↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/43

第30話 断罪させてやるわ!(アウラを)

 アウラが断罪されれば物語が動く。


 42話プロットでは、断罪式典でルキウスが婚約破棄を宣言する。そこに至るまでに、アウラのセリアへの嫌がらせが積み重なり、ルキウスの不信が高まる筋書きだった。


 問題は、今のアウラがその逆方向に全力で走っていることだ。34回の失敗がある。ルキウスの信頼を下げるどころか、「アウラは気が利く」という評価を積み上げている。


 だから私が動く。アウラを通さず、直接。


 今日の作戦はシンプルにした。ルキウスに直接会って、「最近アウラの様子がおかしい」という印象を植え付ける。具体的な嘘は言わない。含みを持たせた言い方をする。ルキウスの想像力に任せる。


 なろう作家として知っている。断罪の種は派手な悪行より、王太子の頭の中に生まれた「もしかして」という小さな疑問から育つ。


 午前中、ルキウスの執務室の前を通る機会を作った。廊下で鉢合わせる形にした。


 「ルキウス、少し時間があるかしら」


 「もちろんです、姉上」


 「アウラのことなのだけれど」


 ルキウスがわずかに表情を引き締めた。婚約者の話を姉から切り出されれば、誰でもそうなる。


 「最近ね、私のところに来るたびに少し様子が違うのよ。何か、うまくいっていないことがあるんじゃないかと思って」


 「……そうですか」


 「あなたの方では何か気になることはない?」


 ルキウスが少し考えた。


 「言われてみれば……先日、アウラがセリアのそばにいる場面を何度か見かけました。気にかけているのかと思っていたのですが」


 「気にかけている、ね」


 「何か問題がありましたか?」


 「いいえ。ただ、気にしておいてほしくて」


 それだけ言って、その場を離れた。


 完璧だ。「気にしておいてほしい」という一言が、ルキウスの頭の中で育っていく。アウラとセリアの場面を「気にかけている」ではなく「何かある」という目で見るようになる。



 昼過ぎ、中庭に面した廊下を歩いていたら、声が聞こえた。


 ルキウスの声だった。


 足を止めた。柱の陰から中庭が見えた。


 ルキウスがセリアと話していた。アウラが少し離れたところに立っていた。3人の位置関係が、偶然、今日の話の続きのような場面を作っていた。


 ルキウスがアウラを見た。目線が少し慎重だった。先ほどの会話が効いていた。


 アウラが気づいた。


 ルキウスの視線に気づいたアウラが、少し固まった。固まってから、何かを考えた。考えた末に、セリアに向かって言った。


 「セリアさん、髪に何か付いていますよ」


 セリアが手で触れた。アウラが笑顔でそっと取ってあげた。


 「ありがとうございます、アウラさん」


 ルキウスの目が変わった。さっきまでの慎重な目線が、柔らかくなった。


 「やっぱりアウラは気が利くな」


 声に出して言った。


 私は柱の陰で立ち止まったまま、その場面を見ていた。


 種が消えた。今芽吹きかけた疑念の芽が、アウラの天然の親切で綺麗に刈り取られた。アウラは何も知らない。知らないまま、笑顔でセリアの隣に立っている。



 夕方、アウラが部屋に来た。


 「35回目になりました」


 開口一番だった。


 「……経緯を聞かせて」


 「セリアさんと一緒にいたら、ルキウス殿下が来て、なんとなくその場の雰囲気が良くて、気づいたら3人でお茶を飲んでいました」


 「嫌がらせは?」


 「する前にお茶になってしまいました」


 「髪に付いていたものを取ってあげたのね」


 アウラが少し止まった。


 「……見ていらっしゃったんですか?」


 「たまたまね」


 「あれは本当に付いていたんです。取らない方がよかったですか?」


 「……いいわよ」


 力が抜けた。羽ペンを持ったまま書類に向かっていたが、置いた。


 「殿下、何か今日されましたか?」


 「していないわ」


 「そうですか」


 アウラが向かいに座った。シルフィが茶を2人分置いた。


 「35回です」とアウラが言った。「もう35回です」


 「『もう』が付いたわね」


 「付けたくなりました。……殿下、一人でやっても限界があると思うんです。私だけじゃなくて、殿下も」


 返す言葉が出なかった。


 今日、私は一人で動いた。種を蒔いて、芽吹くところまで見届けた。それをアウラが天然で刈り取った。アウラは私が何をしたか知らない。知らないまま、「一人では限界がある」と言っている。


 それが正しいことも、今日の結果が証明していた。


 「……また来てもいいですか?」


 「どうぞ」


 アウラが扉を閉めた。


 脱力した。椅子に深く、背もたれに体を預けた。


 一人で動いて、刈り取られた。時間だけが過ぎていく。内乱がいつ来るか分からないのに、今日も一歩も進まなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。