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夢想の人  作者: バラキ
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第四話

学生時代の夢を見て目が覚める。課題を忘れて単位を落とす、そんな感じの嫌な夢だ。目が覚めて現実を把握したはずなのに、現実感がない。むしろこの現実こそが夢であればと思う。


夢とは現実にどれほど影響を受けているのだろう。寝起きのぼんやりとした頭で枕元にあるペンとノートを取り、今朝みた夢の内容を走り書きにする。所謂夢日記というやつだ。夢の内容は様々だが、学生時代のものが多いようだ。現実の学生時代は部活に青春を捧げたり、彼女がいたわけでもなく平凡なもので、記憶に強烈に残っているような出来事も無い。にもかかわらず夢ではよく見てしまう。


夢日記は「先生」に教わって最近になってつけているものだ。「先生」は僕と同い年のメンタルクリニックの担当医だ。しかし実際には面会したことは一度もない。ネット上で診察の予約をしたものの、実際にクリニックに行く勇気の無い僕はスカイプやZOOMを使ってのウェブ治療を選択している。治療といっても悩みや不安を聞いてもらい、ただの雑談のようなもので薬の処方などは無い。それでも僕は幾分か気が楽になったような気がして、定期的に先生に相談をしている。


四十になっても結婚はおろか彼女も数年居ない。好きでも嫌いでも無い仕事を生活の為に淡々とこなす毎日が、時折とてつもなく不安になる。自分の人生ははたしてこのままで本当にいいのか、と。最近はどこにいっても他人の目が気になるようになってしまった。


ハルキや友達とたまに会うことはあるが、この年齢で毎週毎月友達と会うことなどない。休みの日は基本的に一人だ。中年のおっさんが一人で外食や公園や映画館に行く。もちろんそんな人は多くいるだろうし、たいていの人はそんなことを気にしていない。それは頭では分かっている。しかし不審者と見られているのではないか、そんな不安が頭をよぎるようになってしまった。


それからは外出も減り、部屋に一人でいることが増え、そうなるとますます陰鬱な気持ちに支配されてしまう。そんな中ネットで見つけたのが「先生」だった。

「先生」は某有名大学の出身のようで話をしていても頭の回転の速さが伝わってくる。


僕はある日、先生にキズナの事を相談した。ハルキにはとても恥ずかしくてこんな相談は出来ない。たまたま行ったキャバクラで気になる子がいる、と。その相談の中で勧められたのが夢日記だった。夢日記をつけることで夢を大事にしなさい、それが予知夢にもつながる、と。


先生はフロイトやユングにも傾倒しているようで夢日記の話が出てもさほど不思議では無かったが、予知夢まで話が出ると少しスピリチュアルな感じがして少し抵抗もあった。しかし今の僕には他にできることが無い。キズナのいるお店にはあれから何度か彼女に会いにいってしまっていた。その度に彼女に惹かれてしまっているが、平凡かつ恋愛経験も乏しい僕には彼女を落とす術など何も無い。


ネット上には「キャバ嬢を落とす方法」といったような情報が溢れている。オシャレな美容室に行け、セレクトショップで服を買え、深い会話をしろ、他の客と差別化を図れ、自分が楽しむのでは無く嬢を楽しませろ、誰よりもお金を使え・・・。どれも正しく、そして正しくない。もちろん見た目はオシャレな方がいいし、会話も楽しい方がいい、お金も使わないよりも使った方がいいだろう。只、それでキャバ嬢を落とせるような簡単な世界では無い。


しかし実際には落としている客も一定数はいる。

一体その男たちと僕と何が一番違うのだろうか。ハルキと初めてあの店に行ってから、僅か1カ月後にハルキがあの金髪のキャバ嬢と付き合った、と聞いた時には驚き、嫉妬がもちろんあったが、自分にも希望があるのではないか、その気持ちが一番だったように思う。しかし彼女は、キズナは、他のキャバ嬢とは見た目も雰囲気も全く違う。少なくとも僕にはそう感じた。


どうすれば振り向いてもらえるのか、見当がつかなかった。そこで先生に相談し、貰った答えが夢日記だった。そしてもう一つ、彼女の欲しがるものを与えなさい、と。それを常日頃から考えなさい、と。先生は別に恋愛やキャバクラの専門家ではないが、人間心理のスペシャリストだ。僕はこの答えに妙に説得感を得、その後も何度も彼女に会いに行っていた。

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