60 別れを 後編
今回は久しぶりの三人称です。
あれ、そもそもやったことありましたっけ。
ルノウは、予感していた。
「大丈夫です。誰にも迷惑はかけません」
学院側の判断を彼女に伝えようとしたら、彼女は1人で何かを納得してしまった。
ルノウが止めようと思っても、彼女は、アイラは既に部屋を出ていた。
何か嫌な予感がした。すぐにアイラを呼び戻そうとした。
しかし、ドアに手をかけようとした時、手が、体が、それ以上前に進まなかった。
震えていたのだ。
「...アイラ...?」
この予感は、きっと的中するだろう。これまでの難題も、この予感が外れたことは無く、そのこともあって、ルノウはこの地位にいる。
まずは...彼女の知り合いに情報を探ってもらおうと思う。
リナという少女に、アイラのことについて探ってもらった。
何かを考えている様子で、その顔は、どこか辛そうだと。
『私に力になれることは、他にはありませんか?』
リナは、余程アイラのことが大切なのだろう。
こんな風に思ってくれる人がいるなんて、少し妬けてしまう。
「そうね、まずは、ヒジリ、シャル、それと、サリナとユサを集めて頂戴。これからのことを話すわ」
窓に向かって喋るルノウ。はたから見たらどこ向いて喋っているんだ。エア友達でもできたのかと聞かれそうだが、そうではない。
リナがいるのだ。窓の外に。
忍者である。
『...わかりました』
窓越しにリナの声が聞こえる。
ルノウの考えているこれからは、アイラがいつおかしな行動をとるのかはわからない。
だから、交代制で見張るというものだ。
何をしようとしているのかは、それとなく探る必要があるため、ヒジリとシャルの2人に任せようと思う。
「わかりましたわ」
「アイラの監視をするなんてね...」
先に来たヒジリとシャルに説明を終えた。
2人とも、最初は何事かと警戒していたようだが、説明を終えると、2人とも協力してくれるようだった。
ありがたい。アイラに最も近しい2人であれば、何かしらの有益な情報を得られる可能性が高いのだ。
「それじゃ、私たちは、さっそくアイラの監視に移りますわ」
「ええ、2人とも、お願いね」
ルノウ自身では、もうアイラに何かを聞くことはできない。頭ではなく、体がそう言っているのだ。
今までは、出来るだけ自分で仕事を片づけてきたが、それはどれも自分のことだった。
自分のこと意外だと、こんなに大変なんだなと、ルノウは理解した。
しかも、それが何日も続く。あの2人が情報を聞き出してくれるまで、ルノウも、気を抜けない。
久しぶりだなと、ルノウは椅子に体を預けた。
時刻は既に21時。この時間まで何もないとなると、流石に今日は何もないだろう。
そう判断したルノウは、自室に入り、さっさと寝ようとしていると、荒々しく扉が開かれた。
ルノウが振り返ると、そこには、肩で息をしている、シャルとヒジリがいた。
ヒジリよりシャルの方が疲れているということは、ヒジリの急いだスピードに合わせてきたのであろう。
我が学院の生徒の成長は嬉しく思うが、何が彼女たちをそんなに急がせているのだろうか。
「大変! アイラが、この学院を出ていくって!」
「...それ、本当?」
自分でも、冷静でいられなくなっていくのがわかる。
どうしてなのだろうか。私が、アイラに何かしたのだろうか。
もしかして、私の配慮が足りなくて、クラスのみんなにいじめられていたのかもしれない。
ルノウが動揺していると、突然、シャルがルノウの頬を叩いた。
乾いた音が、響く。
「しっかりなさい、会長なのでしょう?」
「...」
その通りだ、とルノウは気を持ち直す。
まずは、どうしてそんなことを思ったのかを調べるのが先だが、今はそんな悠長なことを言っている暇は無い。
深呼吸を1つ、深くして、シャルとヒジリに向き直る。
「アイラの部屋の、アイラのものは?」
「まだ何も手をつけてないけど、アイラだから、行くときになったら片づけるかも」
ルームメイトのヒジリが言うのだ。その情報は信用できる。
しかし、そうなると、出ていく時間だが...。
「こればっかりはわからないわね。寝ないで、玄関を見張ろうかしら」
「でも、誰が見張るの?」
「それは...」
そうだ、誰が見張るのだ。
アイラが少しでも本気を出せば、ヒジリ達の誰か1人では、一瞬で蹴散らされてしまうだろう。
もしかしたら手加減してくれるかもしれないから、その隙を突けば、とも思うが、手加減してもらっても勝てないほどの実力差がある。
全員でかかれば、あるいは、かもしれないが...。
しかし、今のタイミングでアレを使うのはいささか渋るような状況だ。
「でも、仮に全員で見張るとして、私は慣れているけど、あなたたちはまだ学生なのよ?
体力的にも厳しいんじゃ...」
「その心配はありませんわ」
ルノウが心配していることを言うと、シャルがそれを否定した。
心配がない、というのは、どういうことなのだろう。
シャルは、ドアに手をかけ、こちらを振り向かずに言う。
「きっと、決行は今夜ですわ」
そう言い、出ていくシャル。
1人残されたヒジリは、慌ててそのあとを追う。
今夜決行。どうしてそれを言いきれるのかは不思議だが、今はそれを頼りにするしかない。
少し賭けになるが、あの3人にも呼びかけて、6人で迎え撃とう。
アレの準備も、しないといけないことだし。
「今夜、って言っても、何時にやるかは流石にわからないわよね...」
「ですわね」
会長室から出た2人、シャルとヒジリは、学院の出入り口に待機していた。
ヒジリからしたら、どうしてここに迷わずに来たのかはわからないが、シャルのことだ、何かしらの確信があるのだろうと自分を納得させたヒジリだった。
シャルが、集中しながら、ヒジリに声をかける。
「もしも、もしもですわよ。アイラが並ではない覚悟を持っていたのなら、どうします?」
「どうするって...そもそも、何を覚悟するのかわからないんだけど」
つい先ほど、アイラとアリスの会話を盗み聞きしてきたばかりなのだ。
その理由だって、まだ不確かの状況で、どんな覚悟を持っているかなんて、わかるはずもない。
しかし、シャルはヒジリと同じく、自分もわからないという。
「ですから、どんな覚悟を持っているのかは、私たちには知る必要がないのですわ。
それがたとえ、悪いことでも、良いことでも。私たちには、それを止める資格がない」
そういうものなのか、とヒジリは思う。
そういった覚悟の話何て、今までしてこなかったから、そのことに関しては全くわからない。
もしかしたら、シャルは、そういったことを経験してきたのかもしれない。
しかし、それならば、一体どこでどんなことを決意して、ここにいるのだろう。
そのまま会話は終わり、数分の後に、ルノウとサリナ、リナ、ユサが来た。
「待たせたわね」
ルノウと一緒に来た3人はいつもの服装だが、ルノウだけ、腰に2本の剣を下げている。双剣、といったやつだろうか。
「ルノウ、それは...」
「...ええ、とっておきよ」
とっておき。とっておきと言うには、どこか雰囲気が重い。リナは、そう感じた。
リナも、戦闘態勢に入る。
「見張りは私たちがしておきます。他の方々は休憩していてください」
「...そうね、お願いしてもいいかしら」
ルノウも、良い考えが浮かばなかったのか、リナの提案を受け入れる。
そこで、ユサが手を挙げる。
「ご主人様は...まだ来ないと思う、ます」
「それは...どうして?」
ルノウの疑問も最もだろう。
しかし、ユサは自信がなさそうに言う。
「えっと、なんとなくなんだけど、ご主人様は、少し寝て、みんなが寝静まったタイミングで来ると思う」
「...なるほど」
自信がなさそうに言うが、この情報はかなり有益だ。
アイラの奴隷であるユサの証言だ。信憑性も高い。
ともあれ、何かあってからでは遅いのだ。
どちらにせよ、常に見張っておく必要性があるだろう。
ルノウは、何か考えが浮かんだのか、少し考え込んでいるが...。
「それじゃあ、みんなで見張りましょうか」
ルノウのその案に、全員が頷いた。
「...来ないわね」
「それでも、いつ来ても良いように準備をしていなければなりませんわ」
ルノウの呟きに、シャルが反応する。
確かに、と、ルノウは気を持ち直すが、それもすぐに崩れてしまう。
いつもは、適度に集中して、休めるときはできるだけ休むため、大人たちとの会話でも疲れたことは無かった。
しかし、相手はあのアイラである。ルノウ達がアイラに気づく前に、逆に気づかれたら、知らない間にこの国から出て行ってしまうだろう。
他のみんなはどうやってずっと集中しているのかと思ったら、ユサは寝ていた。
ふむ、なるほど、寝たらいいのか。
ルノウは間違った解釈をし、近くの木に背を預け、寝息を立て始めた。
それを見たヒジリは、時刻を確認し、慌ててルノウを起こす。
「もう日をまたいだみたいだから、そろそろ来るかも」
「...なるほど」
折角眠りに入ったのに、という気持ちもあるが、アイラを何より優先させないといけないのもわかっている。
一瞬でけだるくなった体を起こすと、以外にも、ルノウ達をこんな目にさせている当の本人が現れた。
「...来たわね」
「はい」
ルノウ達から見えるその姿は、確実にアイラのものだ。幻術などを使っている様子は無い。
アリスと手をつないでこちらに来るが、アイラの顔を見る限り、ルノウ達がここにいるのは既に気づいていたようだ。
「...久しぶりね」
まずはサリナが、口を開く。
いつもとは少し変わったような口調だが、それに対して、アイラは不思議には思わなかったようだ。
どうしたらアイラをこの学院にいさせることができるのか、誰にも見当がつかないまま、お互い対面してしまった。




