58 事の顛末
「アイラ、少し、やりすぎなのではなくて?」
「...僕もそう思うよ」
僕達サンバールクラスは、ゲートの決勝戦に意気揚々と乗り込み、いざ戦闘を、と、そこまではよかったのだ。
いつも通りの流れで、僕の元にボールが来て、魔力を加減しながら込めて、投げて、敵全員を戦闘不能にするだけ。
だったはずなのに。
どうしたことだろうか。
僕達の目の前は、『何も無い』。決して、元からなかったわけではないのだが、元からなかったかのように何も無い。
ただ少し、加減を誤ったのだ。
その理由は、ある男の言葉が原因で_____。
____遡ること、約30分前。
「『いつも通り』、ですわね」
「ふふ、アイラらしいや」
「...そう言われたらなんだか恥ずかしいからやめてほしいんだけど...」
ルノウのアナウンスがなり、僕達が指定の場所へと向かおうとしている時、1人の男が声をかけてきた。
その人物は、僕からしたら懐かしい人物。
「おい、調子に乗るなよ」
シドだった。
僕は、シドの顔を見て、シドはどこに行ったのだろうかと少し気になっていたことを思い出す。
以前、この学院に同時に入学したのだが、僕達と同じパーティーメンバーだと勘違いされて、試験を受けずに入学したものだ。
まあ、実力はあの時点ではリナ達よりも上だったし、別に問題はない。そのことに関して、僕自信も特に気にはしていなかったのだが。
ではなぜ、シドを気にしていたのか。
それは、知人に死なれると、寝覚めが悪いという理由、それだけだった。
「...今、すごく失礼なことを言われた気がしますわね」
シャルが怒気を孕んだ声でシドの方に向く。
シャルがこんな風に怒るなんて、僕は始めて見る。ヒジリの怒り方や、ルノウの怒り方とも少し違う。まさに三者三様。
僕がそんなことを考えている間にも、状況は変化していく。
「もしかして、次の対戦クラスはあなたが所属しているクラスですの?」
「ああ、その通りだ」
なるほど。全てを理解した。
先ほどの『調子に乗るなよ』は、当たり前のように自分のクラスに勝てると踏んでいるのが、気にいらなかったのだろう。
しかし、それだけで怒るとは。器の小さい...いや、僕も怒るかもしれないが、その時は実力を持ってわからせるので、問題ない。
「あら、それは残念。アイラさんの顔見知りだからって、容赦はしませんわよ」
「というか、サリナ達のクラスが出てきてくれた方がやりごたえありそうだよね」
「確かに、それもそうですわね」
シャルとヒジリが、勝手に話を進めていく。
その様子を見たシドは、みるみる顔を紅くして、怒りをあらわにする。
火に油を注ぐのは構わないんだけど、僕も会話に参加させてほしい。
空気になるスキルなんて取得した憶えは無い。
しかし、サリナ達がほめられているのは、僕としても嬉しいものだ、...ほめられてるんだよね?
「ふん、戦闘中に寝るなんて愚かな行為をするクラスと比べてもらっては困る」
「「あ」」
「...なんだその、『やっちまったな』みたいな『あ』は...!?」
ほう。僕の目の前で、あの3人を侮辱するのか。
なるほど、死ぬ覚悟は出来ているな?
「...アイラ、やりすぎないでね?」
ヒジリがすごく心配した表情で言う。
はて、やりすぎるとは、どこまでやれば、やりすぎたことになるのだろう。
競技開始の合図と同時に、シド以外の生徒全員を気絶させて、残ったシドを追い詰めていくのはやりすぎだろうか____。
____というようなことがあったのである。
こうして冷静になって見ると、あの優しいシドがあんなことを言うとはとても思えないのだが、そうか、そんなことを言う人になってしまったのか。
エーミールもきっと、あの有名なセリフを言うだろう。
さて、僕はこのことに関して、特に悪いとは思っていない。
別に死者を出したわけじゃない。
まあ、負傷者は多数だろうが、決して死んではいない。というか、死んでいたら僕が責任もって生き返らせよう。ザ○リクだ。
『...えー、サンバールクラスの勝ちということで。教師たちは、速やかに修復作業に入りなさい』
ルノウのアナウンスが響く。
よし、例年に比べると異質なのは僕も理解しているが、それでも、サリナ達を悪く言われるのは、僕も我慢ならないのだ。
天罰が下ったとでも言っておこう。下したのは僕だが。
『アイラ、すぐに私のもとに来なさい』
どうやら、神|(仮)よりも偉い人がいたようだ。
「それで、どうしてこんなことになったのかしら」
「...それは、僕のパーティーメンバーを侮辱されたからです」
『私のもとに来なさい』というのは、簡単にいえば会長室に来いということなのだが、ルノウは特に怒っているような様子は無かった。
それを見た僕はほっとしたのだが、すぐにそれが勘違いなのではないかと思った。思ってしまった。
そこからは、常に警戒しながらルノウと会話している。
予測できているか出来ていないかでは、心の持ちようが違うのだ。
「...なるほど、あなたらしいわね」
しかし、ルノウは怒っているような素振りを全く見せない。
これなら、目に見えて怒っていた方がましだ。いつまで僕が気を這っていなければいけないのだろうか。
「...それで、アイラは何に警戒しているのかしら」
「...なんのことだか」
しかし、ルノウにはそれが伝わったようだ。
最近、僕が考えていることが他人にすぐ伝わってしまうのだが、無意識にテレパシーでも送っているのだろうか。
ルノウは、1つ溜息をつくと、会長の椅子に座る。
その動作は、相変わらず優雅である。
「何に警戒してるのかは知らないけど、この部屋は盗聴とかはされてないわよ。まあ、特段機密事項を話そうってわけじゃないけど」
「いや、そうじゃなくて」
「もしかして、私が怒らないことに不信感でも抱いてる?」
「...その通りで」
「はぁ...呆れた。今更そんなことで怒るわけないじゃない」
ルノウは、頬杖をつきながら、心底呆れたように僕に言う。
つまり、僕のただの早とちり、勘違いだったと、そういうことになるのだろうか。
「それに」
ルノウは、立ち上がって、そのまま僕の近くまで来る。
その顔は、どこか____。
「私のこと、そんなに信用できない?」
寂しそうだった。
そんな顔をされては、僕も取るべき行動は1つだけだ。
僕は、近くまで来たルノウを抱きしめる。
「きゃ、な、なにを...?」
「ごめん、ルノウ」
「...別に、いいわよ」
顔を見て謝るのはなんだか恥ずかしかったので、顔が見えないように逆に近づいて謝った。
ルノウは、普通に許してくれた。ルノウはやはり優しい。
「今度からは、私のこと、しっかり信用しなさいよ。誰よりも」
「うん、わかった」
誰よりも、という部分は少し難しいかもしれないが、ルノウは信用できる相手だということは、僕が前から知っている。
もしかしたら、それが全て仮面だという可能性もあるが、今はそんな可能性は考えたくない。
しかし、そうなると、なんのためにわざわざここに呼び出したのだろうか。
「ねえ、ルノウ。何のためにここに呼び出したの?」
「ああ、そういえば忘れていたわ」
ルノウを離すと、ルノウは会長の机に向かい、1枚の紙を僕に手渡した。
その紙に書かれていたのは、僕自身の目を疑う内容だった。
「これ、書かれてること、本当?」
「...ええ、本当よ」
そこには、僕の似顔絵と、見つけ次第捕獲するよう催促された指名手配書があった。
一体、僕の知らないところで、僕の身に何が起きようとしているのだろう。
次々と降りかかる謎。
主人公は何かともめ事に巻き込まれるようです。
果たして、それは誰に仕業なのか。十中八九女神様のせいですね。




