第33話 巻き込んでやるわ!
3人を使うことにした。
カリウス、フェリオ、クラウディオ。非公式同盟の3人だ。
ただし3人全員をすぐに呼べるわけではない。カリウスは国境近くにいる。フェリオは隣国だ。クラウディオだけが城内にいる。
まずクラウディオに直接会う。カリウスには使いを送る。フェリオには手紙を書く。それぞれに同じ内容を伝える。「アウラとセリアが2人でいる場面を、機会があれば偶然目撃してほしい。目撃するだけでいい」。断罪イベントの証人になってほしい、ということだ。
理由は言わない。
翌朝、クラウディオが来た。
「ご依頼の内容は承知しました」とクラウディオが言った。「目撃するだけ、ですね」
「そう。それだけよ」
「承知しました」
一礼して立ち上がりかけて、止まった。
「……殿下、もう一点よろしいですか」
「何?」
「実は昨日、カリウス将軍から伝令が参りまして」
「カリウスから?」
「はい。内容は——『殿下とアウラ殿を守る。フェリオ殿下にも同じ旨を伝えた』とだけ」
少し間があった。
「……目撃するだけと頼んだのよ」
「存じております」
「なぜ守る話になるの?」
「カリウス将軍の判断かと。私にも理由は分かりかねます」
「あなたはどうするつもりなの?」
クラウディオが少し考えた。
「私も、守る側に回ります」
「目撃するだけでいいと言ったわよ」
「はい。目撃した上で、守ります」
「目撃と守るは別のことでしょう」
「私の中では同じことでございます」
返す言葉が出なかった。
クラウディオが一礼して退室した。
3日後、カリウスから直接使いが届いた。
書状は3行だった。
「了解した。目撃する。守る。以上」
「以上」で終わっていた。
「……頼んだのは目撃するだけよ」と紙に向かって言った。紙は何も答えなかった。
5日後、フェリオから手紙が届いた。
「目撃の件、承知しました。タイミングが合えば参ります。なお、カリウス将軍より守る件の話を聞きました。私も同意します。あと、今週末に参ります。タイミングはこちらで合わせます」
「来るつもりだったのね、最初から」と独り言を言った。
シルフィが盆を持ったまま、横に立っていた。
「把握していたの?」
「フェリオ殿下が『タイミングが合えば』とお書きになる場合、すでに合わせてくる準備をされているのは、これまでの文通から明らかでございます」
「止めなかったのね」
「止める理由がございませんでした」
「守る必要はないって伝えればよかったじゃない」
「そのようにお伝えすれば、3名は『殿下が守られることを望まない理由』を考え始めます。その方が厄介かと判断しました」
「……それはそうね」
「フェリオ殿下が来られた場合、城下の方々が気づかれる可能性がございます。城下の動きについては、先日ドミナ様が曙光会に流した文書の影響で、殿下への批判的な落書きが城下の壁に2か所出ております」
「落書き?」
「『王女は民の声を聞かない』という内容でございます」
「……それは悪くない話ね」
「はい。ただしフェリオ殿下がいらした際に、その落書きをご覧になった場合、3名の守る姿勢がさらに強固になる可能性がございます」
「どうなるの?」
「殿下を守るために、落書きを消しに動くかと」
「消したら悪評が消えるじゃないの」
「左様でございます」
私は手紙を置いた。
フェリオを止める→フェリオが理由を考え始める。落書きを放置する→フェリオが消しに動く。どう動いても守られる方向に転がる。
「シルフィ、あなたは今回何かしているの?」
「特には」
「本当に?」
「3名が自発的に動いております。私が何かする前に、結果が出ております」
「……またそのパターンね」
「左様でございます」
「そうじゃないのよ」
「何が、でしょうか」
「全部よ。守ってほしいんじゃなくて、証人になってほしかっただけなのよ」
「3名は証人にもなります。その上で守ります」
「その上で、というのが問題なのよ」
シルフィが少し間を置いた。
「……3名は、殿下が何かを成し遂げようとされていると理解した上で動いています。その点では、殿下のご意図に沿っているかと存じます」
「成し遂げようとしていることの中身が違うのよ」
「中身については、3名はご存知ありません」
「だから問題なのよ」
シルフィが一礼した。
「……アウラには今回の件を伝えないで」
「理由をお聞きしてもよろしいですか」
「知ったら喜ぶから。喜ばれると、また何か変換されそうで嫌なのよ」
「承知しました」
今週末、フェリオが来る。3人が守ると言っている。落書きが消される可能性がある。
どれひとつ頼んでいない。どれひとつ止められない。
「完璧だ」と思って始めた作戦が、なぜこうなるのか。
答えは分かっていた。分かった上で、毎回同じことを繰り返していた。
時間がない。それだけは分かっている。分かっているのに、今日もまた、思っていた方向とは違う場所に来てしまった。




