8回裏 勝つつもりだった
『夏への扉』
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「勝つつもりだった」
そう桜はゲームの数週間後に述懐する。
「オレはすべての対戦で勝つつもりだった。決勝戦のピッチング、全部の打者をブッ倒すつもりだったし、第二打席以降はホームラン狙ってたし……思うままにはならねぇな実際のゲームってのはよ。中学んときのイメージではもっと活躍してるはずだった。5月の練習試合もよ、置鮎相手に投げ勝って、ホームランぶっ放してよ。それが理想だった。現実はあーなっちまったが。全力で戦うことがいい経験になる。そうしねぇと自分の立ち位置がつかめないからな。それにしても運が悪かった。このオレがピッチャーが8回途中降板、ヒットもたった1本、打点1とはよ。高1のときの泡坂と比べたらまだまだだ。……いつか泡坂もオレと比べられて困っちまうんじゃねぇか?」
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四球目のインコースに入ってくるスライダーを叩いた。
「格が違ぇんだよ久世」
左肩にぶつかるほどの豪快なフォロースイング、
投げだされたバット、
桜は打球が右翼フェンスに直撃したのを見て「ったく、これでも入んねぇのかよ!!」と言い捨てる。
右翼貴船が打球処理に手間取る。ボールを受け取った佐山が三塁へまで一気呵成のスローイング! 無制限の体力を誇る桜が激走し、回りこみ、三塁手のタッチを掻い潜った。セーフ!
片城がホームベースを念入りに踏みしめている。ピッチャー桜の同点となる適時三塁打!! 試合はふりだしに戻る。青海の勝勢は松濤の手によって引き戻された。
青海00000006 |6
松濤00000006 |6
「あーチクショウ!! 8回表がなければ最高のゲームだったのによ……」
ベース上に立った桜はスラダンの試合終盤みたいな汗をかいていた。あれだけ投げてあれだけ走ればそうなる。桜はヘルメットを脱ぎ、まずライトの泡坂を、次いでブルペンの置鮎に視線を送る。
「還せよ屋敷」
「あの二人に劣っていないぜおまえ。それはそれとして次の打者なのに準備ゼロだった」
久世がマウンドを降りる。




