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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
第■■■回全国高等学校野球選手権大会東東京大会決勝戦 青海大学付属高校対松濤高校
78/102

8回表 いつもの俺って感じだな

《青海視点》


 片城の配球を攻略された。


 至上の配球リードとは、一球一球の『球種』『コース』『速度』などといった情報を与え、相手の思考と動作をコントロールし意のままに打ちとること。

 単純な例を挙げるなら――

『インコースに投げられれば意識がそちらにむかい、外のボールに手が届かない』

『遅いボールを先に見せれば初動が遅れ、速いボールに反応することができない』

 1球だけではなんでもない見せ球が、決め球として一流相手に通じてしまう。

 1球目を見たあとの3球目、2球目を見たあとの3球目……と組み合わせ(コンボ)が成立し効用は高まっていく。

 仮に一回の投球に『球種』×『コース』で3×9、27通りの選択肢があるとしたならば(これでも少ない仮定だが)、指数関数的に配球の組み合わせは増えていく。

 球数が増える毎に1球目(27)、

 2球目(729)、

 3球目(19683)、

 4球目(531441)、

 5球目(14348907)、

 6球目(387420489)!

 6球でバッターを打ちとると仮定しても、投球の組み合わせは3億手をはるかに上回る。この無数の組み合わせから打者の反応やカウントを前提に最適手、最善手を選べるのがトップクラスの捕手だ。片城や今村にはこれができた。

 では打者はどうすべきか?

 有効な対策として上げられるのは――

『第1球を叩けば組み合わせの樹形図ツリーは広がらない』


 青海打線は初球攻撃を続ける。

 それが失敗しようと積極的だ。それが成功ヒットにつながっていく。

 6番打者ライト前ヒット(一死一塁)。

 7番打者左中間適時二塁打タイムリーツーベースヒット、1点追加(一死二塁)。

 8番打者左翼線適時二塁打タイムリーツーベースヒット、1点追加(一死二塁)。

 二塁走者三盗成功(一死三塁)、

 9番打者得点犠打(スクイズ)、1点追加(二死走者なし)。


 この回一挙6点、3番今村から9番御手洗まで桜は12球しか投じていない。わずか12球、時間にして一〇分間弱で打者七人に対し被安打6、失点6を喫した。


  青海00000006  |6

  松濤0000000   |0


 松濤は返済不可能な負債を押しつけられている。

 これまでの鬱憤を一気に晴らすかのような青海の猛攻だった。

 ナインに流れを変えるようなプレーはない。

 2死ランナーなしの状況で勢源がマウンドに駆け寄ってきた。

 タイムをとり松濤ナインが集まった。全選手集合だ。

「ピッチャー交代だ。桜はお疲れ! 外野で少し休んでろ」

 勢源は優しく言った。

 エースからボールを奪おうとするも拒絶される。

「……」

「また黙りに戻るのかよ桜。ここまでゲームをつくったんだ。おまえは自分の仕事を果たしたよ」

 勢源はそうねぎらい桜の胸を叩く。

 それでも桜はマウンドから降りようとしない。不満そうに勢源を見下ろしグローヴで口元を隠す。ボールは右手に握ったままだ。

「……」

「6点は勝てる点差だ。それともあれか? 桜もみんなも闘志がなくなっちまったのか? ()()()()()?」

 元マネージャー志望が自信家の一面をのぞかせた。

「世界一さんは言うことが違うなぁ」と屋敷。

「あ、当たり前でしょ!」

 比叡はあわてて勢源の意見に追従する。

「じゃあ勝てるって思ってる奴は行動で示してもらおうか?」

 そう勢源が言うとすぐさま屋敷は桜に腹パンを喰らわせ、

 同時に逸乃がビンタ、

 首の後ろに手刀を当てる華頂、

「なにしやがる!!」

「早く失せろカス」

 中原は暴言を吐き、

「僕も勢源君の意見に賛成です。大人しくしたがってください」

 こぼれ落ちたボールを片城がキャッチする。

「なにやってるのあんたたち……」

 呆れる比叡。

 アダムはこう言った。

「セイゲン、オレが投げる。桜の代わりに……残りのイニングは全部オレに任せろ」

 勢源がこう言い切る。

「いや俺が投げるね。俺があいつを抑える」

 殺気に気づいた選手たちが振り向く。

 バットを持って座る青海の1番打者・佐山の姿があった。

 いつにもなく野性味にあふれたその容姿……『甲子園のアイドル』はどこにいったのやらだ。

「佐山だろうが風祭だろうがオレが抑えるよ。試合前は……正直投げたくなかった。こんな大勢の人のまえで……大事な試合だし。相手はとんでもなく強い。でも――」

「でもなんだよ?」

「もう一点もやれないだろ? オレが投げなきゃ勝てない」

「前半はイエスで後半はノーだ」

「オレは今日変わるよ。恥だってかく。チームのために戦える……そんな当たり前のことも言えなかったな」

 臆病な眼をしていた数分前のアダムの面影はない。

 今はもう迷いはない。

「そういう精神的成長シーンは攻撃のときにとっておいてくれないかアダム。おまえのバッティングには期待している」

 肩をたたく勢源。

「あ!?」

「お前じゃ力不足だ。その勇気だけもらっておおく」

 困惑し右腕に力こぶしをつくるアダム。マッチョを誇示するな。

「そういう意味じゃねえ! 今のおまえじゃ青海には通用しないってだけだ。勝算がないから勝負させないの!!」

 投手アダムには力はあるが技術がともなわない。

「おまえ! おまえ大して成績変わらないだろオレと! あんなおっせぇボールでサヤマと戦うのか?」

 勢源の球速の遅さは事実だ。

「小笠原晶子よりも遅い説ある」

「またよくわからないことを屋敷先輩は言う……」

「黙ってろ!!」

 すでに黙っていた残りの選手たち。アダムと桜も口を閉ざす。

 勢源は強く手を叩く。

「議論なんて意味がねぇ。俺がどんなくだらない低脳な意見口にしようがおまえらに反論の余地はない。なぜなら指揮権は《《俺》》にしかないからだ」

 背番号7、チームの一員である勢源が松濤高校野球部の監督だ。

 ふざけたことに一生徒の彼がこのチームの序列をつくっている。

「指揮権の分割なんて『船頭多くして船山登る』だろ。いつも言ってるがおまえらの意見は参考にするが判断するのは()だ。現場指揮官だからって勘違いするな。()が監督だ。監督より上の選手なんて存在しねぇ。……変に説得しようとした()が間違いだった。その点は謝るよ」

「王様は桜君じゃないですよ」と片城。

 キャッチャーはうやうやしくボールを勢源に渡す。

「散れ!!」

 わずかな間を置き、二人の投手候補が外野へ走って行く。他の選手たちもそれに習う。

「いつもの俺って感じだな」

 自嘲してマウンドに立ち足場をならす勢源。

 逸乃が優しい顔をして言った。

「……敗北の美学、なんて言わないよね。誰が投げても打たれるならいっそ自分が、なんて」

 誰でも見惚れてしまいような表情なのだが勢源にそんな余裕はない。

「それはねぇよ逸乃。うん、頼むからかわいそうなものを見る眼やめてね」

 ほっとした顔をする逸乃。

 屋敷は心配そうにして言った。

「大丈夫か? 本当は打たれるんだろう? 俺が投げてやろうか? ボクぅ?」

 誰でもキレてしまうような表情なのだが勢源にそんな余裕はない。

「ピッチャー舐めんなよ屋敷!! ……その気になりゃおまえだって打ちとれる」

 ふーんという顔をする屋敷。

「あの人ホームラン狙ってますよ」

 キャッチャーミットで口を隠しそう指摘した片城。

「ランナーなしの二死ツーアウトなら長打狙いもわかる。いや理屈じゃないか」

 センバツの決勝で30点奪ったチームだ。

 小さな成功を積み重ね勝利をもぎるチーム。少しでも勝率を上げるために走攻守投すべての局面で効率最大化を狙う……そんな青海にあって佐山は横暴にもスタンドインを狙っている。

 我欲の発露。

 この試合佐山がヒットのみを狙い続けてきたのは彼が1番打者の役割をまっとうしていたからにすぎない。クリーンナップ(3~5番)にはいれば一発で相手投手を打ち砕いてきた。

(シングルヒットじゃ僕のミスは帳消しにはならない。リードしたこの場面だからこそ、このイニング3本目のホームランで試合を終わらせる。それが青海の顔の役目だ)

「三振狙いだ。三振は純粋投手指標《FIP》的に出塁の可能性がゼロの『完全アウト』。佐山から三振を奪えば試合の流れを松濤に引き戻せる」

『本塁打狙い対三振狙い』


 打席に立つのが佐山、救援リリーフしマウンドに立つのが勢源であることから、観客のほとんどはこの対決に一つのテーマを見出していた。


『天才対元天才』

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