表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
第■■■回全国高等学校野球選手権大会東東京大会決勝戦 青海大学付属高校対松濤高校
69/102

7回表 ここまでミスらしいミスがないのが奇跡か……

 佐山はバットを放り投げ地面に倒れ伏す。

(どうして僕にチャンスを与えてくれないんだ! 父さんが見ている試合で!! 僕以外の誰が青海を救える!!?)

(誰でも)

 そう斬って捨てたのは今村だ。

(桜が暴走しかけたがどうにか歩かせることに成功。あいつのプライドを鑑みて際どいコースに投げ歩かせるつもりだったらしいが……。俺もランナー2塁で佐山を迎えたら歩かせるで)

 桜はまだキレたままボールを宙に投げてはつかみ、投げてはつかみを繰り返していた。

 佐山がトボトボと歩み一塁に到着。

 ファーストの屋敷が「いいガタイしてるね、なにかスポーツやってるの?」とジョークを飛ばすも完璧に黙殺される。

 片城がサインを出した。

(2番の芹沢は右打ちやらせたら天才や。シングルヒットで2塁の御手洗が還る現状は変わらない。桜は今のボロボロな精神状態を立て直せるか?)

 右打者の芹沢にとってアウトコースに変化する桜のスライダーは絶好球。

 松濤の外野はセンターアダムがかなり浅く守り(外野三人が同一直線上に並んでいる)、ライトとレフトがそのセンターに近寄るという2塁ランナーホーム生還阻止態勢。今村ですら見たことのないシフトだ。中央が堅く外野は抜きにくい、そこに打たれれば二死満塁、芹沢がレフト線付近ないしライト線付近にヒットを放てば二人還るというリスクを負うことになる。

(勢源はこの試合の先制点の価値の高さを理解しとるようやな)

 芹沢への初球は外への力ない棒球。芹沢は見極めボールの判定。

 まだ怒り足りない桜はマウンドを強く踏む。

 投手が捕手への信頼を完全になくしている。

(片城も片城や、あのタイム中に桜に対し実力行使も含め言うことをきかせるコミュニケーションをとるべきやった)


   *


「いやぁ、すごい打線ですね。佐山さんは歩かせて、とりあえず芹沢さんは勝負、彼を打ちとれてもまだピンチです。泡坂さんも一発があるから敬遠して、風祭さんはどこに投げても打たれる気しかしないので同じく、今村さんは配球を読み打ちしますしチャンスに強いから歩いてもらいましょう。この時点で押し出しで失点しちゃってますねどうします?」

「全員殺すに決まってんだろ!?」


   *


 片城は勝敗だけに興味をもっている。たとえ親友に、相棒バディに嫌われようとそんなことは些末な問題だ。どんなに桜と仲が悪くなろうと、今日勝ちさえすれば友情なんて必要ない。

(今日のために明日なんて捨てられる)


(正確に、素早く、強く!)

 片城は座ったままではなく、立ち上がり、左足を踏み出しながら右足に体重、強いボールを桜に返球する。

(桜を独裁者にするつもりはないようやな。片城が自分の怒りを表現するため、メッセージの意味もこめ強く返球――)

 その今村の判断は誤りだ。

(――! ボールが高い!)

 キャッチャーの返球は桜を狙ったものではなく、

 そのまま2塁ランナーを刺すためのもの。直前に片城のトリックに気づいた桜が本能的に身を反らしボールを避け、

 2塁ベース20㎝上、

 そこにいた華頂がキャッチ→御手洗へタッチアウト!

 青海にとって一抱えの金塊にも値する希少かつ貴重な2塁ランナーが無駄死に。

 片城は決してこの状況を狙ってつくっていたわけではない。

 ショート逸乃はあくまで返球が逸れた場合にそなえバックアップしていただけ。華頂の移動にあわせ片城が投げた。

 桜が本気で敬遠という指示に怒っていたため、そのフラストレーションをランナーからアウトをとるために利用した。

 このチーム一の謀略家はこの男だ。

 1塁ベンチに戻りグラブを叩きつける桜。

(無失点で終わってこの怒りよう。そんなに佐山と勝負したかったのか?)

「中原さ、なんか相対的に常識人になってない?」と屋敷。

「俺がどうかしたの?」と中原。

 勢源が口を開く直前、片城が優しく桜に話しかける。

「桜君?」

「あ、どうした?」

「集中してもらわないと困ります。この回僕らに打順回りますから」

「っっ! ああ……そうだな、片城」

 片城が声をかけるだけで、桜の怒りは沈静化した。

 松濤ベンチの空気が和らぐ。

 屋敷はこのイニング、桜の様子をつぶさに観察していた。

(敬遠がなんだっつうんだ? そもそもなんで怒ってるかわからんし……)

「ピッチャーって本当に人種理解不能」

「それどこの方言ですか屋敷先輩」

 自分も含めチームメイトの疲労が色濃いことに屋敷は気づいていた。

(同じプレー内容でも年長者に比べ経験のない若い選手のほうがスタミナを消費する)

(動作に無駄が多く、また緊張のため状況判断が遅れ、それを取り戻すため余計に燃料消費が嵩んでしまう)

(『若いチームは緊張して心拍数が上がりそれだけで体力が消耗される』とスポーツ心理学の権威も言ってたっけ)

(同じイニングプレーしていても青海の奴らのほうが疲れていない。ましてやこっちは大会通して九人で乗り切っていた。ここまでミスらしいミスがないのが奇跡か……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ