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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
第■■■回全国高等学校野球選手権大会東東京大会決勝戦 青海大学付属高校対松濤高校
91/102

9回表 俺に向かって撃て!

《松濤視点》


「私負けましたわ」

 俺の会心のジョークは後輩たちに無視された。まぁ絶対逆転だろうって場面で一番期待できる打者が凡退し腐ったらそうもなろう。流れはまだ松濤、だが残存戦力があまりにも乏しすぎる。

  片城「同点で9回です。無失点でしのげば相手にプレッシャーがかかります。ですが勢源君は――」

 顔の前に×をつくる勢源。

「俺の手の内はすべて明かしちまった。シェイクボールも対策されれば打ちごろでしかねぇよ」

 同じく顔の前に×をつくるアダム。

「無理だ。泡坂のボール喰らって右肩の自由が利かない。外野に入るけれど送球は……左腕でがんばるけれど、ピッチャーは多分やれない。全開で投げられない」

 そう言って右肩を抑える。

「……どうやら最悪のゲームになっちまったらしい」と背後でアテレコする俺。

「どうしてうちのピッチャー二人は左打席に入るんですかね……」と片城。

 桜は一人気力十分で右腕を振り回していた。

「怪我人二人で交代枠が使えないとか詰んだね。フライアウトしかない」

「名人相手に王手がかけようってときに持ち駒がない。『歩のない将棋は負け将棋』ですね」と片城。

「頭の良さそうな発言は俺にしゃべらせろ。つぅか歩にたとえられて怒らないの桜?」と俺。

「? 『ふ』とか『しょうぎ』ってなんだ?」

「つかこっち人数足りないんだから選手いっぱい余ってるあっちから借りればいいじゃん」


 スライダーが曲がらない。投球練習に入ったが桜の投球内容は改善しない。あれだけ全速力ベースランしたらそれはそう。

 俺は小さな歩幅でダッシュする。痛いし動けないし頭も朦朧としてきた。スコアボードは、間違いない。9回表、6対6だ。その状況で俺は走れずそして打順も当分回ってこない。

 俺のテンションは高い。自棄やけになった俺は変に口数が多くなる。

「桜!! 球威落ちてんじゃん使つっかえ!!」

「うっせー外野は黙ってろ!」

「内野じゃん」

 なんだ威勢はいいな。ハツラツとしている。

「桜君球走ってないですよ!」

 投げ返す片城。そこは励ませよ。

「1球投げたら交代してもらいましょうか?」

「ねーよ! 無限球投げっし!」

 同点のまま9回。

 イニングが終了し、点差がついた時点で決着する。実質延長線突入。


 絶対出塁したい2番打者芹沢、


 疲労を隠し切れない桜が再登板する。暑気を嫌ってかプレイボールの声とほぼ同時に投球開始、


 芹沢は持久戦を望む。

 桜はアウトコースにスライダー、悲しいほど曲がらない変化球が決まりワンストライク。

 桜にとってスライダーはコントロールに優れた変化球。ストライクが獲りたいならこれが正解。

 だがスピードがなさすぎる。この程度のボール芹沢は打ち返すだろう。

 チームを救うのは俺だ。幸いけがをしたのは左足。

俺はファーストの守備位置でシャドーピッチングを開始する。先発桜の救援リリーフ救援リリーフ救援リリーフは俺がする。

ざわつくベンチと内野席。

バッテリーは俺を無視した。

 インコースのストレートが外れ()()、そこから第3球、低めにきたスライダーを猛然と捉え、ボールはピッチャー強襲、

 ものすごい勢いで足元に襲いかかってくるその打球を、桜はその右足で――インサイドキック――足の内側、くるぶしの下の部分で蹴る動作、平らな部分の面積が広いため正確なキックが期待できる。

 打球の勢いをそのまま蹴って一塁へ送る力に変換、しかしバウンドするボールは失速する? 芹沢が1塁へ駆け、ヘッドスライディング、その直前俺は1塁ベースから離れず、傷ついた左足を投げ出し、ショートバウンドした打球がファーストミットに接触キス、救い上げたボール、振り返った塁審が腕を上げるのを見て、ボールを放り上げたあと桜に投げ返す。

「明日の朝刊載ったゾテメ――!!」

「言ったろ! 俺を救うのは俺だってよ!!」

 誰一人笑っていない青海ベンチ、それを見て俺は自軍の勝利を確信した。


 俺はあの凡退からずっと気分がハイになっている。

「打ってこいよ今村! 俺に向かって撃て!! 俺の体をぶち抜くつもりで」

 今村は絶対出塁、6失点の借りをここで返したいはずだ。

 前の回のように桜を狙うか? しかし今の桜の守りを見て同じことはやりにくいはずだ。

 狙うなら俺。

 明確に足を挫いている俺を動かしたいはず。1塁でボールの送球を受けられるのは投手と一塁手ファースト。どちらもへばっている。

 足が並の今村だが小技は利く。

 今村は初球のインコース、カーヴを打ちにいき、ぶつかった! 足だ!

「おっ!」

 主審は両手を挙げない。今村が自分から足を伸ばし当たりにいったと見做し、注意を与えこの打席を続行する。

「いーまーむーらー! せこいやり方で塁にでたがるとか恥って概念がなぇのかよ」

 きっとした眼でこちらを見る今村。

「おまえたちなんかに……負けるわけにはいかへんのや!」

「こんな死にかけのピッチャーに当たりにいって出塁とか、おまえそれでも青海の選手か? 横綱が立ち合いで変化してるようなもんだぞ」

「?」

 俺の表現が理解できなかったらしい桜は、片城のサインを見て、うなずき、投げた。

 片城は今、頭を使わず配球している。


   *


「賢い今村さんはこちらのリードを予想し狙い打ちにしてくる。ですので、その予想を外すためもう使える武器がない現状、60面ダイス(サイコロ)に頼ってしまうことにしました。乱数で球種と投げるコースを決めリードします」

 片城は数字が描かれたメモをミットに張りつける。


   *


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