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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
第■■■回全国高等学校野球選手権大会東東京大会決勝戦 青海大学付属高校対松濤高校
46/102

3回裏 正直、期待薄

(今村奴……わざと俺に打たせやがった。アウトコースに抑え気味のストレート。外角なら俺に長打はまずない。外野も下がって守らせていたからな)

 真っ向勝負ではない。

 松濤キャプテンは感情をリセットしていた。

「単打なら打たれても大したダメージにはならない。2死(ツーアウト)ランナーなしだもんね。そりゃ試すか」

 リードオフマンは風祭に話しかける。

 風祭は小声で答える。

「そうだな。おまえは中学のころから長打がない」

「俺も少しは鍛えるようになったんだけどねパイセン」

 そう言って自分の腕に触れる屋敷。

「置鮎とやったときもそうだったがおまえは――」

「もしかしてだけど、法王大の選手に話きいてたりしない? さっきの打ち方したの須藤んときだけだよ」

 ゲームが再開し屋敷はベースを離れリードする。

 隠し事をしたがらない風祭は正直に答えた。

「おまえの言うとおりだ屋敷。うちのコーチがコネを使って法王大の正捕手から話をきいたそうだ。練習試合の詳細を」

 法王大戦は大学側のグラウンドで観客を排し行われた。試合に関する情報は外部に流れていないはずだったが、こんな形で漏れていた。

「俺たちを警戒する理由は泡坂?」

「ああ。泡坂がやたらに――」

 泡坂の牽制球! 速く正確に刺してくる。

 屋敷のリードは大きくはなかったがそれでも帰塁はギリギリになった。セーフ。

「はいはい乱数牽制ね」

 走者がいる状況で投手が頭の中で秒数をカウントし、あらかじめ記憶していたランダムなある数字に一致した瞬間牽制をいれる戦術だ。

「1回のときより牽制いれるのが遅かった。同じリズムで牽制いれてたらランナーが楽に戻れるしね」

 泡坂に返球し風祭は続ける。

「泡坂はおまえを『全国で一番上手いバッターだ』と」

 だから青海のスタッフもグレーな手段で松濤高校の情報を仕入れたのだ。

「『上手い』よりも『強い』ほうが厄介だろ」

 泡坂が複数安打マルチヒットを許したのはいつ以来のことだっただろうか?

「いい加減1塁にいるのも飽きたし、2盗して3盗してホーム狙っちゃおっかなぁ」

 2死1塁、打者は2番華頂、

 最初の投球はど真ん中にストレート! ファウルボールが後方に飛ぶ。初球から華頂のタイミングはあっている。

 続いて第2球、球種はカーヴ、ここから、

 強肩で名の知れた捕手今村に対し、

 屋敷がスタートを切る!

 華頂は振らない。単独。

(ざけんなや!)

 2塁には走者が先んじる! 今村の送球は間にあわない。

 盗塁成功。

(屋敷は走りたがる選手やなかったのに、この場面で盗塁?)

 一番遅い変化球だったから盗塁に成功した。本来屋敷慎一は優れた走者ランナーではない。

「やっと得点圏かよ」

 そうつぶやいた屋敷は、そっと泡坂のほうを指さす。こちらをむいた今村へのボディランゲージだ。

 泡坂は仏頂面で『相棒』、今村を見ていた。

 キャッチャーはマウンドに駆け寄った。

「キレるのはわかるで泡坂。でもガマンしろ。おまえのストレートはまだ――」

「コーチが教えてくれたでしょ? 法王大の須藤のストレートを屋敷は詰まらせながら外野の間に落とした。今のと同じ形で」

 法王のエース、須藤も150㎞/h超のストレートをことごとく屋敷にヒットにされている。屋敷の『打球操作』という技術には再現性があった。

「試したんや。おまえのストレートでもあいつが同じバッティングができるかどうか」

「……()()()?」

(メチャクチャ怖い顔してくるやん泡坂。いま試合中やぞ)

「ああ。おかげで欲しかったデータは手に入れた。第3打席、第4打席に活きる」

「(今の打席で)抑えようと思えば抑えられたんじゃないの?」

「ゲームの勝利のほうが大事や!」

「屋敷を抑えて試合の流れを青海こっちにもってきたほうが効果あったんじゃない?」

(それは――)

 今村にもわからない。

 このままいけばどこかで桜は打ち崩せる。

 たとえ屋敷の連続ヒット記録を止められなくても――屋敷をホームに還せる打者がいない以上――屋敷に一発ホームランさえ浴びなければ青海は勝利条件をそろえられる。

(戦場に立っとる今、難しいことを考えている暇はないで)


 第3球、『見る前に振る』感覚でなければ当てられない泡坂のストレートに華頂のバットは空を切り、

 第4球、アウトコースのカットボールに当てるもボテボテのゴロになる。

 セカンドが確実に送球しスリーアウトだ。華頂はなにかブツブツとつぶやきながらベンチに引き下がり、屋敷は3塁ベースを踏めずに引き下がるのみ。

「乾いてそうろう

 ベンチに戻った屋敷はボトルを一本飲み干す。

「1回裏と同じパターンだけど、なにか妙案は?」と夙夜。

「正直、期待薄」と屋敷。


  青海000      |0

  松濤000      |0


   *


 決勝戦の前日。

 置鮎は先発する泡坂にこう語った。

「松濤にはまともに投げられるピッチャーが桜しかいない。アダムも勢源もピッチャーとしてはせいぜい三流。俺たちは桜だけを相手にすればいい。だが投手陣ピッチングスタッフが一人という事実が桜を利することになる」

「一人だから肝が据わる?」

「そうだ。俺たちみたいに一線級のピッチャーが四人いる恵まれた環境でないからこそ、背水の陣で臨める桜は有利だ。あの1年生はナメてかかれない」

「うん」

「桜は5月の練習試合で俺に投げ負け地面に倒れ伏せた。1年が本気で青海に勝つつもりで臨んできたんだ。あそこまで意識が高い奴を俺は見たことがない。たかが練習試合という認識で臨んでいない。ましてや公式戦だ」

「置鮎はそういう精神論嫌いじゃなかったの?」

「暑苦しい奴は嫌いだが、対戦することは避けられないからな」

「俺はいつもの野球をするだけだよ」


   *



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