手に入った。シルフィが「何かご入用でしょうか?」と聞いてきたので「視察よ」と答えたら、翌朝には書類が揃っていた。


 いつも通り、先回りされていた。


 ただ今回は関係ない。許可証があれば研究所に入れる。兵器を持ち出せる。それだけでいい。


 研究所は城の北棟の地下にあった。白い石造りの廊下、等間隔に並んだ照明の魔石、鉄の扉。研究員が数人、私の姿を見て慌てて礼をした。


 「殿下、本日はどのような?」


 「例の試作兵器を見せなさい」


 研究員が顔を見合わせた。一番年配の男が一歩前に出た。


 「あの装置は、まだ試験段階でして。屋外での使用には……」


 「訓練場で使います。準備して」


 研究員がまた顔を見合わせた。


 私はそのまま歩いた。



 訓練場には、その日の午後、カリウスの代理を務める副団長と騎士団員が20名ほどいた。


 私が魔導装置を台車に乗せて現れると、全員が動きを止めた。副団長が近づいてきた。三十代、赤毛、生真面目な顔。


 「殿下、それは」


 「魔導演習よ。下がらせて」


 「しかし安全の確認が——」


 「下がらせなさい」


 副団長が一歩引いた。騎士団員たちが訓練場の端に移動した。


 私は装置の前に立った。起動レバーが一本、正面についている。引けば起動する。範囲内の魔力が無効化されて、魔法で補強されている訓練場の壁が崩れる。被害甚大、責任重大、廃嫡確定。


 引いた。



 轟音がした。


 白い光が広がった。


 訓練場の壁の一部が、崩れた、と思ったら、崩れたのは壁の魔法障壁だけだった。石造りの壁本体は無傷で残っていた。


 静寂が戻ってきた。


 副団長が恐る恐る近づいてきた。壁を確認して、また私を見た。


 「殿下……これは」


 「……壊れなかったわね」


 「魔法障壁だけが解除されました。ただ」副団長が訓練場の外を見た。「北の方角から、魔物の気配が」


 「……は?」


 「訓練場の魔法障壁は、北方国境の結界と連動しておりまして。障壁が落ちたことで、国境付近に潜伏していた魔物の群れが動き出したようです。カリウス団長に連絡を」


 「待って」


 頭の中で何かが繋がった。


 「カリウスはまだ国境にいるの?」


 「はい。殿下の命で引き続き北方警備を」


 私は装置を見た。装置を見て、壁を見て、北の空を見た。


 「……カリウスに連絡して。魔物が動いたと」


 「すでにシルフィ様が伝令を出されました」


 振り返った。


 訓練場の入口にシルフィが立っていた。いつからいたのか分からない。無表情、完璧な姿勢、手に書類を持っていた。


 「殿下」


 「……号外?」


 「『王女殿下の魔導演習、国境の魔物殲滅の契機に。カリウス団長と完璧な連携』という見出しで、すでに印刷が終わっております」


 訓練場に風が吹いた。


 崩れた魔法障壁の跡に、砂埃が舞った。


 「……完璧な連携」


 「はい」


 「私はカリウスと何も打ち合わせていないわ」


 「存じております」


 「それでも連携と書くの?」


 「結果として連携になりましたので」


 副団長が横で神妙な顔をしていた。騎士団員たちも端から動かない。全員が、この会話を聞いている。


 私は装置のレバーを見た。


 もう一回引いたら何が起きるだろう。たぶんシルフィが何かを印刷するだけだ。


 「……撤収して」


 副団長が一礼した。騎士団員たちが動き出した。


 シルフィが書類をこちらに差し出した。


 「カリウス団長より、事前のご指示への感謝の文が届いております。署名をお願いできますか?」


 「事前のご指示なんてしていないわ」


 「団長はそう受け取られたようです」


 ペンを受け取った。


 署名した。


 北の空は、青かった。どこかでカリウスが魔物と戦っているのだろう。私が装置を起動したせいで。私が「演習」をしたせいで。


 結果的に、また何かを救ってしまった。



 その日の夕方、王宮の別の場所では。


 アウラ・ディ・ヴァレリアが、セリアの刺繍道具を隠す作戦を実行していた。


 セリアが大切にしている刺繍セットを一時的に隠して、ルキウスの前で「なくなりましたわね、残念」と言う。それだけの計画だった。


 刺繍セットを見つけた。手に取った。廊下の角の花瓶の裏に隠した。


 完璧だ。


 翌朝、ルキウスがセリアに「昨日、廊下で刺繍セットを拾ったんだけど」と言いながら手渡しているのを見た。


 アウラが隠した場所は、ルキウスの散歩コースだった。


 通算18回目の失敗だった。

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