3回表 違うんだなそれが
《青海視点》
*
俺は夙夜に佐山という選手の能力を解説した。
「佐山の特長は同調だ。投手の動作にあわせてステップを踏みスイングを始動する能力が高い」
「ジャンケンでいう『最初はグー』?」
「そう」
「ボールの速さやコース云々より、まずボールのリリースにタイミングがあわなければまともに打てない」
「だから投手はみんなボールのリリースするタイミングを打者に悟らせまいと努力するけど、それを無力化するのがシンクロという技術なんよ」
「……桜君は上半身主導でリリースまでが早く打ちにくいはずだけど――」
「佐山の技術の前には無意味だ。バッティングピッチャーやってるのと一緒だもん。相性最悪だろ」
*
インコースにスローカーヴ。
佐山の『シンクロ』は破れないが、それでも遅いボールでスイングを狂わせる。
ストレートのタイミングで始動していた佐山、だが、
浮かせた右足を接地しもう一度ステップを踏みやがった!
打ち直し。
遅いボールに完璧にアジャストした。
ライナー性の打球は俺の上を行きラインの外へ切れる。ファウルボール。
走者が二人とも還りかねない飛球。ステップの踏み直しとか天才の所業でしかない。桜は野球帽を脱ぎ汗を拭う。
俺は1塁走者に話しかけた。
「佐山なら次のボールで仕留めると思ってんだろ?」
「? 俺たちはいつも佐山に救われてきたからな。あいつはチャラついているが本物だよ」
余裕があるのか3年生は答えてくれた。
「でも違うんだなそれが」
2球目もカーヴ!
今度は1度目のステップで佐山は捉える。
しかしその打球は地を這う。鈍足、どん詰まり、
平凡なピッチャーゴロ。
片城が「ファースト!」と怒鳴り桜は今度こそ素直に一塁へ送球、俺が捕ってアウト。
佐山は苦しい顔をしてベンチに引き上げていく。
ランナーはそれぞれ進塁し結果として送りバントの形となった。
依然変わりなく松濤のピンチである。
「ベンチを信じすぎたな」と俺はつぶやく。
桜はここまでほぼすべてのボールをストライクゾーンに投げ続けてきた。リスクはあるが『少ない球数で相手を追いこみ、相手に考える時間をあたえず打たせてとる』プラン。
それが青海に対するバッテリーの1巡目の攻略法だった。
2巡目からは違う。
2巡目からは『ボール球を解禁し、空振りを狙う』スタイルに変貌する。
佐山への2球目のカーヴはゾーンの外に逃れるボール球だった。1球目よりも速く落ちるカーヴ。バットコントロールが人外な佐山はそれでも当てたが凡退した。
「オレのカーヴを当てやがった……」
三振を奪えなかった桜は不満げな顔をしていたが、気にすることなどない。
数分後、青海打線の中核をなす2番芹沢、3番今村を2者連続の三振に切ってとり余裕綽々でベンチに戻ることができたのだから。
青海000 |0
松濤00 |0
スコアボードに0が3つ並ぶことすら珍しい。
スマホに手をした観客が大勢いた。今さらながら松濤のエース、桜の名前を調べようとしているのだろう(だが無意味だ。中学時代大会末出場の投手なのだから)。
桜は最強相手に渡りあっている。
ピンチになれば球威で圧し連続三振を奪った。
投球内容も良化している。観客たちも少しずつ期待し始めているのだろう。
甲子園4連覇チームが敗れるその瞬間を目撃できることを。
俺も知らないうちに高揚していたらしい。心臓の鼓動がわずかに早まっている。厄介な病気かもしれないので検査を受けることをおすすめする。




