59 別れを 前編
ルノウから衝撃の事実を告げられた数分間。
僕は、思考がストップしていた。
この世界に来て何カ月たったかはもう既に忘れた。
もしかしたらもう数年たっているかもしれない。いや、それは無いか。
しかし、それにしたって、何か問題ごとを起こした覚えは無い。一体、僕が何をしたんだろうか。
「さて、そろそろ次の話に移っていいかしら」
「...え、他にもあるの?」
「...そうね」
ルノウは少し、言いにくそうに僕にそういう。
なるほど、また僕に関することなのだろう。
ルノウは、紅茶を淹れながら、口を開く。
「以前に言っていた、魔女の件。先ほどの指名手配のことがあって、取り消しになったわ。まあ、それを出してるのもそこの国なのだし、仕方のないことだと言えば仕方のないことなのだけれど」
「...もしかして、ほとんどの国で僕の指名手配が出回っている、とか?」
「...そうね、そのうちそうなるわ」
「まじか」
他の国にも、『こいつはやべえぞ』と教えるのはわかる。
しかし、未だにわからないのは、そうなった原因だ。
僕は、少し恐ろしいが、決意を固めて、ルノウに聞く。
「ちなみに、僕はなんでそんなことに?」
「そうね、この学院で、少しやりすぎた、ということかしらね」
「...」
なるほど。
「最初は、将来有望な生徒が。
次は、絶対的な守護力が手に入ると期待されていた。
...でも、今日の1件が後押しになったわ。あなたは、1人で国を転覆させることができる、危険因子だと」
「...」
それは、『少し』という範囲で収まるのかは疑問だが、そういうことになってしまったのだろう。
ならば、いつまでもこの学院にもいられない、だろうな。
友達も、出来たというのに。残念だ。
「そ、それでね、この学院は」
「わかってます。今日中に荷物を整理しておきます」
「あなたを...って、今なんて?」
「あ、他の人には知らせないでもらえますか。僕は少し留学するということにしてもらえば」
「...いえ、そうではなくて」
「大丈夫です。誰にも迷惑はかけません」
僕は、この学院にはいられない。そう言いたかったのだろう。
僕はそう一気に捲し立て、会長室を出る。
去り際に見たルノウの顔は、とても申し訳なさそうな顔をしていた。
あんな顔をされては、僕はこれ以上、あの人の前にいるわけにはいかないだろう。
さて、問題は、誰にも心配させないようにここを出ていくにあたって、その理由を作るのが大変だ。
先ほどルノウに言ったのは、『留学する』というもの。しかし、イベント真っ最中の今の時期、それは考えにくい。
よって、別の理由を早急に考えて、ルノウに伝える必要があるだろう。
次の問題は、サリナ達のことだ。
サリナ達のことを考えるなら、3人にはこのままここにいてもらった方がいいだろう。
僕としては、本当は、ついてきてほしいが、そこまで迷惑はかけられない。
次の問題。ヒジリ達のことだ。
シャルに関しては、なぜか僕の思考を先読みされるので、遭遇することは避けたい。
何か会話でもしようものなら、すぐに違和感に気づいてしまうだろう。
ヒジリはルームメイトだ。ルームメイトである僕が突然荷物を整理し出したら、不自然に映るだろう。
次の問題。アリスだ。
アリスは、連れて行こうと思う。
これに関しては、リナとユサにも当てはまるが、拾ったのは僕だ。責任は最後まで果たす。
ああ、そうだ。2人の奴隷も解消しないとな。ある程度の力を付けたのは、この間見た。
新しい主人はサリナにでもして、新しい生活を楽しんでほしい。いや、これまでとそう変わらないか。
さて。
「まずは、理由を部屋で考えますか」
時刻は既に、21時だ。
アリスは未だに部屋に戻ってこない為、説明をできないでいる。
まあ、細かい説明をしてもアリスはわからないだろうし、重要な部分だけ伝えようと思う。
...しかし、僕も自分勝手だな。
入学させてくれと時期外れに頼み込み、問題を起こして自主退学。共に来た仲間たちを切り離し、関係ないアリスを連れて行こうとしている。
自分勝手だ。
「ますたー...おなかへった..」
「あ、アリス」
そんなことを考えていたら、アリスが帰ってきた。
さて、ご飯の前に説明だけ済ませてしまおう。
なぜか、ヒジリは帰ってきていないが、僕としては好都合だ。
「ねえ、アリス、僕がこの学院から出ていく、って言ったら、ついてきてくれる?」
「もちろん!」
「...よかった」
これからも、アリスの笑顔が僕の精神安定剤になるかもしれない。
今わかった。僕が思っている以上に、僕は精神的に参っているのかもしれない。
さて、まずはご飯だったか。
「僕も食べてないんだ。一緒に食べよう」
「わあい!」
両手を上げて喜ぶアリス。
余程ご飯が楽しみなのだろう。
今回のご飯は、白飯と骨なし肉だ。
骨は僕が取った。
食べる場所?
もちろん僕の部屋だ。
不用意に部屋の外に出て、知り合いに遭遇することは避けたい。
「ごちそうさま!」
「お粗末さまでした」
ご飯を食べ終わったアリスと僕は、一緒に歯を磨き、ベッドに入る。
既に時計は22時を回っている。しかし、未だにヒジリは戻ってこない。
ああ、そうだ。理由を書いたメモを後で会長室に置いていかないと。
まあ、ここを出ていくときでいいかな。
「アリス...って、寝ちゃってるか」
「す~...」
僕がこの学院を出て行こうとしている時間は0時過ぎ。
未だにヒジリが部屋に戻ってきていないのが謎だ。
もしかしたら、移動している間に学院内で遭遇する可能性がある。注意して進まなくては。
アリスを背中に背負い、部屋を出る。
僕の荷物は既にアイテムボックス内だ。
部屋を出た先は、普段の明るい廊下とは変わって、月明かりが差し込んでいる、静かな廊下だった。
最後にこんなものを見せてくるなんて、本当に、悲しくなるな。
いや、そんな気持ちになっちゃだめだ。
これは、僕の新しい門出なのだ。幸い、チート級の能力のせいで、僕の容姿を変えるか認識阻害か何かをすることも容易だろう。
時間が来るまで、布団の中で考え事をしていたらひらめいたのだ。
「...さて」
会長室のドアに、1枚の紙切れを挟む。これをルノウが見てくれたら、ルノウなら上手くやってくれるだろう。
少しの間、そのドアを見て、僕は背中を向ける。
さよなら、僕の学院生活。
20分ほど歩いた。
もうすでに、学院自体からは出て、後は敷地内から出るだけだ。
僕の頭の中では、これまでの生活が走馬灯のように巡っていく。
始まりは、道のど真ん中に放りだされた時から始まった。
「アリス、起きて。おわかれだよ」
「...ん...?」
アリスを起こし、背中から降ろす。
僕が学院を見ていると、アリスも、僕の心情を察したのか、少し寂しげな表情で、学院に小さく、別れを告げた。
「ばいばい」
「...うん、ばいばいだ」
もう、ここに『アイラ』として来ることは無い。
僕がアイラだとばれないように細工を施してから外を出るから、サリナ達に出会っても...。
「あ、忘れてた」
リナとユサの奴隷契約の破棄だ。
...2人には悪いが、寝ているところにこっそり行って、ぱっと解除してこよう。
そう決めた僕は、感応スキルと、空間スキルを使用する。
そこで、僕は気づいた。
僕達の進行方向に、知り合いの反応が6つ。
僕の知り合いなんて、数は限られている。しかも、6人となれば、すぐに思い当たる。
「...」
アリスもその気配を感じ取ったのか、警戒心を露わにする。
しかし、この6人とは、僕が話をつけなければいけないだろう。
...いや、最後にお別れだけ言って、姿を変える魔法をかけるか、認識阻害の魔法をかけて、その場から立ち去るとしよう。
ああ、こういったときに、転移魔法が欲しくなる。
僕は、アリスの手を引いて、6人の元へと歩いていく。
「...や、みんな。そんなところに、こんな時間にどうしたんだい?」
これまでの人生に、別れを告げるために。
書いてる自分でも、こんな感じのストーリーは予測していませんでした。
んー、勢い。




