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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
第■■■回全国高等学校野球選手権大会東東京大会決勝戦 青海大学付属高校対松濤高校
57/102

5回裏 俺がここにいるからだ

《青海視点》


 屋敷慎一はそのストレートを狙っていた。

(泡坂は首を横に振らなかった。投手としての『表道具』をここで披露しないはずがない)


 マウンド上で独立する泡坂は一人つぶやく。

「久しぶりに『敵』と出遭えた。どんな強敵が相手だろうと青海の敗北はありえない。『俺がここにいるからだ』」


 発動。


 全身の脱力、しかしリリース直前には一転力感に満ちたフォーム、振り抜かれた右腕、最大出力されたファストボールがストライクゾーンにコントロールされる。その弾道を喩えるならば――

 一直線レーザービーム

 泡坂の右手指先から今村の左手キャッチャーミットまで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。並の打者ならばボールが瞬間移動したと錯覚する。

 今村の捕球術キャッチングでもボールの衝撃を殺しきれなかった。受け止めた掌の痛みに顔をしかめるキャッチャー。

 屋敷慎一は動けない。

(振り遅れ……ではないな。咄嗟に見送っただけや。せやけど)

 屋敷がストライクと判定されるボールを見送ったのは、公式戦において初のことだった。

 一塁手風祭が振り返りバックスクリーンを見上げる。

(最速を更新したか!!)


 163㎞/hのストレートが突き刺さった。


 観衆のどよめきをききながら今村はサインを出し、かまえた。

(現状こっちの勝ちパターンや。計画通りに進めよう)

 捕手は早期決着を狙う。

 屋敷は焦る。初見ではヒットにすることもできないボール。ましてやホームランなど不可能だ。そう判断する。

(あいつのストレートは暴れる。甘いボールが混じるはず――)

 自分の動体視力と『打球操作』の技術を用いれば、泡坂の163㎞/hを捉えることもできる、そう考えていた。

 泡坂はセットポジションの構えから――

 その豪腕を振るう。ボールが有効領域ストライクゾーンに飛びこんでいく。

(インコースにストレート!)

 ホームランを放つため構えを大きくした屋敷はスイングを開始する。

 今村は内心つぶやく。

(――ピッチトンネルや)

 ホームプレートからホームベースまでのある一定の距離を、変化球をストレートと同じ軌道トンネルに通して投げることができれば、打者に球種の判断をすることはできない。

 第1打席でそうだったように、ストレートのつもりでスイングを開始すればまともにミートすることは不可能だ。

 カットボール――手元で小さく変化し打者のタイミングを外し、凡打を誘う球種。

 本来そのはずだが――球速が増しより鋭利に、より凶悪に変化したこの変化球は、

 高校最強打者屋敷をもってしても触れることができない。

 バットとボールに斥力が働いたかごとき挙動。


 牙。


(前に飛んだ感触がない。それよりも……!)

 振り切ったバットが手を離れグラウンドを転がる。

 バックネット裏の中原潔が冷や汗を流す。

(あの変化球は……)

 ボールの上っ面をかすりはした、しかしそのままキャッチャーミットに吸いこまれる。屋敷慎一が球歴初の意図しない空振り。

 第1球以上の盛り上がりを見せる場内、圧倒的声量を背に今村はつぶやく。

「泡坂……やはりお前が最強だよ」

 彼はまだ喜ばない。この打者との対戦でノーボールツーストライクというカウントは2回目である。感情を殺したまま見下ろす。

 もう一人の彼は下を向く。

「ぐぅっ」

 だがどんな強打者もカウントというルールを無視することはできない。

 2ストライク以降は打球を遠くに飛ばすための強振が封じられる。


 屋敷慎一はホームランを放つための挑戦権を実質失った。

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