第六話
彼女と彼女の友人、そして小さな子供がいる。何かのライブか舞台を見ている。子供嫌いなはずの彼女が子供を膝上にのせている。僕は横に座り、彼女をずっと見つめている。彼女は片方の目で優しく子供を見つめ、もう片方の目で冷たく僕を見ている。
両の目それぞれが別の生き物のように蠢き、絶えず大きさも変化している。僕は耐え難く席を立ち、会場の外にまで急いで出てしまった。
外は真っ暗で何も見えない。真の暗闇だが、不思議と恐怖は無い。
耳元で獣の荒い息遣いが聞こえる。
トラだ。
また彼女の夢を見た。彼女の夢というべきか、トラの夢というべきか。
寝起きの頭痛と共に目を覚ますと荷物の配達を知らせるインタホンがなり、慌てて着替えて荷物を受け取る。「先生」からの荷物だ。彼女へのプレゼントを相談し、その答えがこれだ。
手のひらに収まる小さな、琥珀色の綺麗な石、2つ。1個は僕自身の、そしてもう一つが彼女へのプレゼントだ。恋愛は脳のエラーという言葉があるが、僕は彼女への想いをこじらせすぎて、頭がおかしくなってしまったのだろうか。
この小さな石に十万円も払ってしまうとは。
僕は「先生」にとっても、彼女にとっても、まったくいいお客さんだ。
自嘲しながら石をポケットに入れる。箱の中には小さな薬剤とメモも入っていた。
なるほど、やはり「先生」には僕には見えないものが見えているということだろう。
いや実際には僕も見えてはいるが、目を背けているだけかもしれない。




