知らねーよ
5回戦
継星学院7対12松濤
継星学院500000101|7
松濤11111214×|12
5回戦では桜が見事炎上、初回にワンアウトもとれずに6連打を浴びる(大会初のイニング複数失点)。この時点でエースの降板も……というか松濤の敗退もありえたのだが指揮官・勢源は泰然自若、そのまま桜を続投させた。残る二人の投手が桜以下なわけだから結局背番号1と心中する胆だったわけだ。
桜は回を追う毎に復調し6イニングまで投げきった。好調な打線は毎回得点でビハインドを取り返し6回裏に俺に窮した相手が投げた山なりのボール(イーファスピッチってやつだ)を適時打二塁打。逆転に成功する。球数が多く制球に苦しむ場面が多かった桜は6回が終わると降板し7、8回をアダムが、9回を勢源が投げ前年度ベスト8の継星学院の反撃を最少失点で抑え勝利。大会初出場チームがベスト8までコマを進めた。
松濤高校ベンチには野球部部長の羽前千歳(露出過多)がいるにせよ大人が不在のチームで、1年生の勢源は選手兼任監督なんて高校野球史上おそらく初の役割を淡々とこなしている(藤真じゃないんだから)。
大会前には勢源個人がマスコミから学校を通し取材を依頼されたがもちろん断った。
「決勝が終わったら応えますんで」
まっ、受ける意味なんてないしな。
勢源「たとえ無策無能と他人に思われようと指揮官として当面地蔵になるつもりだ。チームとしての方針、ゲームプランっつぅのか、そういうのはあらかじめ決めてあるから現場で俺は機械的に采配するだけだ。奇策や博打に頼らなければ決勝まで勝ち上がれない戦力ならそもそも青海には勝てねぇ。そうだろ屋敷? 俺やアダムもマウンドには上がるが、大事な場面では桜に頼る。これはもう前提」
松濤はベスト8まで残った。
あと2回勝てば決勝戦で順調に勝ち上がっている青海大学附属とぶつかるだろう。決勝で勝てば全国だ(そこはあんまり興味ない)。
そしてここまで勝ち上がった以上、俺たちはもう大会に参加しただけの1年目のチームなんて甘いあつかいを受けたりなんてしない。
というか前提として大会まえに置鮎から点を奪い法王大に勝った事実は都内のほとんどのチームに知れ渡っているわけで。
松濤の4試合分のデータは共有され参照され解析され対策は打たれる。
それでも俺たちは勝つしかない。
ベスト8
松濤9対4愛新
松濤301201011|9
愛新011001001|4
勝った。
球数制限のこともありこの試合桜は登板を回避。代わって先発したアダムが投打ともに予想外の活躍を見せ(4失点完投+二塁打2本)松濤高校を勝利に導いた。
アダムについて言うなら大会前後に他の競技からオファーが殺到し、陸上連盟のお偉いさんやバスケットボール部の面々が「考え直せ!」「おまえの才能は野球では活かしきれない」などなどの文言でチームから引き離されそうになりアダム自身もうんざりしていたがこのナイジェリア人ハーフは小学校のころからどんなスポーツ、格闘技をやらせても上手くこなせてしまうチート的存在だったので、逆に指導者や周囲の眼がうざったく感じ競技を転々としていたらしい(野球をやらせた同級生に感謝しなくては)、そのアダムが都大会のベスト8で春夏通算13回甲子園に出場しているとかいう強豪愛新高校相手に9イニング投げきったわけだが……。
アダム「本当にしんどい。もう投げたくない。どうして無観客でやんねぇの? プレッシャーでしかない。やっぱ外野がいいよ外野が。守備機会少ねぇし。声援とか送られても耳ふさぎたくなる……」
試合中ベンチで愚痴ってみんなに呆れられていたのだが……ベスト8まで勝ち上がったチーム相手に9イニング投げきり打点を稼いだ。エースの桜を温存してしかも投手としてのアダムの価値が高くなる。最高と断言できる結果ではないか。
勢源「都大会ベスト8の勝利投手なんだぞおまえは。しかも1年生! 勝利は蚊トンボを獅子に変化えるはずなんだがおまえ本当にブレねぇな」
アダム「知らねーよ」
アダムは本当に目立ちたくないらしく移動中もチームの後列を選び身を縮めているのだがその長身で存在感がなくなるはずもなく、そしてこの試合の活躍でただの大男ではないことが都内の高校野球界にさらされてしまい試合後球場内でよそのチームとすれ違った際なにもしてないアダムに気圧される謎のイベントがあった。




