第38話 真実を話してやるわ!
式典の翌日、アウラが最後の挨拶に来た。
城を出るのは3日後だという。荷物の整理と、父への挨拶と、必要な手続きがあるらしかった。
「最後にお聞きしてもいいですか」
向かいに座ったアウラが言った。金髪がいつもより落ち着いて揺れた。
「どうぞ」
「私の運命の相手は、誰ですか」
「フェリオよ」
「……隣国の第二王子ですよね」
「そう」
「私は今回、どこに追放されるんですか」
「隣国よ」
アウラが少し間を置いた。
「……つまり」
「追放先でフェリオに会えるわよ」
アウラが固まった。
固まったまま、数秒経った。
「……え」
「聞こえていたわよね?」
「聞こえていました」とアウラが言った。「でも、つまりどういうことですか」
「追放されれば運命の相手に会える。その運命の相手が隣国にいる。追放先が隣国。全部繋がっているのよ」
「つまり断罪されれば、フェリオ殿下に会いに行ける?」
「そういうことね」
アウラが立ち上がった。
「よかったーーー!」
「声が大きいわよ」
「すみません! でもよかった! 本当によかった!」
「落ち着いて」
「落ち着けません! 36回失敗して、やっと断罪されて、追放先でフェリオ殿下に会えるなんて!」
「声が大きいわよ」
「すみません! でもよかった! 本当によかった!」
「落ち着いて」
「落ち着けません! ……でも殿下、なぜ今まで教えてくださらなかったんですか」
「教えたら浮かれて余計なことをするでしょう」
「……しました」
「でしょう。だから教えなかったのよ」
「でも36回も——」
「36回は必要だったの。黙って」
「でも36回も——」
「36回は必要だったのよ。あなたが失敗し続けたことで、ルキウスがあなたを観察し始めた。観察した結果、疑念が積み重なった。断罪に繋がった」
「私の失敗が役に立ったんですか」
「役に立ったのよ。盛大に」
アウラが少し黙った。
「……36回の失敗が、全部必要だったんですね」
「全部かどうかは分からないけれど、無駄ではなかったわ」
「そうですか」とアウラが言い、また少し間を置いた。「ルナリア様も、今まで色々と失敗されてきましたよね」
「そうね」
「それも、全部必要だったんでしょうか」
「さあ。まだ結果が出ていないから分からないわ」
「結果が出るといいですね」
「そうなるようにするわよ」
アウラが立ち上がった。一礼した。
「3日後に出発します。その前にもう一度来てもいいですか」
「どうぞ」
「ありがとうございます、ルナリア様」
「行きなさい」
アウラが退室した。
扉が閉まってから、シルフィが口を開いた。
「殿下」
「何?」
「少し、よろしいですか」
いつもと声が違った。わずかに、何かが混じっていた。
「どうぞ」
「殿下が前世の作者でいらっしゃることは、以前アウラ様とのやりとりで伺いました」
「聞いていたのね」
「はい。その上で、一つ確認させてください」
「何?」
「殿下が幼い頃、私に『そこの者、立ちなさい』とおっしゃいました。私の家が没落しかけていた時に、倒れていた私に声をかけてくださいました」
「……覚えていないわ」
シルフィが止まった。
「覚えておられない、というのは」
「その頃はまだ、前世の記憶を整理できていなかったのかもしれないわ。悪役の練習をしていただけよ。たまたまあなたがそこにいただけ」
長い沈黙が続いた。
「……では、殿下はあえて泥を被るために悪女を演じておられたわけでは——」
「違うわよ。追放されたかっただけ。ずっとそれだけよ」
シルフィが完全に止まった。
「……私は、ずっと」
「ずっと、何?」
「……殿下が、この腐敗した王国を救うために、あえて悪女を演じておられると」
「……思っていたの?」
「はい」
私は少し間を置いた。
「それが、あなたが全部変換してきた理由?」
「……そうでございます」
「号外を刷っていた理由も?」
「号外も、全て、その理由でございます」
「ずっとそばにいた理由も?」
シルフィが答えなかった。
答えない、ということが答えだった。
「……ずっと誤解していたのね」
「はい」
「私は悪女を演じていたわけじゃなくて、本当に追放されたかっただけよ」
「……承知しました」
「承知した、というのは?」
「誤解していたということを、承知しました」
部屋が静かになった。
窓から光が差し込んでいた。
「……シルフィ、あなたは誤解していた。でも」
「はい」
「あなたがそばにいてくれたことは、誤解のせいだったとしても——」
言いかけて、止まった。
続きが出てこなかった。
シルフィが静かに待っていた。
「……まあ、いいわ」
「よろしいのですか」
「よくはないわよ。でも今は、いいわ」
シルフィが一礼した。
「……これからも、お傍におらせいただいてよろしいですか」
「追放されるまでは、そこにいなさい」
「追放された後は」
少し間があった。
「……考えておくわ」
シルフィが頷いた。何も言わなかった。
窓の外に城下が見えた。
何も変わっていないように見えた。変わったのは、部屋の中だけだった。




