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一度でいいからと望んだであろう世界で  作者: すずはっぱ
第2章 学校編
64/79

53 別に、反省しているのならいいんだよ

「誠に申し訳ありません」


単なる棒倒しの競技、ブレイクが終了して数時間後。休憩を言い渡された全生徒は各自、自分の教室に戻ったり、自室に戻り準備をしたりと、それぞれで時間を使っていた。

その中で僕は、教室にいる理由も無いし、そもそもリナとユサと話をしなければいけなかったので、休憩するよりも先に2人を呼んだのだが。


今、僕の部屋で、僕の目の前で謝っているのはヒジリである。

その隣には、アリスがベッドに転がって寝ている。アリスはいつでも純真である。


しかし、そんなに謝られても困るというか。


「大丈夫、気にしてないし」

「でも、私があれを使わなったらこんなことには...」


過ぎたことをいつまでも後悔してもしょうがない。それは頭のいいヒジリならわかっているはずなのだが。

あ、頭のいいとは言っても、勉学的な話じゃないよ。ヒジリの学力は普通だし。


「だから、気にしてないって。...あ、でもあの石のことは気になるかな」

「石...ああ、私が割った、あれのことね」

「そうそう、あれのこと」


気になることと言えば、それだけだ。

あの石を割るだけで、あんなに強くなるのなら、この世界の強さの水準はもう少しましになっているはずだ。

まあ、先ほど見た限りでは、何かしらのデメリットがありそうだけど。


「あの石は、魔石なの」

「魔石」

「ええ」


いわく。

魔石は魔物を倒したときにごくまれに出現する魔力の結晶体で、魔力濃度がとてつもなく高いんだとか。

この世界でもトップの研究者たちが調べた結果、人の手で直接割ると、中に詰まっている魔力が外に漏れることなく、その人の中に吸い込まれるのだという。

自信の何十倍もの魔力をいっぺんに吸収するので、もともとの魔力総量が少ない人は、魔力に呑まれて暴走。後に自爆したらしい。


ヒジリが普通に戦えていたのは、魔力総量が多いから。しかし、ヒジリは普通では無かったという。


「私、石を割った瞬間、私が私じゃなくなった自覚があったの」

「それは...乗り移られたとかそんな感じ?」

「かもしれない」


魔力の持ちすぎで、性格が変わったのだろうか。

それとも、元の魔力の持ち主、魔物の性格が出てしまったのだろうか。

とにかく、自分ではない何者かが、自分の声で自分の体を動かしたのだという。


なんとも怖い話だ。

昔聞いた話で、幽体離脱をした後、決められた時間以内に戻らないと、体が勝手に動き出し、一生戻れないというのを聞いたことがある。

その場合、自分の意識は、幽体離脱した方に残るのか、それとも体に残るのか。はたまた...。

と、考えたものだが、数日後には忘れていた話を今更思い出した。


「なるほどね...ちなみに、どこから手に入れたの?」

「んーと...家から送られてきたわ。絶対に勝ちたいって相談したら、石が送られてきて、使用方法が書かれた紙が入っていたの」


主犯はヒジリの実家か。

そのうちご挨拶に行く必要がありそうだ。というか、今その理由が出来た。

ガツンと言ってやろう。


「とりあえず、石はあれだけ?」

「いいえ、あと数十個あるわ」

「なんでやねん」

「な、なん...?」


ごくまれに出現、つまりは希少なものなんじゃないのかよ。

インフレが進んだゲーム、アニメかよ。くそったれ。どんなゲームでもこんな早くに希少が崩されたことは無かったはずだぞ。


「アイラ、怒ってる...よね」

「あ、いや、怒ってないよ?」


ヒジリには怒っていないのは事実だ。


僕は、ベッドに身を投げる。


「まあ、そんなことよりさ。次の競技はなんだっけ」

「んーと、ラピッドかな」

「...寝てようか」

「そうだね」


ラピッドを捨てている僕達のクラスでは、勉強ができる奴を一応出すには出すのだが、他のクラスの足元にも及ばないので、普通に負ける。

なので、寝ることにした僕だった。

ラピッドに出るメンバーは、ブレイクとトッパーに出ているメンバーとは被らないようにしなければいけないため、どうでもいいメンバーなのだ。

まあ、何カ月も時間がたって、未だに名前を憶えていない僕も僕であれなのだろうけど。


「...ありがとね」

「...気にしないでって」


ヒジリにお礼を言われ、ああ、やっぱり嬉しいなと思いながら、僕は眠りに落ちていく。


「失礼するわよ」

「「...」」


扉を少々乱暴に開けた音がした。そして、嫌に聞きなれた声も聞こえた。

具体的に言うと、毎日お風呂で聞いているような声だ。

恐る恐るそちらの方を見ると、予想通り、ルノウだった。


これから寝るつもりだったんだが。


「その前に、あの石のことを説明してもらうわよ」


ああ、なるほど。

ルノウならあるい程度の目星をつけているだろうし、名前を言うだけで察してくれないだろうか。そして、あわよくばすぐに帰ってくれないだろうか。


マセキヲツカッタミタイデス   アラソウナノ


「それで、後遺症とかは?」

「あ、いえ、今のところは」

「そう。何も無いならいいけど、今後は使用を禁止するわよ。いいわね?」

「はい、僕もそうした方がいいと思いますし、ヒジリもその方がありがたいかと」

「わかったわ。それじゃ、私はもう行くわね。ちなみに、ラピッドは私のクラスの子が優勝したみたいよ。これで同点ね」

「...」


さりげなく自慢された。


「アイラ、どうする?」


ルノウを見送り、扉が閉まると同時に口を開くヒジリ。

そんなに心配だろうか。


残りの競技は3つ。

ハンドボールのような競技、ゲート。

100×3みたいなリレー、ダッシュ。

5対5のトーナメント戦、トッパーだ。


次の競技はゲート。そして、ダッシュ、最後にトッパーだ。

全ての競技に出る僕とヒジリは、休めるときに休んでおきたいものだ。

なので、ラピッドに関しては出来るだけ時間を稼いでほしかったのだが、そうもいかなかったようだ。

しかし、アリスの姿が見えないのだが。


「あら、アリスちゃんならそこにいるわよ」

「え?」


ヒジリが指さしている方向を見ると、ベッドの横、隅っこで丸まって寝ているアリスがいた。

ホントに、この子は気配を消すのに長けている。

スキルを使わないとわからないレベルとか、ホントに暗殺者でも目指しているのだろうか。


「...まあ、次の競技は明日だし、作戦も何もないから、寝ようか」

「それもそうね」


ハンドボールのようなものと言ったが、あれはあくまでそのように見えるだけで、実際に試合開始のホイッスルがなると、全員鬼の形相に変化する。

ボールは力づくで奪えるため、ボールを持っているチームは、相手の魔法の妨害や、防御に。逆に、持っていないチームは、ひたすら攻撃魔法でたたきつぶすことになる。

この競技に使っているボールもまた特殊性で、魔力を込めて投げると、その方向に加速して飛んでいくという性質を持つ。

一体なんの魔物を素材に作っているのかは知らないが、これがかなり早い。

投げるのが下手なら、頑丈な人をゴールに置いておけば弾いてくれるが、上手な人が投げると、まず取れない。

それと、ヒジリのような魔力総量が多い人は、ボールに魔力をバンバンこめられるので、その速さもけた違いになるのだとか。


前回のゲートはこの荒業で、敵チームのメンバーを薙ぎ払いながらゴールを奪ったんだとか。

しかし、今回はそうもいかないのは、ヒジリだって承知の上のはず。

だから、作戦も何もないのだ。

ただ僕が、ひたすら魔力を込めて投げればいいのだから。


「ただ、魔力の枯渇には気をつけないと」

「そうね。その時は、私も手伝うわ」

「それは助かる」


まあ、常にこちらのボールではないのだし、交互に投げるのが無難なのかもしれない。


それはともかく。


「眠い...おやすみ」

「ええ、おやすみ」


別段疲れたわけでは無いのだが、激しい眠気に襲われた僕は、深い眠りについた。

明日の開始時刻を確認せずに....。



台風が来てますね。今回は史上最強なんだとか。


僕の家の側にあるバイク小屋が飛ばされないか不安です。

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