単なるイチャイチャ話 2
フィラント様、床に座り込んでしまいました。
真正面に移動をして、しゃがみ、顔を覗き込みます。
「フィラント様?」
「いえ、あの。あー、夕食……」
「急にお腹が減りました?」
「えっ? ああ。そうです」
「それなら、オットーに夕食準備を急げるか聞いてみますね」
うん、と小さな返事と頷きがあったので、厨房へ移動。
オットーに声を掛けると、丁度夕食の支度が終わるところでした。
あとはフィラント様の帰宅を待って、温めたり、最後の仕上げだけ、とナイスタイミング。
私達夫婦(素敵な響き♡)は、ユース様からの贈り物のランチョンマットを使用して夕食を摂り、その後に談話室でのんびりすることにしました。
☆★
フィラント様と2人でソファに並んで座ってお喋り。就寝前の団欒時間。
といっても、とりあえず座ることしか決まっていません。
気を利かせたオットーが、フィラント様にブランデー、私に紅茶を用意してくれました。お茶請けは頂き物のチョコレート。
2人の距離は拳一つ分も無く、新婚当初と比較すると、大大大進歩!
「あの….エトワール」
ソファへエスコートされて、腰を下ろすと、フィラント様に顔を覗き込まれました。
相変わらずの無表情。少し眉間にシワが寄っています。
「はい、何でしょう?」
フィラント様は不機嫌でなくても、今のような表情になるので、聞くのが1番。
「あの、その。俺の腕を見たいって……。他には? して欲しいこととか、買って欲しいものとか……色々……。何でも、叶えられることなら何でもするので」
髪を掻くと、フィラント様は私の顔を見るのを止めました。
開いた足の膝上辺りに両肘を置き、口元で手を組んで、少々遠い目。
黒紫色の瞳が、戸惑っているのか、ゆらゆらと揺れて見える。
「何でも?」
「ええ、何でも」
「何でもとは、例えば……」
フィラント様が手酌でブランデーを飲み始めたので、思わず凝視。
「他の女性の前で深酒をしない、でもですか?」
「深酒? 他の女性の前で? そもそも君以外の女性と酒を飲んだことがないから構わないですけど何故です?」
「あー、あのー、フィラント様は酔うと女性を口説くからです……」
訝しげな表情なので、自覚がなさそう。なので、素直に理由を告げました。
「そんなこと、したことありません」
「いえ。単に記憶が無いからです」
「記憶を失くす程飲んだのは、君との新婚旅行だけ……。……。……特に何もって、本当は何をしました?」
眉間のシワを深くすると、フィラント様は再度私の顔を覗き込みました。
「えー、その、あの……その時だけ?」
「俺、エトワールを口説いた?」
ムスッと顔をしかめると、フィラント様はますます私に顔を近づけました。
恥ずかしい。格好良い。好き。恥ずかしい……って身惚れたり照れてる場合ではありません!
今は話し合い中! 集中。集中。
「あの日、抱きついてきたのって……」
「それは貝殻を拾ってきてくれたのと、歩み寄ってくれる姿勢がとても嬉しかったからです……」
お互いの顔を見つめながら、視線をキョロキョロ彷徨わせる夫婦。
私達って、変な夫婦かもしれません。
……。私達夫婦……。やはり素敵な響き♡
「貝? 貝なら山程拾います。それか買ってきます。それで、エトワールを口説かない方が良い……。わかりました」
プイッと顔を背けると、フィラント様は私から少し離れた位置に座り、テーブル上のグラスに手を伸ばしました。
「ええっ⁈ 何故そうなるのです? 山程の貝なんて要りません。部屋に飾ってある分で十分です。私を口説かないではなく、他の方を……」
「ん? どうして俺がエトワール以外の女性を口説くのです? ユースでもあるまいし。俺は君と約束しましたよ。浮気はしない。愛人も囲わない。そもそも、エトワール以外なんて道端の石より興味な……い……」
チラリと私を見た後、フィラント様はグラスに口を付けるのを止めました。
不機嫌そうなしかめっ面。しかし、これはフィラント様の照れ顔です。
少々怖いけど、この顔の時は怒っていないともう理解しているので平気。あと、慣れました。
「私以外、道端の石……」
予想外の台詞。ニヤニヤ笑いが出そうで、慌てて口元に力を入れてみました。効果は薄そう。
「エトワール、嬉しいってこと?」
テーブルにグラスを置くと、フィラント様の体が、遠ざかった分戻って来ました。
頬に手を当てられて、ジッと見つめられたので、少々クラクラします。
「俺、どんな風にエトワールを口説いた?」
耳元で囁かれて、手を握られ、私の心臓がドキドキし始めました。何故かフィラント様の欲情スイッチが入ったようです。
なんで?
……欲情スイッチではなくて、愛情スイッチ。そう、愛情スイッチ。フィラント様はずっと私が好きだったので。
会話の流れからして、フィラント様は私の独占欲が嬉しいみたい。
「い、今、みたいに……」
「手を握った?」
フィラント様は私の両手を取り、手の甲をジィッと見つめはじめました。
伏せた目元のまつ毛の下に、熱を浴びた瞳。熱は私の方かもしれません。
握られた手が熱くて、それが腕を伝って全身へ広がっていく。
「いえ、あの、その……。こう……」
こういうシュチュエーションの場合、羞恥心はゴミ箱ぽいぽいです。
えいっ、と勇気を出して、フィラント様の膝の上に横座り。
首に腕を回す勇気はないので、両手は膝の上。目線も自分の手の甲。
「頭を……撫でてくれたり……。ほっぺたを触ったり……。それで……」
……。ポイ捨てした羞恥心が戻って来ました。
他には頬ずりをされ、名前を呼ばれながらあちこちにキスをされました。これは言えなさそう。
「こう?」
頭をそっと撫でられ、頬に手を当てられました。
これはこれで嬉しいですが、これではありません。
もっとべたべた、甘える犬みたいにです。
「いえ、こうです」
仕草がそっとなのと、フィラント様の照れ顔が何だか可愛くて、私はフィラント様の髪へ手を伸ばしました。
男性って髪を撫でられて嬉しいのですかね?
自分が満足するまでフィラント様の髪を撫で、あまり肉のないほっぺたをムニムニしながら思案。
考えても答えは出ません。
反応で確かめないと。フィラント様は無表情。照れないということは、嬉しくない?
フィラント様の肩に頭を乗せて、ちょっとイタズラしてみようと、首に素早くキス。
無反応。
驚かないし、照れもしない。
いえ、驚いている?
名前を呼んでも、呼んでも、返事がありません。
「フィラントさ……」
「エトワール……」
抱き竦められ、あっと思った時には少々強引なキス。
押しつけられた唇は、すぐには離れず。
唇は離れてもすぐに戻ってきて、角度や強さを変えて、何度も何度も繰り返されます。
その間、フィラント様の片手は私の頬や耳元で、指が頬や耳を撫で、反対側の手は腕を這い、私の手を掴みました。
指と指が絡まり合う手の繋ぎ方。
「こう?」
囁かれて、首筋にキスをされて、つい「いえ、もっと……。沢山……」と頼んでいました。
キスはもう私が食べたチョコレート味。
エトワールと呼ばれながらキスをされると、どんどん甘くなっていく。
「深酒はエトワールと一緒の時だけ。沢山キスする。他には?」
そう言いながら、フィラント様は自分のシャツのボタンを外し始めました。
「あ、あの……」
「エトワール。シャツも脱いだ……。他には何をしたら嬉しい?」
シャツを脱ぎ捨てると、またキスの嵐。
繋がれていた手は、いつの間にか私の胸元。
「んっ……」
あれ? これ、流されて明るい談話室で色々始まるパターン?
「あっ、あの……。抱っこ……。お姫様抱っこで運んで欲しいです!」
良い提案を考えろ私! と悩んだ結果がこの台詞。
フィラント様の胸を押そうとしたけれど、逞しい胸元に抱きついてみたくて、腕を回していました。
耳がくっついたので、素肌の熱さと心臓の鼓動が伝わってくる。
目に入った切り傷に、胸が締め付けられました。
悲しい傷跡全部にキスしていきたい。
フィラント様は未だに戦場での話しをしません。自慢する方も多いというのにです。
明け方頃、うなされていることもありますし、食事もまだまだ苦手そう。
キスして何か変わるかは不明ですが、私はフィラント様が腕の傷跡に良くキスしてくれるのがとても嬉しいです。
……そうなると、明るい方が良い?
暗いとフィラント様の体が見えません。
「お姫様抱っことは何です?」
「えっ? あの、いつも私を運ぶ……。やっぱり運ばなくて良いです。服を脱がされなければ……別にここでも……」
でも、それも恥ずかしい気がします。
どうしましょう?
「そうか。エトワール……」
再びキス開始。それで、先程までよりもっと激しく、するりと入ってきた舌にも翻弄され、頭の中がぼんやり。
フィラント様、好き。それしかない。
スカートの中にフィラント様の手が入ってきたとき、コンコンコン、コンコンコンというノック音がしました。
「フィラント! エトワールちゃん! お兄様がまた来たよ!」
私とフィラント様は同時に固まりました。
「ユ、ユース。今開ける」
「その声の感じ、また良い雰囲気だったの? 晩酌と思ったけど、かーえろ。持ってきたワインはあげる。食後ならと思ったけど、いつ来てもお邪魔虫か」
扉の向こうから、ユース様の楽しげな笑い声。
フィラント様が私を膝の上からソファへ下ろし、シャツを着ながら立ち上がりました。
私は服を正し、髪を撫でつけ、姿勢を正しました。
「ユース。ランチョンマットをありがとう」
シャツを完全に着たフィラント様が扉を開けました。
「ユース。おいユース。飲みに来たんだろう?」
フィラント様は部屋から出て行きました。私も後を追いかけることにしましたが、フィラント様はすぐに戻ってきました。
手にはワイン用の紙袋。
「帰った。しばらく来ないって」
「いってらっしゃいませフィラント様。あと、明日の夕食に招くのはどうです?」
無表情で、何とも言えないような目の輝きですが、寂しそうな気がしてそう口にしていました。
「ああ。少し飲んでくる。いや、飲みに行かないか?」
「私もです? ランチョンマットのお店を聞きたいので、そうします」
こうして、私は初めてフィラント様とユース様と3人でお酒を飲むことになりました。
場所はユース様の私室。
ただ、2度と3人で飲みたくありません。
「フィラント様はどういう髪型が好きですか? フィラント様は何色が好きです? フィラント様……もごっ」
「どうしてペラペラ話すのですか!」
ユース様、あることないこと、いえ、あることあること、勝手に話すのです。
「ああ」
フィラント様に目で助け舟を出しても、黙々とお酒を飲むだけ。
「布を入れたって脱がしたら分かるっていうのに胸の大きさを偽り……もごっ」
「なぜそれを知っているんですか!」
もう嫌だ。恥ずかしい暴露話ばかりなので、私はどんどんワインを飲むことにしました。
☆★
気がついたら、フィラント様にお姫様抱っこされていました。
場所は寝室、ベッドの近く。
「フィラント様……?」
「起きたのか。エトワール、湯浴みは明日にします? 着替えだけはした方が良いかと。コルセットが苦しそうだ」
ボーッとする頭で、これが記憶を失くす深酒か、と気がつきました。
それから、ようやく2人きりになれたという歓喜が心の中を占拠しています。
ユース様と喋るフィラント様は、私とよりうんと気さくで、親しげで、私の中のヤキモチの炎がメラメラ燃えています。
「いえ……エトワールは……フィラント様にキスしないと……」
「えっ?」
フィラント様の首に腕を回してキス。
その後、また私の記憶はなくなりました。
翌朝、頭が痛くて目を覚ますと私は全裸でフィラント様の腕の中。
起きたフィラント様に「エトワールも俺と以外は深酒禁止……」と小声で囁かれました。
私、何したの?
次回「単なるイチャイチャ話 3」
2が長くなったので分割。
エトワールが何をしたのか、その間の部分で近日投稿予定。
ユースが主役のお話し
「逃げる女好き王子と巻き込まれた男爵令嬢」の完結記念。
↓
時系列無視ならこちらもユースのお話し
「溺愛王子と青薔薇の冠姫」




