表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/43

第23話 サボってやるわ!

 もう何もしたくなかった。


 悪行をすれば変換される。騒ぎを起こせば引き分けに終わる。曙光会が出てきた。カシオが動いている。セヴェロが評議会を動かしている。フェリオは「また来ます」と言って帰った。アウラは27回目の失敗に向かっている。


 疲れた。


 全部やめる。公務も、悪行も、計画も、全部。今日は部屋から出ない。布団をかぶって寝る。それだけだ。


 シルフィが朝の茶を持ってきた。


 「本日のご予定でございますが」


 「全部キャンセルして」


 「……かしこまりました」


 シルフィが一拍置いた。


 「全部でございますか?」


 「全部よ。今日は部屋から出ないわ」


 「かしこまりました」


 シルフィが下がった。あっさりしていた。止めなかった。確認もしなかった。


 不気味だった。


 布団に入った。


 だが眠れなかった。



 昼過ぎ、シルフィが食事を持ってきた。


 「シルフィ」


 シルフィがこちらを向いた。


 「今日は部屋から出ないと言ったわ」


 「承知しております」


 「ならシルフィがいない隙に、部屋の中で何か悪行ができるかもしれないわね」


 シルフィが盆を置いた。


 「どのような悪行をお考えでしょうか」


 「あなたがいなければ考えるわよ」


 「承知いたしました。席を外します」


 シルフィが退室した。


 部屋に一人になった。


 考えた。部屋の中でできる悪行。手紙を書く。誰かに送る。シルフィを通さずに。


 文机に向かった。羽ペンを取った。


 宛先を考えた。フェリオ。いや、手紙はシルフィが管理している。評議員。城内便もシルフィが管理している。


 では直接届ける。部屋から出なければいけない。


 「……出ないと言ったのよ」


 自分に言い聞かせた。


 羽ペンを置いた。


 扉が開いた。シルフィが戻ってきた。盆の上に食事が乗っていた。


 「……いつの間に食事を」


 「先ほど厨房に届けてもらいました」


 「席を外したのはほんの少しだったわよ」


 「はい。必要な時間だけ外しました」


 食事を食べた。シルフィが盆を片付けた。


 「部屋の中で何かできることを考えておくわ」


 「承知しました。思いつかれましたらお申し付けください」


 「あなたに申し付けたら潰されるわよ」


 「それは状況によります」


 「どんな状況なら潰さないの?」


 「殿下の安全を脅かさない範囲であれば、私が動かない場合もございます」


 「今まで動かなかったことがあるの?」


 シルフィが少し間を置いた。


 「以前、殿下が西棟の文官に話しかけられた件は、翌朝まで把握が遅れました」


 「それは出し抜いた話でしょう」


 「出し抜かれた間は、動けておりませんでした」


 「つまり私が知らせずに動けば、一日は先を行けるということね」


 「可能性としてはございます。ただし、それ以降は対策されます」


 「分かっていて教えるの?」


 「隠す理由がないためでございます」


 食事を終えた。シルフィが下がった。また寝ようとした。眠れなかった。


 天井を見た。


 シルフィが「隠す理由がない」と言った。出し抜かれた事実を。対策を。それを教えることで何を得るのか。透明性を示すことで、私が変な方向に動かないようにしているのか。それとも別の理由があるのか。


 考え始めたら、また眠れなくなった。



 翌朝、シルフィが茶を持ってきた。


 「昨日の公務の件でございます」


 「全部潰れたのね」


 「全て代行いたしました。カリウス将軍、クラウディオ様、それから評議員の方が数名、殿下の名代として動いていただきました」


 「昨夜のうちに頼んだのね」


 「はい。滞りなく終わっております」


 「城内では何か広まっているの?」


 「『殿下は水面下で重要な作業をされている』という形で」


 「寝ていたわよ」


 「存じております」


 「それが重要な作業になるの?」


 「殿下が公務を離れて引きこもるほどの作業とは何か、と各方面で議論が起きております。評議会では『次期国政の設計ではないか』という説が有力です」


 「変換の文句は?」


 「『殿下の縁の下の力持ち精神に感動』という形で広まっております」


 「縁の下にもいなかったわよ。布団の中にいたわよ」


 「左様でございます」


 「それで支持率は」


 「更新されました」


 「聞かなければよかったわ」


 シルフィが静かに下がりかけた。


 「待って」


 足が止まった。


 「昨日、部屋の前で止まっていたわよね。昼過ぎに」


 シルフィが一拍置いた。


 「止まっておりました」


 「何をしていたの?」


 「殿下が食事をとっておられるか、確認しておりました」


 「それだけ?」


 「……それだけではございません」


 「他には?」


 「部屋の中の様子が、いつもと違っておりましたので」


 「どう違った?」


 「静かすぎました。殿下がお休みになっている時の静けさとも、何かを考えておられる時の静けさとも、少し違う静けさでした」


 「それで?」


 「確認したかったのですが、扉を開けることが適切か判断できず、その場に留まっておりました」


 「結局、開けなかったわね」


 「はい。少し経ってから、食事の時間にお持ちすることにいたしました」


 私はシルフィを見た。シルフィが視線を外さなかった。


 「昨日は疲れていただけよ」


 「存じております」


 「心配しなくていいわ」


 「かしこまりました」


 シルフィが一礼して下がった。


 布団を引き寄せた。


 静かすぎる静けさ、とシルフィが言った。シルフィが扉の前で判断できなかった。今まで一度もなかった話だ。


 信じていいのかどうか、分からなかった。でも嘘をつく理由も、今のところ見当たらなかった。


 午後、アウラが来た。


 「昨日来たのですが、お部屋がお休みだと伺いまして」


 「そうよ。今日は起きているわ」


 「よかったです。29回目になりました」


 「座って。経緯を」


 「昨日、殿下がお休みと聞いて、ではセリアさんに嫌がらせをする好機だと思いました」


 「珍しく前向きね」


 「はい。それで、セリアさんの部屋の前まで行ったのですが」


 「行ったのですが?」


 「扉の前に立ったら、中から泣き声が聞こえてきて」


 「……泣き声」


 「はい。セリアさんが誰かと話していて、母親の体調がよくないと泣いておられて。それで」


 「入れなかったのね」


 「入れませんでした。むしろドアをノックして、大丈夫ですかと聞いてしまいました」


 「29回目ね」


 「はい」とアウラが言い、少し間を置いた。「殿下は昨日、お疲れだったのですか?」


 「疲れただけよ」


 「そうですか」


 「あなたも疲れるでしょう。29回よ」


 「疲れます」とアウラが言った。「でも殿下が諦めていないから、私も諦められないんです」


 返す言葉が出なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ