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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
第■■■回全国高等学校野球選手権大会東東京大会決勝戦 青海大学付属高校対松濤高校
62/102

6回表 証明したい

   *


「ぼ、僕が全部悪いんです。父さんはなにも悪くなんてない……!」


   *


「初めてあいつに会ったとき、佐山は虐待に等しい練習量を父親に強いられていた。毎日朝から晩までね。クラスメイトと放課後遊んだことがない。学校の行事にも参加しない。だってそれは『必要のないことだから』」


「8年前社会人野球を辞め、それから実家が裕福らしくまともに働いていなかった父親が、子供を過剰練習オーヴァートレーニング症候群になるほど過酷な練習をさせていた。端的に言って虐待死しかけていた」


「倒れて入院することすらあったそうだ」


「入った学校が学校だったら再起不能になっていた可能性すらある」


「きちんと休養をとらないと身体は成長しない。だから佐山は同世代の子と比べても身体が小さいんだ」


「父親の目的は自分の叶わなかった夢を息子に実現させる事。才能ある息子を一流のプロ野球選手にすることだ」


「佐山はそんな父親を異常だと認識していなかった。自分が父親の期待に応えられないことを心底恥じていたんだ。()()()()()()()()()()


「今村、そんな顔するなよ。大事なチームメイトのことなんだからさ……」


「俺はあいつを父親から引き離した。どうやってあのクソ親父を離したかというとそれは大人の事情で秘密ね……。あの男が佐山に会いにくることはない。青海に在学している間はそうだ」


「最低の父親だったが指導者としての才能はあった(いい選手には必ずいい指導者がついてるものだ)。息子の才能は開花していたよ。並の選手が高校生のうちに身につける技術を中学生のうちに習得していた」


「でもあいつには動機付けがなくなってしまった。最低な父親を引き離してしまったがゆえに……」


「あいつは父親が喜ぶから野球をやっていたんだ。自分のための野球じゃない」


   *


「父さんがいなくなった今、僕はどんな理由で野球をすればいいんですか? 僕にはもう……戦う理由がない」


   *


「他人のために戦うことができる人間は強い」


「俺は佐山に言ったんだ。この2年半は青海のために戦って欲しい。チームのためにプレーだけでなく言葉でチームメイトを引っ張って欲しい、グラウンドの外でもチームの規範となる行いを守って欲しい」


規範役割ロールモデルって奴ね」


「あいつの世界観はシンプルだ。青海このチームが勝てば野球部のみんなや観客席のファンは大喜び。悲しむ人間など存在しない」


「もともと正義漢で礼儀正しい奴ではあったけれど、それからは見てのとおり、裏表をなくすようになった。相手を問わず率直な意見を言うだろ。それができるようになったのはその選手に憧れていたからと、最低な父親の元から物理的に離れたからだ」


「愚直な性格していてさ、年上に対しても間違いがあったら指摘する。でも嫌味がないし反論もできない。見てくれが良くて女からのウケもいい。そのくせ恋愛感情なさそうなくらい野球馬鹿でさ」


「俺が求める人材だった」


   *


「僕は青海を日本一にしてプロになり、父さんが間違っていなかったことを証明したい」


   *


「俺はあいつの才能が欲しかった」


「俊足巧打。どのポジションも守れる万能性。ゲームの流れを理解したムードメイカー。あれが青海野球部の部員たちが目指すべき姿だ。目標にするには佐山が傑出しすぎてるけれど」


「俺が懸念しているのは部内の選手間における実力差だよ」


「泡坂と風祭は2年後に高卒でプロ入りするだろう。他の部員とは次元の違う野球を身につけ始めている。でもあの二人は実力が劣るチームメイトを顧みようとしない」


「俺はいつかこうなってしまうことを懸念している。『超高校級のあいつらが試合を決めてくれるなら俺たちはやる気をだす必要なんてない』と」


「試合に出場する選手としない選手に距離感があると、いざベンチメンバーが大事な場面で出番があるときに苦労するのよ。だから距離感を埋める役割を誰かに求めた」


「それが佐山」


「俺が佐山に与えられた物語というのはこうだ」


「佐山は野球部に入りわずか数ヶ月で才能を発揮し始めた。それは堂埜監督を初めとするコーチ陣の能力の高さを意味する。みんなもマジメに練習に励めばいずれ佐山のように試合に出場して活躍することも可能なのだ、と」


「うん、我ながら詐欺っぽい物語だね。でも部員はみんな信じてるでしょ?」


「中学時代佐山が他県でぱっとしない選手だったことも功を奏した。俺は『□□県へスカウト目的で遠征し、目をつけていた佐山に対し非公式に指導していた』なんて嘘を吐いた。あいつはただうなずくだけだった」


「俺はあいつの才能を利用している……そして同学年の一選手に生徒のプライヴェートを暴露しているわけだが……」


「なぜってそりゃ、キャッチャーがチームメイトにナメられたら困るでしょ。だからこういった裏事情も網羅しておかなきゃ。キャッチャーはチームの頭脳、守備の要だよ。汚れ仕事くらいこなしてくれないと」


「実際頭いいかはおいておいて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「部員の前でマンガ読むなって言ったよね。成績も学年上位をキープしてもらってるし、それはこういう意味だよ。今村はピッチャーにサイン首振られるの嫌だろ? ――だよな」


「だから今日のことは内密に頼む。今日から俺とお前は共犯関係ってやつだな」


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