単なるイチャイチャ話 3
☆★ 少々戻って昨夜 ☆★
「いえ……エトワールは……フィラント様にキスしないと……」
「えっ?」
エトワールが酔っ払いだ。絶対そうだ。
いきなりキスしてきて、俺のシャツのボタンに手をかけている。
首にきつく抱きつかれて、何度も何度もキスされていれば、そりゃあもうその気になる。
シャツを脱がされたので、エトワールのドレスも脱がすことにする。
エトワールがしがみついてくれているので、背中にあるボタンを外すのが楽。
腰のリボンも解いて床に放り投げる。
「エトワー……」
「フィラント様。フィラントさまあ。フィラント様のお背中、エトワールが流しますね」
あっち、あっち、と指で示す方向は、浴室の方。
誕生日祝いをしてくれた日に、調子に乗り過ぎて、一緒に浴室へ行くのは禁止令が発動されたのに、誘われた。
やはり、エトワールは酔っ払いのようだ。
キスを繰り返しながら、本人が要求しているしな、とウキウキしながら浴室を目指す。
促せば袖から腕を抜くのに協力してくれるし、苦しいと自分からコルセットの紐も解いてくれた。
しかし、せっかく上半身裸になってくれたのに、くっつかれているから見えない。
触れ合う肌と肌の熱さに、エトワールの体の柔らかさは極上だが、見たいところが見えない。
そして、ふと気がついた。
湯の用意が出来ていない。
「エトワール、お湯の準備をする……」
「いやあ。はなれたくないです」
エトワールをソファへ下ろそうとしたら、拒否された。
きつく首に抱きつかれ、首元にすりすりされる。何だこれ、可愛い。
いつも可愛いが、めちゃくちゃ可愛い。
「それなら、このまま……」
ぺしん、とエトワールの手が俺の頬をぶった。
全く力が無いので痛くも痒くもないが、胸が痛い。まるで抉られたみたいだ。
「えっ……」
「綺麗にしないと見せられません!」
エトワールはきゃああああ、と両手で顔を覆った。
「はっ。エトワールはフィラント様にキスしないと……」
また首に腕を回され、キスされた。
「んっ……。エトワー……」
「フィラントさま。フィラントさま? 良いですか? フィラント様!」
キスされていたのに、急に頬を抓られた。
非力なので痛くも痒くもないが、怒りの滲んだ睨みと共に抓られたので、心が痛む。
棍棒で鎧を殴られたような鈍痛がする。
「淫らなものを着せたいのなら、ご自分も恥ずかしい思いをしないとあえれしよ」
どこからどう見てもエトワールは酔っ払いで、まるで話しを聞いてくれなさそう。
大人しくもしてくれなさそう。
「あー、エトワール。水をの……」
「にゃえおふりょにはいりゃにゃいのてふあ」
滑舌が悪くなったので、言葉が聞き取れない。
「エトワール、一先ず水を飲んで……」
「きしして? ね?」
腕の中で、エトワールが「んー」と唇を押尖らせた。
こんなことされたら、キスするのが当然だ。
その前に、エトワールが突撃してきた。
何度も何度もキスされて、こちらもがっつこうとしたら、また頬をペシンとぶたれた。
「きええにしあいと」
「あー、綺麗に……。うん。湯のじゅ……」
「好きよ。だーいすき」
再びエトワールをソファへ下ろそうと試みたら、ぎゅっと首に抱き付かれた。
「うん。俺も……」
「ゔっ……」
耳元で、嫌な予感の声。
「ま、待てエトワール。吐くなら……」
「ゔゔっ……」
慌ててエトワールを抱いて、浴室へと走った。
脱がせかけのエトワールのドレスを完全に脱がし、ドロワーズだけの姿にする。
間一髪、というか、せめてもの救いで、エトワールは浴室内で吐いた。
幸い、エトワールのドロワーズや俺のズボンに吐瀉物は付いていない。
「うええええええ……。ふぃあとさまあ。すい……」
「吐け、エトワール。その方が楽だ」
メソメソ泣き始めたエトワールの背中をさすり、口に指を突っ込む。
こういう事態は、部下で慣れている。
泣きながら、ちょこちょこ吐くエトワールの背中を撫で続ける。
冷たくて可哀想だが、浴槽内に少し溜めてある水を手桶ですくい、エトワールの口元をすすぎつつ、嘔吐物の排水を促す。
浴室が綺麗になり、エトワールもある程度楽そうになったところで、暖炉へ行って、ヤカンで熱湯を運び、浴槽内の水を体を洗える温度にした。
「すみませんフィラントさまあ……。わたしがありゃいますぅ……」
エトワールはメソメソ泣きながら、口をすすぎ、予想外のことにドロワーズまで脱いだ。
石鹸と体を洗うタオルを手に持って、泡だて始めている。
「えっ……。あ、ああ……」
全裸なのにあまり照れていないのも、メソメソしているのも、酔いが醒めたとは思えない状態。
「きええにしますね? ねっ?」
ウルウルした瞳で見つめられたら「うん」としか言えない。
本当に大丈夫か? と思いながら、スボンと下着を脱いでみる。
「きゃあああああ、フィラントさまのばあかあ!」
ベシンと顔にぶつかったのはタオル。
痛くも痒くもないが、やはり胸が痛い。
肩に矢が刺さったことが蘇り、胸ならこういう痛みか? という変な思考が働く。
「かっこおすぎてむねがはりさけちゃう。くっついていたら見えあせんね。ねっ?」
石鹸を片手に、もじもじしながら、エトワールは俺に近寄ってきた。
抱きついてきたエトワールが、俺の体からずるずる落ちているタオルを拾いあげる。
鼻歌まじりのエトワールがタオルで俺の腕を擦り始めた。
彼女がまだタオルで洗っていない箇所、特に傷跡があるところにはキスが落ちてくる。
エトワールは酔っ払い過ぎておかしくなったらしい。
しかし、何だか知らないが、俺に都合が良い展開。
なすがままなのは我慢出来ないと、エトワールの体に手を伸ばすと「めっ!」と睨まれた。
「こうかんよ?」
「交換? 交代ってことか?」
「んー、フィラントさま。だいすきです……」
洗うことを放棄したのか、エトワールの手からタオルと石鹸が滑り落ちた。
背伸びをして、首に手を回してきて、ギュッと抱きつかれる。そのままキスの嵐。
彼女が好き勝手なら、こちらもそうしてしまえ、と俺の理性は弾けとんだ。
エトワールを抱き上げて、浴室用の椅子に座らせる。それから、タオルと石鹸を拾った。
少々別の意味を含む手つきで体を洗い始めると、エトワールは小さくて可愛らしい嬌声をあげながら「もっと……。きすも……」と潤んだ瞳で懇願してきた。
天国だ!
エトワールが酔うと天国が待っていた!
さんざん、隅から隅までエトワールを堪能した後、歯を磨くと騒ぐも歯ブラシを落としたり、ふらふらするエトワールの歯を磨いた。
もしも俺達に子供が産まれたら、子に対してこういう手助けをするのだろうか?
子供か、エトワール似の女の子なら一生近くに置いて愛でたい。
エトワール似の男児なら……男なのに可愛いとなると慰み者になりそうなので、強くなるように鍛えるのと、騎士のような男世帯の仕事には就かせたくない。
自分の歯を磨きながら、ぼんやりと想像していたら、俺の腕にしがみついていたタオル1枚姿のエトワールが、ふっと離れていった。
「エトワール?」
「ねみいてす……」
エトワールはそのままフラフラした足取りで寝室へ向かっていき、ベッドに腰掛け、ポスンと倒れた。
慌てて口を濯ぎ、エトワールの後を追いかける。
エトワールは、むにゃむにゃ言いながら、気持ちよさそうな顔で、規則的な呼吸をしている。どう見ても寝ている。
「エトワール……」
夜はまだこれからだ、とエトワールの体を軽く揺らす。起きない。
タオルを剥がして、胸を触ってみる。身を捩ってくすぐったそうにしたが、やはり起きない。
「ふぃあとさ……」
よし、起きた! とエトワールに覆い被さったが、エトワールは体を丸めて、ゆっくり呼吸をした。目は閉じたまま。
「ほし……きれい……ですね……」
妻の無垢な寝顔に、俺の手は止まった。
俺と星を眺める夢を見ているようだ。
ニコニコ、ニコニコととても嬉しそう。実に無邪気な寝顔だ。
したいが、したくてしょうがないが、快眠を妨げるのは気が引ける。
朝起きたら襲う。絶対そうする。なので今は我慢。そう自分に言い聞かせてベッドから離れる。
とりあえず、冷静にならないと眠れない。どうにかしないとならない。
地獄だ。
天国から地獄……地獄とは、死体の山が築かれた戦場の数々や、生死の境を彷徨ったことなどを言う。
俺は項垂れながら、これが地獄とは実に良い暮らしになったと少々口元を綻ばせ、浴室方面へ足を進めた。
★☆ 今朝 ★☆
頭が痛くて目を覚ますと私は全裸でフィラント様の腕の中。
起きたフィラント様に「エトワールも俺と以外は深酒禁止……」と小声で囁かれました。
私、何したの?
「覚えてない? それなら……」
フィラント様が珍しく笑いました。ちょっと可愛い笑い方。
悪戯っぽい笑みは、どことなくユース様の笑い方と似ています。
一緒戸惑いましたが、瞳の色や、傷痕など、どこからどう見てもフィラント様です。安心。
「忘れているのもあれだし、1からやり直そうか……」
「やりなお……」
キスの大嵐が始まり、君は昨夜こうしてくれたとか、こうしたとか、とあれこれ要求されました。
殆どは本当そうですが、たまに目を晒すので、その時の発言は何だか嘘っぽい。
しかし、覚えていないので反論出来ない。
禁止されなくても、記憶を失くすまで飲んだりしない、と私は固く、固く、自分に誓いを立てました。
お酒はほどほどに。




