高校野球は復讐の舞台
準決勝
RDA学園8対9x松濤
RDA学園101100014 |8
松濤501000111x|9x
松濤の4番比叡が中学時代なにをやったかというと、それは所属していたシニアチームのコーチ♂と交際していたことが中学3年時チームメイトやその保護者の間に露見してしまい、事実確認ののちコーチは解雇され、そしてまだ中学生の比叡はそのチームでプレーし続けたが、この手の下世話な「噂話」というものは制御不可能に広まっていくものでおかげで俺の耳にも届いてしまった。
比叡「なにがムカつくって私が被害者あつかいされていることよ! あの人とは対等に、双方合意の上で愛しあっていたのに。あの人が辞めるなら私だって野球を辞めてやっても良かった……あの人がいたから上手くなれたのに――私に推薦だしておきながらキャンセルしてくれた青海や他の強豪校には恨みがあるのよ。私にとって高校野球は復讐の舞台。そしていつかまたあの人と愛欲の日々を送ってみせるわ♡」
はい、清い交際とかそういうのはないんですね。
同性愛とかどうでもいいけれど相手中学生だぞコーチ……。
大会中白い眼で見られることもあった比叡(4番右翼手右投左打)だが大会中はまったく我関せずで打球を空高く飛ばしまくり、チームのなかでも最警戒される存在であり続けた。
早打ちせず相手の配球を読み迷いなくフルスイング。
スキャンダルがなければ青海に推薦入学し、1年生のうちにベンチ入りしていたかもしれない。こいつはそれほどの逸材だ。
準決勝、このゲームでチームの初得点をもたらしたのは比叡だった。満塁から一度もバットを振らずにしてフルカウントからボール球を見送り押し出しの四球、3塁走者の俺が同点のホームを踏む。やってることは地味だが前の試合までの打撃成績が先発投手に対しプレッシャーを与えたのだろう。集中を切らした先発投手が次の打者のアダムに満塁ホームランを打たれた。数分間のうちに5失点。RDA学園の3年生エースを初回でノックアウト。
その強打を披露せずとも抑止力でチームの得点力に貢献する。比叡は満塁でも忌避されるほどの打者なのだ。
華頂「――ここまでは良かったんですけれど? どうしても守りの方が追いつかないですねうちのチームは?」
華頂が指摘するように桜はこの日も無駄にランナーを輩出しピンチを演出するピッチング。セカンドの華頂やショートの逸乃の好守がなければもっと早いイニングに追いつかれていたかもしれない。
*
華頂はキャラがはっきりしない内野手だが、その珍しい名字から何者であるかは判明していてこいつの両親は高名なクラシックの演奏者、その子供の華頂は小学校のころコンテストで何度も優勝するくらいのプレイヤーだった。楽器はピアノだそうだ。正直興味なし。
俺「なんで野球を?」
華頂「音楽を辞めたくて辞めたくて仕方なかったんです? 父親からも母親からも昼夜を問わず虐待に近い指導を受けていましたから? ミスったらメシ抜きなんて当たり前で……?」
華頂は語尾に疑問視がつきまとう男。
俺「毒親ぁ……」
華頂「だから中学に入ったら野球部に入りました?」
勢源「あ!? なんで野球なんだ?」
華頂「『入学した学校の治安が最悪で、でも野球部のヒエラルキーというかカーストが高くて入ったらイジメられなくなる』という架空のストーリーをでっち上げたんです? 実際にはどこにでもある普通の学校でしたけれど?」
比叡「は?」
華頂「そんなこんなで毎日夜中まで学校で自主練してました?」
勢源「どういうことだよ……」
華頂「両親が転校させようとするので、公式戦にでて活躍して先生方に説得してもらう必要もありました? だから死ぬほど努力して、小遣いもプロテインとかトレーニング器具とかで消えてましたし、でも鍛えて、でも野球素人でしたから、そこは根性で? チームメイトにもうんざりするくらい教えてもらっ? セカンドを任されたらそこが天職で守備だけは一流になれたんです? それで3年間ガンバったら? どうにか親も音楽から離れることに渋々同意してもらったわけです?」
勢源「おまえはもう目的を果たしているわけだ」
華頂「でも中学のときチームや学校に迷惑かけましたし? 高校野球で少しは僕の名前が売れれば恩返しになるかなって?」
なかなか狂ってるなこいつ。
*
3回表RDA学園に1点を返されなお2死3塁のピンチ、相手打者のセンター方向に抜けそうな打球をその俊足で捕らえ、そのまま停止することなく《《進路方向とは真逆のベクトルにある1塁にむけて強引にスローイン》》。2塁ベースを横切りショートの守備範囲からバッターランナーを刺した。セカンドゴロ。卓越したアジリティとスローイン。技術だけでできる守備ではない。というかプロでも再現できるプレーなのか?
チームメイトの大半は知っている。小柄な華頂だが装備した筋肉の隆起はすでに高校生のそれではない。ピッチャーと遜色しないレベルの肩だった。球速は《《手投げ》》で125㎞/hにも達する。なおかつ小動物のような俊敏性もあわせもつ。このチームに弱者は一人もいない。
逸乃「勢源に1つ頼まれたんだ。『松濤高校野球部の知名度を高めて欲しい』。人気だよぉ、笑っちゃうね。人気でも青海大学附属には負けたくないって言うんだよあいつは。本当に無理難題だった」
グラウンドでプレーしている選手にとってチームの人気なんてどうでもいいのでは? なんつったってアマチュアなわけだし。と俺は思っていたのだが勢源は首を横に振る。
勢源「決勝戦でぶつかったとき神宮球場のスタンドを埋める観客たちが味方になってくれなければ――俺たちを好きになってくれなければ勝てない。松濤が青海相手に終盤接戦を演じているそのとき、1万人超の観客が青海の味方をして声援を送っている状況は心理的に負担すぎる。10K以上の観衆のレスポンスは未体験だからな……。部員九人の俺たちにはベンチメンバーもいない、スタンドにはチームメイトがいないわけだから」
俺たちはスタジアムで完全に孤立してしまう。
だから味方を創ってしまおうと。
学校の生徒からの応援だけでは足りない。
なにしろ戦おうとする相手がアマチュアスポーツ史上もっとも人気があるチームだ。スタープレイヤーが片手に余るほどいる。年齢性別を問わずスタンドには青海の勝利を見届けようとファンが押し寄せる。都大会の決勝ともなればチケットは争奪戦になるだろう。
そんなモンスターチームとどうやって知名度で戦おうというのか?
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