6回表 これは俺が始めた……
《青海視点》
『風祭』
風祭という怪物は青海中等部入学以降、泡坂という超人と比べられ続けてきた。
ともに高身長、同学年の男子と比べればはるかに大柄で、力が強く、そして俊敏でもあった。野球の実力も情熱も同等だ。
風祭は打者で泡坂は投手。しかし中学時代泡坂は(前述したが)怪我が多く野手陣に混じって身体への負荷が比較的少ない打撃メニューを多めにこなしていた。
打撃に専念していたわけではない。
それでも試合に出れば野手一本の風祭と同レヴェルの成績を残す。
青海大学中等部には二人の超打者がいた。
最適化したスイングで弾丸ライナーを連発する風祭と、
その強振でボールを破壊するほど恵まれたフィジカルを有す泡坂。
二人が高等部に進学し青海野球部が各大会で勝ち続けるにつれ、彼らの知名度は全国に知れ渡るようになった。
大勢の野球ファンたちがこの二人の優劣の議論をするようになった。
攻撃に関する成績について比較するならば、
打率、出塁率、ΟPS、打点といった指標は風祭のほうが上回る。
得点、長打率、本塁打数、盗塁数といった指標は泡坂のほうが上回る。
それぞれの長所がある二人の打者の成績にすぎないのだが、ファンやマスコミの意見は違う。
「投手としてのトレーニングに時間を割きながらこの好成績、打者としての才能は泡坂のほうが上」
「大事な場面で先制打を放ってきたのは泡坂、好投手相手にホームランを打ってきたのも泡坂だ」
「普段の練習中、木製バットで打たせても柵越えを連発している泡坂に比べ、金属バットに慣れすぎた風祭は木製バットに苦戦しているというじゃないか。プロ入り後に差をつけられなければいいが(笑)」
(この手の戯れ言を真に受けるほど俺は幼くない)
(俺と泡坂の間に明確な優劣などない)
そう思っていた。
だが風祭はあるとき……
*
1年目の春、センバツ大会の決勝。大阪代表校との試合は青海の大勝に終わり、甲子園から宿泊先のホテルへバスで移動する最中のことだった。風祭は泡坂の隣に座る。
泡坂は投げては被安打4の完封、打っては先制となる3ランHRを放つという獅子奮迅の活躍だった。
風祭は1回に相手エースの投球を右手に受け、試合から退きベンチで戦況を見守っていた。
部員たち全員が笑い沸きに沸いていたその空間で、泡坂は風祭にこっそりと漏らした。
「風祭、まだ気が早いけどさ」
「なんだよ?」
「今日の試合で決意がついたよ。俺はNPBにはいかない。MLBでどこまでやれるかわからないけれど、誰もまだ成し遂げてないことをやってみたい」
「……」
「世界一になるんだ。自分の気持ちに嘘はつけない」
*
(俺はこの先も泡坂と比べられ続ける運命にあるのだと思っていた)
(選手として互いに高めあえる。プロになってからが本番だ。そう勘違いしていた)
(あいつと俺は見ているものが違う。立とうとしているステージが違う)
(俺が中期目標にしていた『複数球団からドラフト1位指名されてのプロ入り』、『入団後2年目までに個人タイトル獲得』……)
(それらすべてがあいつにとって《通過点ですらなかった》)
(俺はすべてにおいてあいつに劣っている……)
そういうものだ。
最強青海高校が新興チームと互角の勝負を演じている。
都大会の決勝。
今日だ。
今日泡坂を超えなければ、もう風祭は自分のトラウマを払拭することができない。
6回表、攻める青海高校の先頭打者は風祭だ。
桜の初球、大きく落ちるカーヴを豪快に空振りし1ストライク、からの第2球。
打順が3巡目にはいり松濤バッテリーはスライダーを多投している。
風祭はそのスライダーに狙いを定めていた、
(絶対に打つ。後続の泡坂以上の内容と成果を)
(これは俺が始めた物語だ。1回に俺の三重殺がなかったら松濤相手に競った展開にはならなかった)
(俺が決着をつける)
青海大付属の窮地を救うのは自分の打棒、そう風祭は確信していた。
第2球、風祭はそのボールを避けることができなかった。
曲がりすぎたスライダーが打者右膝を直撃!
(なぜ避けなかった!?)




