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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
松濤高校野球部
17/102

目立つのイヤなんだよ

 俺に煽られイラついた置鮎だったが、2球目を投げる前に感情を無にする。

 アダムに対しても本気のピッチングだった。しかし3番打者と対戦するこのタイミングで場の空気が張りつめる。

 無言の置鮎が場を支配する。

 9割の泡坂を打った俺に対し油断はない。

 守備陣も同じミスはしない。定位置で守る。


 置鮎の球種はストレートとフォークの2種類のみ。バッターはヤマを張ればいつかは当たるに決まっている。単純なモデルだが置鮎と3球勝負するなら(1-(1/2)^3=)87.5%の確率で1回以上は打つ側が予想したボールを打つ機会があるということになる。


 だがピッチャーの球種が少ないことがバッターの利になるとは限らない。


 打者が投げる球種を事前に予測し、技術的にそのボールを打とうとするがゆえに、本来感覚的な体の動作――バットのスイングを実行できず凡退する。直観には反するがこれが事実だ。

 バッティングの本質は『反応』であり『予測』ではない(狙い球をしぼって打つことが悪いといいたいわけではない)。

 実際プロにもほとんど2種類(なかには1種類)の球種だけで一時代を築いた好投手が山ほどいる。

 使える変化球が多ければ多いほどピッチャーの成績が向上するかといえばそうではない。

 それこそ持ち球が10種を超えるピッチャーも存在するが、球種が多く次のボールが予測できないときこそ、打者はすべてのボールに対応しようと自然な構えでまち、ボールの変化に対し素直にバットを動かし、ヒットを生み出してしまう(持ち球が多いピッチャーを否定したいわけではない、念のため)。

 逆にいえばこうだ。『どんなバッターにも通じる』2、3種類のボールさえあればそれ以外の球種など不要な雑技にすぎない。

 打者としては狙い球をしぼらず自然体に、『来た球を打つ』ほうが、逆説的にヒットが生まれやすい(説明終了)。



 ほとんどのシチュエーションで『来た球を打つ』俺は球種をしぼらず、ストレート・フォークどちらがきても打てる体勢を確保していた。

 置鮎は、セットポジション、まるで力感のないフォームから、

 投じられたボールは一転超速!

遅延ラグい!)

 急に飛び出してきたボールが外角アウトコースぎりぎり入る。

(球種がわからん!)

 たまらず俺はスイングを開始する。

 眼識インサイトが発動しない。俺がボールの回転や挙動から球種の判別ができないだと……。

 落下、フォークボールがアウトローの有効領域ゾーンを掠める、

 当たってしまう。

 ボールに中途半端に当たってしまう。このスイングは止められない。内野ゴロを打たされる……。

 俺の最後の抵抗は技術バットコントロール

 インパクトの直前でもボールの任意の位置にミートすることが俺の技術なら可能。

 ボールの芯よりやや上をこする感覚で打つことで順回転トップスピンをあたえ野手に捕球困難な打球速度を実現した。『打球操作』。

 一、二塁間を狙った! ボールはセカンドのグラブをかわし外野へ転がる。ライト前ヒットだ(久々に凡退しかけた)。

 ライトが捕球即送球。ホームへ。

 アダムは三塁ベースを蹴っていた。

 本塁、走者と返球がほぼ同時に。

 究極のプレーになる。二塁から長駆したアダムは吠えながら猪突猛進、捕手めがけタックルを喰らわせるつもりか?

 否、回避する。

 直前でコースを変え足から滑りこんだアダムが相手のタッチを交わし、

 長い足を伸ばし無防備なホームベースにわずかに触れる。

 主審はすぐさま「セーフ!」とコールした。


 生還。



  松濤1‐0青海


   *


  アダム「オレ目立つのイヤなんだよ。大勢の人間に注目されるとかそういうのは好きじゃねぇ。でもガキのころからスポーツなにやらせても一番になっちまう。オレが本気出すとみんな引いちゃうんだよ。ナンバー3くらいの立ち位置にいたい……いや、もっと低くくていいかな」

  俺「そこは本気だせよ……。そんな金髪の坊主頭してて地味キャラを目指すのか……」

  アダム「これはファッションだから別なんだよ」


   *


 頭脳的な走塁で先制点を奪ったアダムは喜ばない。チームメイトと喜びをわかちあわずスコアボードの『1』を見て小さくうなずくだけだ。あの言葉に嘘はなかったのだ。主役になるつもりはない。このチームに『王』は他にいる。

 ベンチにむかったアダムはこの得点で勝利が決まったかのように喜ぶチームメイトにもみくちゃにされていた。テンションが上がったまま座ろうとしてベンチの屋根に頭をぶつけてウケている。

「俺だけハブりかよ」

 一塁ベース上でつぶやくとベンチにいる夙夜と眼があった。腕を組みやるじゃないという顔。こういうときは派手にデレないな。愛い奴。

 俺は彼女にVサインをむけた。他にもっとかっこいい祝儀セレブレーションがあると思った仕方ない。子供のころからこれは俺のポーズだった。


 そしてこれは風祭から松濤の先攻をとったときのチョキであり、


 置鮎から打ったフォークボールの握り方もこれと同じだ。期せずして三重の含意(トリプルミーニング)


 苦々しげな顔をしてその二人が近づいてくる。

「外野まで転がしたのは大したもんだが、今のはラッキーだろ」と置鮎。

「そうじゃない置鮎。屋敷は狙ってあの位置にあの速さで転がしたんだ。おまえの技術ならそれができるだろ?」と風祭。

 俺相手に口喧嘩とは分を弁えないな置鮎。

「風祭先輩が正解だよ。まぁ打者としてクソ雑魚な置鮎先輩には理解できないかもしれないけれど、体勢崩されても速いゴロ打って内野の間抜くくらいできるーー」

「クソ雑魚だと!?」

 瞬間激昂する置鮎。あんまりがっかりさせないでもらいたいんだけど。

「だって置鮎打率1割くらいでしょ。いくら投手だからって弱杉内」

 投手としてのステータスは全部高いんだから、それくらいの可愛気ウィークポイントあってもいいだろうに。

 メガネに触れながら置鮎は訂正した。

「いや俺の高校通算打率は.081だ。1割も打ってない」

「自分から下げていくのかーー」

 本当に打たないんだなこいつ。

「つうか今のが偶然じゃない……どんだけだよおまえ!」

「センター前ならいつでも打てるって言ったじゃん」

 置鮎は怒っていない。

 公式戦の防御率をゼロに漸近させている将来の『サイ・ヤング賞』候補が立ちあがりに失点という極めて珍しい現象の発生、そして『屋敷慎一』という存在を発見したことで興味・関心が先にきたようだ。

 そのとき3塁側の内野の観戦席から知らない名前を呼ぶ若い女の声がきこえた。

 そちらをむいて手を振り応える置鮎。あいつの下の名前らしい。そこにいたのは私服姿のハイティーンらしい女。知りあい……というか親しい間柄としか思えない反応である。

「試合に女連れてくるとか余裕だな置鮎さんよぅ!!」

 俺は全身から負のエナジーを発生させ糾弾する。

「女連れて遠征してるおまえに言われたくねぇよ。どういう理不尽だよ!」

 置鮎はあきれ顔。

 風祭がチームメイトに凄む。

「自制しろ置鮎! ゲームに集中――」

 手で風祭を制し置鮎はこう言った。

「おまえクラスのバッターがまだいるのか?」

「俺より打てるバッターなんてこの世にいるわけないだろ」

「次の4番は?」

「あーあれはぼんかな」

 比叡はまだ現実レヴェルの好打者だ。俺のように物語の登場人物的な活躍はしない。

「なら安心した」心底安心した顔で置鮎は続ける。「なら俺はもうこの試合失点はしない。おまえだけマークすればいいんだからな」改行するまでもないので結果だけを伝えよう。置鮎は2球でツーアウトを奪い松濤の1回表の攻撃は終了した。4番比叡、5番逸乃ともに初球のフォークを打たされそれぞれセカンドゴロ、ピッチャーゴロで片づけられている。フォークボールの落差を相手のレベルに調整し打たせてとる投球術。

 あいつは高校生にして既に日本人最高のフォークボールを投げている。


「あんまりビビらせるなよ、新人ルーキー共」


 相手を見下しながら置鮎は言った。こいつにはそれだけの実力がある。


 松濤1      |1

 青海       |0

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


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