第31話 協力してやるわ!
翌朝、アウラが来た。
扉を開けた瞬間から表情が違った。しょんぼりではなく、きりっとしていた。金髪がいつもより凛として揺れた。
「殿下、本格的に一緒に計画を立てませんか?」
開口一番だった。
「座って」
アウラが向かいに座った。両手を膝の上で重ねた。背筋が伸びていた。35回失敗し続けた人間とは思えない顔をしていた。
「昨日からずっと考えていたんです」
「聞かせて」
「私が一人で動くから失敗するんです。体が先に動いてしまうから。でも殿下と一緒に動けば、殿下が止めてくださる。私の体より先に、殿下の指示が来る。それなら止められると思って」
理屈は通っていた。
通っていたが、素直に頷く気にはなれなかった。協力する、ということは、断罪イベントを私が手伝うということだ。断罪イベントが進めば物語が動く。物語が動けば追放も近づく。それは望んでいることのはずだ。
なのに、少し躊躇っていた。
躊躇いの理由は自分でもよく分からなかった。考えても仕方がないので、紙を出した。
「……計画を立てるわ」
アウラの目が輝いた。
計画は30分かけて組んだ。
「第1段階:ルキウスとセリアが2人でいる場面を作る」
「第2段階:アウラがその場に現れて、セリアの持ち物を壊す」
「第3段階:私が陰から証人として立つ」
「第4段階:ルキウスが目撃する」
「第5段階:ルキウスの中にアウラへの不信が積み重なる」
紙に書き出した。アウラが真剣な顔で読んだ。
「第2段階の嫌がらせは何にしますか?」
「セリアの持ち物を壊す。言葉より物理的な行動の方が証拠になりやすい」
「壊せますか、私?」
「壊しなさい。意図的に」
「意図的に、というのが難しいんです。セリアさんの前に立つと、体が」
「先に動くのよね」
「はい」
「だから私が合図を出す。合図があったら壊す。合図があるまでは笑顔でいなさい」
「笑顔は得意です」
「悪役令嬢として問題のある得意技ね」
アウラが少し笑った。それからすぐ真剣な顔に戻った。
「合図は何ですか?」
「咳払いを1回。それが聞こえたら、壊す」
「分かりました」
「本当に?」
「……やってみます」
「もっと強い言葉で言いなさい」
「やります」
「よろしい」
紙を折りたたんだ。実行は明後日に設定した。ルキウスがセリアの部屋を訪ねる習慣があることはプロットで把握していた。そこに合わせる。
アウラが少し間を置いてから口を開いた。
「……殿下、緊張しています」
「私が?」
「私が、です。でも殿下も少し、いつもと顔が違う気がします」
「そんなことはないわ」
「そうですか」
アウラが嘘だと思っていることは、顔を見れば分かった。そして実際に嘘だということも、私自身が知っていた。
シルフィが書付を1枚、音もなく盆の上に置いた。
「何?」
「本日の城内の動きの概要でございます」
受け取って、読んだ。
『殿下とアウラ様が長時間にわたり秘密の作戦会議。紙を広げ真剣に話し合う姿が複数の侍女により目撃。両者の友情が新たな段階へ。城内で感動の声』
紙を持ったまま、しばらく動かなかった。
「……作戦会議が友情に見えたのね」
「真剣なお顔で紙を囲んでいらっしゃいましたので」
「内容は漏れていないの?」
「侍女たちは内容までは把握しておりません。真剣さだけが伝わりました」
「真剣さだけで友情になるの?」
「おなりになります」
アウラが書付を横から覗き込んだ。読んで、少し固まった。
「……私たち、友情が深まったんですね」
「深まっていないわよ」
「でも感動の声が上がっています」
「上がっていても、深まっていないわ」
「……殿下はそう思っているんですね」
アウラが少し俯いた。声が静かだった。
「私は、深まっていると思っています」
返す言葉が出なかった。
「35回、毎回ここに来て、毎回聞いていただいて。一緒に計画を立ててもらって。深まっていないとは思えないんです」
「……あなたの話はいいわ。計画の話をしましょう」
「はい」
アウラが顔を上げた。少し目が赤かった。
シルフィが書付を回収した。手帳を開いた。何かを書き始めた。
「シルフィ、今の会話を書いているの?」
「はい」
「何のために」
「記録です」
「友情の記録は要らないわ」
「承知いたしました」
手帳を閉じなかった。
「閉じていないわよ」
「はい」
アウラがこっそり笑った。私はアウラが笑うのを見て、笑いたくなるのを堪えた。
「支持率は?」
「更新されました」
「……聞かなければよかったわ」
「おっしゃる通りでございます」
明後日の計画がある。アウラが動く。私が合図を出す。今度こそ、断罪イベントの土台が動く。
そのはずだった。
シルフィが手帳に何かを書き続けていた。




