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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
第■■■回全国高等学校野球選手権大会東東京大会決勝戦 青海大学付属高校対松濤高校
45/102

3回裏 俺たちは高校で勝ちすぎたよ

《青海視点》


   *


「ごめん、打てなかったよ萌……申し訳ない。あんなボール球に手を出して」

「気にすな佐山。俺らが決めよるさかいに」


   *


(佐山が打てなかったのは本人の性格による部分が大きい)


(外部の人間が知ることはないが、佐山にとって堂埜監督は比喩ではなしにガチで命の恩人なんや)


(自分の生命を救った存在に逆らうことができない。せやからベンチからの指示を機械的に守る。融通が利かない、状況判断できない。そこが佐山の数少ない弱点)

(佐山は監督の采配を守りすぎやった。3回表が始まる前、監督からの「松濤のピッチャーはストライクしか投げてこない。早いカウントから積極的に打て」という指示を厳守しボール球に手を出し凡退……)

(打順が2巡目にはいり松濤バッテリーが配球を変えてきたことに気づいた。ボール球を有効に使い三振を狙ってくる……)

(当然芹沢にもこの情報は伝えた)

(芹沢も俺自身も形にこだわらず先制点を奪うバッティングに徹したんや)

(その結果が2者連続三振――二人が残塁という『最悪』)

(俺は5球ファウルで粘ったがそんなことはどうでもいい。青海の中軸がこの惨状……どんな言い訳もできへん)

(桜のピッチング、片城のリード両方が全国上位レヴェル、そう判断せざるを得ない)

(奴らは青海の首を狩りかねない)

(……この状況を一番喜んでいるのは泡坂やろな)


 泡坂はネクストバッターズサークルでバットを振るキャッチャー片城を見る。いかにも打てなさそうな雰囲気のスイングだ。

 泡坂の声は大きくないが不思議にきき取りやすい。

「勝つか負けるかわからない、ギリギリのゲームになりそうだね」

「楽しそうやな泡坂」

「だってプロなら毎試合そうでしょ? 同じリーグに格下なんていない。俺たちは高校で勝ちすぎたよ」

 2年間敗北を知らない。

「……それでも俺は、勝つために最善を尽くすで」

 今村は他人にどれだけ『卑怯者』と罵られようと意に返さない人間だ。

 相手チームの強打者を全打席敬遠しようと、それがチームの勝利に結びつくのならば上策だと判断する。

(悪いな泡坂……)


 8番打者片城をショートフライ、9番打者桜を三振に斬ってとり、

 さあ1番打者屋敷だ。

 神宮球場が揺れている。

 グラウンドに立つすべての選手がそう感じただろう。

 体感では気温すらこのタイミングにあわせ上昇している。

 王者青海が松濤に3イニング続けて無得点。

 そして『10割』屋敷の打棒はエース泡坂にすら通じた。

 熱が伝播しているのは会場だけではない。ネット中継、各種SNS、テレビ、ネット掲示板などを調べればどれほどの人間が注目しているかはすぐにわかる。観客席が満員であることを知らずに球場に足を運んでいる人も大勢いた。

 もともと『社会現象』と呼ばれるほど人気がある青海高校。

 中等部でその野球部を辞めた12歳の少年が4年後に復讐を果たそうとしている。

 これほどの見世物はそうはない。

 今村は冷静だった。

(ふたたび打席に立った屋敷の顔を見ればわかるが、本人はリヴェンジだなんて後ろむきの感情などもっとらんが)

 純粋に強い奴と戦いたい。ただそれだけだ。

(俺とは違う。自分よりも強い奴を見つけたら同じチームに入ってその恩恵にあずかろうとしていた狡い俺とはな)

 今村は屋敷の〈意〉を確かめ、

(今度はカットボールのタイミングで動くんか。なら話が早い)

 エースにサインを送る。

(この勝負負けてもかまへんし、勝てればなおよしや)

 野球というゲーム内で行われている『10割打者・屋敷の記録を止めるというミニゲーム』。

 泡坂対屋敷、第二局面。

 状況は2死走者なし。


 この勝負は1球で決着がついた。


 その投手は『悪魔の右腕』をもつと称され、つねに対戦相手に恐れられてきた。

 ピッチャープレート前方から投じられたボールが、

 ホームベースを通過するまでの時間わずか0.387秒!

 泡坂が投じたこの日最速の158㎞/h、高めストレートに対し屋敷の反応は遅い。

(当然や。140㎞/h前後のカットを待ってこのスピードボールには振り遅れる)

 思考では遅い。屋敷は反射的にそのスキルを発動させる。

 そのスキルとは、『打球操作』における高等技術、

 名前をつけるのならそう、

 後の先カウンターヒッティング

 振り遅れたバットにボールが衝突する。

 ふらふらと――打ち上がった打球が――詰まった当たりが失速し――ファーストとライトの間に落ちる。

 ライト前へのシングルヒット。

 1塁ベースに到達した屋敷は、一人の選手、青海キャッチャーの今村を見つめる。煽るように首を傾げ、

 それからベンチからの声援におずおずと応え、1塁コーチャーをしている勢源にバッティンググローブを渡す。記録更新。


 球場内のほぼ全員の観客がこう思った。

「本来打ちとったはずの当たりが幸運にもヒットになっただけ。この対戦の勝者は泡坂だ。ラッキーヒットで屋敷は記録を伸ばした」

 スタンドからため息が漏れたのは、屋敷が初めてのアウトになるそのときを見られなかったからだ。

 実際の事情は異なるが。


(超絶技巧がすぎるで……。()()()失打ミスショットして狙った位置にボールを落とした!)

(振り遅れてスイングが低速だったのに正確に捉えた!?)

(いや、全力投球だったからこそ、その威力を利用し『当てただけのバッティング』であそこまで飛ばしたんか……!)

(改めて驚かされたわ。法王大の捕手の証言どおりやった)


   *


「はい。屋敷慎一はうちのエース、須藤の速球に詰まりながらヒットを放ちました。3打席連続で同じような形で」


   *

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