7回裏 脳が破壊されてますやん
《松濤視点》
『桜の場合』
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都大会の初戦が行われる一週間前のこと。
松濤高校野球部御一行様は、大会直前の決起会という名目で学校付近のデパート《デパ》地下にあるケーキ屋さんに突入しスイーツを捕食していた。
ちなみに店を選んだのは顧問の千歳先生で、そして店に足を運んでいるのは一〇人だ(部員八人プラス夙夜と千歳先生)。年長者相手には逆らえない(儒教)。桜一人だけが姿を現さなかった。
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「肉……ない? なら……俺いかない。甘シャリ(甘い食べ物)より肉……肉出せ。……大会あと肉、絶対!」
なぜか原始人っぽい話し方になる桜。
「了解。したらば大会の打ち上げは焼き肉にしよう。最後に肉を食べたらどんな物語もはっぴいえんどだからな。代金は中原様が無尽蔵の財力を発揮してくれるはずだし」
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日本で唯一の店舗だというフランスの人気店だ。約4000億種類のケーキから好きなものを一度に二つまで注文できる。しかし食べ放題だというのにそこはアスリートだ、1名を除いてみんなケーキを1つしか注文していない(ストイック)。例外としてアダム一人が子供のような顔をして宝石のような色合いのケーキ2つをチョイスし口に運んでいた。
「慎一……これっていくらでも食べていいってことなの?」
「そうですわよ夙夜様」
「料金の追加もなく?」
「お召し上がりになられる量だけご注文なさってくださいまし。誠に失礼かと存じますが、お残しになられますとお店の方のご迷惑になりましてよ」
5分後、夙夜はもう4つ目のケーキの注文をしていた。むせる。
一人だけケーキを頼まずコーヒーを飲んでいた片城が不意にぶちまけた。コーヒーをでなく自分の過去をだ。
「まえに桜君が同級生に告白してフラれたって言ったじゃないですか。その女性今僕と交際しているんです」
鼻水。
「恋の話? ききたいききたい!」
期待に頬を赤く染める千歳先生。高校教師ぃ……。
「彼女は松濤の生徒ではないですからみなさんとは面識はないですね」
「トゥクンするお話?」と俺。
「それはわかりません……名前は君島里香さんと言います」
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学校の廊下で顔をあわせる桜と片城の二人。
「片城、おめー俺を裏切んのか?」
「なんのことです?」
「里香と付きあってるんだろ?」
「ますよ」
「ますよって……。お、俺が里香のこと好きだってわかってたんじゃねえのか?」
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俺「NTR? いやBSSか?」
夙夜「略称でコミュニケーションとらないで」
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頭をかきむしる桜。
「せ、先週俺が勇気出して里香に告白したら、おまえの名前だしてきて断られたんだけど……。ずっと家に引きこもってたんだけど」
「そんな程度のことで練習やめるなんて……夢をあきらめてしまうなんて底が知れますね……」
「野球と恋愛は比較できんだろ!」
「ショックですよ。桜君にとって野球はそんなに軽い存在だったんですね。そんなんじゃ青海には勝てっこないです」
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中原「こいつ、思ったよりゲスか?」
アダム「なんで仲良くしてられるんだよ!」
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「俺と里香は学区同じで小学校も一緒! 中学でも毎日会いにいって話してた仲だった! あいつのこと好きだなんて明白だったろ! 里香のほうも俺のこと嫌いじゃなかったし!」
「僕たちが公園で練習しているときに見にくるくらいですしね。あの日遅くなったから帰りに僕が送ったじゃないですか。もう連絡先交換してましたよ」
「……ん?」
「かわいいですね君島さん……。最初小学生が校舎に紛れこんできたのかと思ったら僕たちよりも学年上でびっくりしましたよ」
「片城と里香……いつから付きあってるの?」
「もう半年くらいにはなりますね」
「んんんん」
しばらくの間下を向いて考えこむ桜。
「なんで教えてくれなかったの? つきあってること」
「桜君が落ちこむところを見たくなかったそうです。僕はさっさと伝えたほうが良いと思ったのですが君島さんの意向で……」
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夙夜「君島さんが夢女みたいなロールしてる」
俺「夢女ってなに?」
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「君島さんは三人の関係を壊したくなかったんでしょう。僕と桜君が放課後野球の練習をしていて、それを黙って見守ってくれる君島さん。君島さんは無口でなにを考えているかよくわかりませんが……」
「話すとけっこう口悪いだろ? そこがいい」
「いえ僕には優しくしてくださいますよ」
桜は廊下の柱に頭をぶつける。複数回。
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俺「脳が破壊されてますやん」
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