3回表 その格好をつけた態度は……
《松濤視点》
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(発言者、勢源 試合前、神宮球場への移動直前のミーティングにて)
「全力でプレーするんだ! ミスがあっても恥だと思っちゃいけない。どの場面でもファイトして、あきらめず……相手は俺たちにビビったりなんてしねぇ。桜と片城は無名! 中原は実績がない! シニアで活躍してた比叡たちにしても、青海の連中からすれば『誰そいつ?』なわけだし。……今日実力を証明するんだよ! 結果的に負けたってかまわない、やるべきことをやれたらそれで満足だ。今日は最高の試合にするぞ!」
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同じ高打率打者だが俺と佐山の性能はまるで違う。
佐山は左打ち、そして超健脚。
打席から1塁ベースまで駆け抜ける時間が違う。
俺が記録を塗り替えるまでは都大会の連続打席ヒット記録も(9打席)打率も(.810)こいつが記録保持者だったのだ。
佐山はバットを高くかまえそしてステップも大きい。ホームランバッターのスイングで打率を稼ぐ変態。バッターボックスの一番前に立ちながら150㎞/h台のストレートにもあわせていく。
身長も182㎝とかなりあるほうだ。175㎝の俺と違い一発がある。
守備位置はキャッチャー以外どこでもはいれる。
打順も同様で1番、2番、3番どこにはいっても自分の役割というものを心得ていた。
そしてその二次元並のルックスに試合中の明るい表情、ふるまい、コメント、そして数々のファンサーヴィス。青海の『看板』が泡坂なら、『アイドル役』は間違いなくこの男だ(青海の試合はいつも女の観客が多い)。顔写真を勝手にSNSのアイコンに使う輩も大勢いる。超人気者な佐山は攻走守なにをさせても一流で、
しかしこいつが青海で一番野球を楽しんでいない。
青海スタメンで二人いる2年生、8番左翼手国枝が3球目をセンター前に運んだ。無死1塁。
続く9番打者に、青海ベンチは手堅く送りバントのサインを送った。
3球目のスライダーを当てる。
2回に続いてバント処理というシチュエーション、転がるボールはまたしても投手桜の守備範囲。一歩目から捕球までが早い! フィールディングつよつよ。
捕手片城は1塁を指示していたが、桜は迷わず2塁に送球!
だが間一髪間に合わず2塁セーフ。無死1、2塁。
野選でピンチが拡大した。
「相手が青海じゃなきゃ2塁で刺せてたんだけどね」と俺。
スタメンほぼ全員が全国大会でも上位10%の走力を有す青海相手にこの隙は致命傷になる。
無言のまま表情だけブチ切れる片城とマウンド上で視線をあわせまいとする桜。コントしている場合かおまえら。
三塁手の中原が憎々しい顔で桜を見ていた。
『わざと三塁ベースに入るのを遅らせ→
桜が通常のバント処理、一塁に送球→
走者に二塁を蹴らせ三塁を狙わせる→
中原が三塁に戻り→
一塁手の俺が三塁へ送球、二つ目のアウトを奪う』という高度な戦略は無効となった。この大会で一度も試していなかったから勝算は高かったのだが。それはともかく、
青海の打順が一回りしトップバッターが相手だ。
次の打者は――
「よーし! こい!」
バットをかざしながらそう桜にむかって吠える佐山。勇ましい顔だ。
内野席からの応援がかしましい。
この場面、生まれつきなのか人相が悪い投手・桜と、
『正義の味方』みたいな裏表のなさそうな顔をした打者・佐山の対比が鮮明すぎる。
これじゃ守っている俺たちまで悪役みたいだ。
片城が座ったまま口撃にはいる。
「演技疲れないんですか佐山さん?」
「なにかな?」
対戦相手に素直にきき返す佐山。
「その格好をつけた態度はあなたのお父さんの指示によるものですか?」
答えをきかず桜にサインを送る片城。




