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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
第■■■回全国高等学校野球選手権大会東東京大会決勝戦 青海大学付属高校対松濤高校
56/102

5回裏 俺たちに神宮は狭すぎる

《青海視点》


 泡坂対屋敷、第三局面。

 長髪の男がゆっくりとバッターボックスにむかう。

 一見過去2打席とその雰囲気は変わらないが、

 だが超一流の嗅覚か、『泡坂の世代』5名が次々に気づいていく。

 松濤の背番号3がこの打席、一発ホームランのみを狙っていることに。

 ベンチで戦況を見守る置鮎が眉をひそめた。

「そっちのパターンも想定済みや」と今村。

「こいつ相手に勝利条件がホームラン。()()()()」と屋敷。

(先のことなど念頭にない。両者ともにこの回で決着をつけるつもりやな)


 タイムをもらいマウンドに登った今村は、ミットで口元を隠しながらチームメイトに語りかける。

「1塁の桜は無視してええ。ホームランを狙う屋敷をどう仕留めるかや。インコースももっての他……」

 泡坂は技術論につきあわない。

「今、眼の前にあいつが現れて初めて気づいた。俺とあいつは逆の立場になったんだよ」

「突然なにを――?」

「屋敷が野球部がいたころは毎日のように対戦していたんだ。真剣勝負ってわけじゃない。あいつの練習に付きあってたっていうのが正しいかな。俺が投げてあいつが打つ」

「それで?」

「それで……俺は毎回驚かされていたよ、屋敷の技術に。でもさ、あいつは小さかったし、やる気もなかった」

「だから?」

「だからあいつを脅威に思わなかった。パワーがともなってこそのスキルだからね。中学生のころ上手くても高校生になるころには他の選手に追い抜かれる。俺はあいつを置き去りにして『全国区』になってるだろうって」

「んで?」

「んで現実に日本一の投手になっているはずの俺に追いついた。いやブチ抜かれてる。俺は喰われたんだ、屋敷の功名のために。『青海のエースでも止められない天才バッター』」

 今村はため息をつく。「今ここで――」

(弱音を吐くんやない泡坂――)

「素晴らしい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 今村はホームに戻ってくる。

 屋敷は視線を上げ、球場の外野フェンス周辺を観察している。

これまでの2打席と違い、野手の守備位置を確認しようとしていなかった。

(こいつ……ほんまに打つつもりなんやな)

 ホームランを。

「やっぱ狭いなこの球場。外野フェンスまで97.5メートルだっけ? ホームラン打ち放題じゃん。()()()()()()()()()()()

「ほざけ」

 1塁を守るキャプテンが野太い声を張り上げた。

「泡坂! おまえなら今度こそ打ちとれる!」

 1塁ランナーは最少のリードで立ち止まり、風祭にむかってこう言う。

「なぁおっさん。屋敷の狙いはわかってんだろ? あいつは打撃について嘘はつかねぇ」

「……っ!」

「泡坂をぶっ倒すのはうちの2年だ。あいつはなんつうか、持ってるんだよ」


 投手と打者が三度対峙した。


   *


「優れた個の能力はチームの勝利に還元してこそ意味をなす。負けた試合で個人記録つくっても無意味……という理屈はわかるんだが」


   *


(――ホームランを打つためにはフルスイングが必要や。そこに勝機がある)

 今村は脳内のデータベースから屋敷が放ったHR(ホームラン)の映像を検索する。映像が残っているものはいずれもインコースの甘い球を精確にインパクトし、フェンスをギリギリ越える形でホームランにしたものだ。

 屋敷慎一は球場の形状を計算したうえで打球をスタンドインさせる。

 飛距離自体は並。

「なにも心配しなくていい」

 マウンド上の泡坂の眼がそう言っている。

(ギアチェンジは済ませた。今の泡坂は抑え役(クローザー)のようにウイニングショットを連投し打者を打ちとれる。あいつが本気を出す条件は2つ。ランナーを溜めるか、あるいは泡坂自身が強者と認めるバッターと対戦するか、そのいずれかや)

 この1年、公式戦で泡坂は強者と対戦することはなくなった。

 泡坂が投手として強くなりすぎたためだ。

 彼にとってライヴァルはもはや身内にしかいない。


 青海に入学した時点で現在の打撃技術を完成させていた早熟の天才・佐山。


 甲子園で150㎞/hの速球を逆方向レフトスタンドに運んだ怪物・風祭。


 しかしこの2名ですら成長した泡坂の直球をバットに当てることはできなかった。

 最強青海野球部、その上位陣の力関係は明確に()()()()()()()()

 ある投手が160㎞/hのフォーシームを常投する領域に達するには、数千万人に一人の優れた才能の持ち主が、長い年月の間修練に修練を重ね、肉体および技術、そして精神、それらすべての条件が満たされなければ実現することはない。

 泡坂はそのすべての条件を見事にクリアした。


(配球というものはおおよそ3つのタイプに分別される。

①打者の弱点を突き、相手の狙いを外す『打者優先の配球』。

②投手の長所を活かす、あるいはその日調子の良い球種を多投する『投手優先の配球』。

③ランナーやアウトカウントといったシチュエーションから逆算し変化させる『状況優先の配球』)

(屋敷相手には第1打席は①、第2打席は③の配球を用いた。この第3打席は②の方針で行く。ストレート、カットともに球速が増しとる。奴に勝ち目はない)

(初球はストレート一択)

 屋敷から三振を奪いにいく、それが投手・捕手バッテリー双方の共通認識だ。

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