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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
第■■■回全国高等学校野球選手権大会東東京大会決勝戦 青海大学付属高校対松濤高校
80/102

8回表 策を弄するぞ

(遅いボールを打って飛距離をだすには技術がいる。その技術は佐山さんにありますが、しかしこのボールはそれだけでホームランにはできない)

(タイミングはあってました。少しも安心できない……。今佐山さんは速球を待ちながら超スローボールにあわせかけました……!)

 佐山相手に同じ球種を2回連続で投じた。ギャンブルがすぎる。

 今度は片城から話しかける。

「ナックルボールではないことには気づいてらっしゃるんでしょう?」

こっちに考えさせようとしている。3球目になにかあるってこと?」

 若い女性たちの熱い快哉は佐山の耳には届かない。彼は超集中状態にある。

 打者は気づいている。

(投球間隔が普通よりも長いのはなにか『しかけ』があるからだね。駆け引きには応じないよ)

 片城は自分を戒める。

(あまり話しすぎると狙いがバレてしまうかもしれません。注意しないと)

 佐山は勢源が投じた『シェイクボール』の投法を想像する。

(握りは通常と異なるが、勢源が投げているボールの変化はナックルのそれだった。勢源の手の大きさや握力ゆえにそうなるのか? あの変化球は失投しないよう繊細な動作を要求されるから、通常の勢いのあるフォームで投げることができない?)

 佐山の『シェイクボール』に対する分析は正しい。

(! だがあの縮こまったフォームからストレートがくることも念頭に置かなければいけない。気づいて良かった……)

 3球連続で『シェイクボール』は考えにくいか。

 佐山は思考をベンチに巡らせる。まだ彼はこの試合仕事をしていない。風祭や泡坂のように堂埜監督に期待されたプレーを見せていないのだ。

 命を助けられた過去を引きずっている。

 野球は自分のすべて。

 負けて笑うなんてありえない。

 才能はチームを勝利させて始めて評価される。

 青海チームあっての選手プレイヤーだ。

 佐山には焦りがあった。

(青海大学附属高校野球部は僕のチームだ。ここで一本打って最低限)

 勢源は悲しい顔を相手投手にむける。

(おいおい俺は眼中にないってか!? 寂しいぜ)

「佐山ぁ、策を弄するぞ」

 そう宣言し勢源はワインドアップ、両腕を高く持ち上げる!

(通常の投球フォーム! 3球連続であのボールはこない!!)

 手に汗握る佐山。そして気づいた。

 超スローボールを2球見て眼を慣らされたあとに、勢源が最速《110㎞/h》のボールを投げればわかっていても振り遅れる。

 投球直前、佐山はバッターボックスの最後部へ移動!!

 これで勢源がストレート系のボールを投げても到達する時間差で対処できる。

 勢源が踏みこみ、第3球投げたのは、

(は!? 無回転? 結局ナックル!!?)

 裏の裏は表。

 通常のオーヴァースローからナックル、

 ボールを鷲掴みにして弾き投げる通常のナックルだ。

 ストレート系のボールを想定していた佐山は、ステップした右足が持ちこたえない。一度地面についた。

(さっきよりもボールが速い、ステップを踏み直せないのなら!)

 力で打ちにいく。

(それは悪手じゃないですか)

 片城はすべてを見ていた。

 下がりきった今の位置ではナックルボールが最大変化する。2球目の比ではない。

 ボールは真ん中からインコースに微動、

「もう一声!!」

 勢源の声がきこえたかのようにボールはそこからアウトコース、斜め下に急速に落ちる!!

 獰猛なまでの変化、

 インコースを意識し開いた佐山は投げだすようにバットを当てにいったが、

「無理です」

 そう断じたのは片城だ。


 凌駕。


 佐山のバットはこのナックルに触れられない。

 勢源が天才の上をいった。

(駆け引きであしらわれた。オーヴァースローだから速球がくると……そこからの無回転、予測不可能な変化に対応しきれなかった……!!)

 マウンドに立つ小男に見下ろされる佐山。

「俺を見ろ」

 佐山は完全敗北、この試合でまったく結果を残せなかった。

 地面をむいたままなにも言わず、彼はベンチに姿を消す。

 打ちとった勢源の頬を伝う汗がすごい。

 投手のもとに近づく片城。

「3球勝負じゃないと勝てませんでしたね」

 佐山の対応力なら4球目に同じ変化球は使えない。そして勢源はシェイクボール以外に青海に通じる武器を準備できなかった。

「シェイクは完璧に手懐けているわけではない……ナックルはともかくシェイクボール《シェイク》のほうは発生保証がないからな。勝率は7割くらいだった。佐山もホームラン狙いじゃなかったらファウルにはできたろ」

 佐山から奪った三振は6失点したイニングの3つ目のアウトにすぎない。

 勢源の『火消し』は微小な勝利にすぎないのだ。

 それでも凌いだ。極小さなガッツポーズに気づいたチームメイトは二人。

 手を叩き屋敷は褒め称える。

「3球三振、オール空振り、ファウルもなし。『勝つときは僅差ではなく圧倒的な差をつけろ』とニーチェも言ってたよ(意訳)」

「人の意見かよ。つうかなんでそんな偉そうなんだよ!」

「見事だ勢源、俺の期待そのままの活躍振りだった。投げる前そう言ったよな?」

「過去を改変するな」

「やっぱレベチだわ。ずっと投げてればいいのに」

「攻略されるだろ。……俺はアウト1つ稼いだだけだ。アウト23個とってきたのは桜だよ。9回表、投げてもらうからな!」

「決まってんだろ!!」

 即答したのはそばに立つ桜で、

「桜君ならそう答えると思いました」

 片城は小さくうなずく。

 点差は6。

「針の穴にラクダを通すような奇跡を要求されるな」と屋敷。

「奇跡じゃ勝てねぇよ。実力で泡坂を打ち崩す。俺を信じろよお前ら」と勢源。

『御大将』は希望を捨てていない。


  青海00000006 |6

  松濤0000000  |0


 片城は勢源に手伝ってもらいキャッチャーの防具を外す。

(最初が肝心です。この一打席でゲームの流れが決まりかねない。相手は――)


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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