53 別に、反省しているのならいいんだよ
「誠に申し訳ありません」
単なる棒倒しの競技、ブレイクが終了して数時間後。休憩を言い渡された全生徒は各自、自分の教室に戻ったり、自室に戻り準備をしたりと、それぞれで時間を使っていた。
その中で僕は、教室にいる理由も無いし、そもそもリナとユサと話をしなければいけなかったので、休憩するよりも先に2人を呼んだのだが。
今、僕の部屋で、僕の目の前で謝っているのはヒジリである。
その隣には、アリスがベッドに転がって寝ている。アリスはいつでも純真である。
しかし、そんなに謝られても困るというか。
「大丈夫、気にしてないし」
「でも、私があれを使わなったらこんなことには...」
過ぎたことをいつまでも後悔してもしょうがない。それは頭のいいヒジリならわかっているはずなのだが。
あ、頭のいいとは言っても、勉学的な話じゃないよ。ヒジリの学力は普通だし。
「だから、気にしてないって。...あ、でもあの石のことは気になるかな」
「石...ああ、私が割った、あれのことね」
「そうそう、あれのこと」
気になることと言えば、それだけだ。
あの石を割るだけで、あんなに強くなるのなら、この世界の強さの水準はもう少しましになっているはずだ。
まあ、先ほど見た限りでは、何かしらのデメリットがありそうだけど。
「あの石は、魔石なの」
「魔石」
「ええ」
いわく。
魔石は魔物を倒したときにごくまれに出現する魔力の結晶体で、魔力濃度がとてつもなく高いんだとか。
この世界でもトップの研究者たちが調べた結果、人の手で直接割ると、中に詰まっている魔力が外に漏れることなく、その人の中に吸い込まれるのだという。
自信の何十倍もの魔力をいっぺんに吸収するので、もともとの魔力総量が少ない人は、魔力に呑まれて暴走。後に自爆したらしい。
ヒジリが普通に戦えていたのは、魔力総量が多いから。しかし、ヒジリは普通では無かったという。
「私、石を割った瞬間、私が私じゃなくなった自覚があったの」
「それは...乗り移られたとかそんな感じ?」
「かもしれない」
魔力の持ちすぎで、性格が変わったのだろうか。
それとも、元の魔力の持ち主、魔物の性格が出てしまったのだろうか。
とにかく、自分ではない何者かが、自分の声で自分の体を動かしたのだという。
なんとも怖い話だ。
昔聞いた話で、幽体離脱をした後、決められた時間以内に戻らないと、体が勝手に動き出し、一生戻れないというのを聞いたことがある。
その場合、自分の意識は、幽体離脱した方に残るのか、それとも体に残るのか。はたまた...。
と、考えたものだが、数日後には忘れていた話を今更思い出した。
「なるほどね...ちなみに、どこから手に入れたの?」
「んーと...家から送られてきたわ。絶対に勝ちたいって相談したら、石が送られてきて、使用方法が書かれた紙が入っていたの」
主犯はヒジリの実家か。
そのうちご挨拶に行く必要がありそうだ。というか、今その理由が出来た。
ガツンと言ってやろう。
「とりあえず、石はあれだけ?」
「いいえ、あと数十個あるわ」
「なんでやねん」
「な、なん...?」
ごくまれに出現、つまりは希少なものなんじゃないのかよ。
インフレが進んだゲーム、アニメかよ。くそったれ。どんなゲームでもこんな早くに希少が崩されたことは無かったはずだぞ。
「アイラ、怒ってる...よね」
「あ、いや、怒ってないよ?」
ヒジリには怒っていないのは事実だ。
僕は、ベッドに身を投げる。
「まあ、そんなことよりさ。次の競技はなんだっけ」
「んーと、ラピッドかな」
「...寝てようか」
「そうだね」
ラピッドを捨てている僕達のクラスでは、勉強ができる奴を一応出すには出すのだが、他のクラスの足元にも及ばないので、普通に負ける。
なので、寝ることにした僕だった。
ラピッドに出るメンバーは、ブレイクとトッパーに出ているメンバーとは被らないようにしなければいけないため、どうでもいいメンバーなのだ。
まあ、何カ月も時間がたって、未だに名前を憶えていない僕も僕であれなのだろうけど。
「...ありがとね」
「...気にしないでって」
ヒジリにお礼を言われ、ああ、やっぱり嬉しいなと思いながら、僕は眠りに落ちていく。
「失礼するわよ」
「「...」」
扉を少々乱暴に開けた音がした。そして、嫌に聞きなれた声も聞こえた。
具体的に言うと、毎日お風呂で聞いているような声だ。
恐る恐るそちらの方を見ると、予想通り、ルノウだった。
これから寝るつもりだったんだが。
「その前に、あの石のことを説明してもらうわよ」
ああ、なるほど。
ルノウならあるい程度の目星をつけているだろうし、名前を言うだけで察してくれないだろうか。そして、あわよくばすぐに帰ってくれないだろうか。
マセキヲツカッタミタイデス アラソウナノ
「それで、後遺症とかは?」
「あ、いえ、今のところは」
「そう。何も無いならいいけど、今後は使用を禁止するわよ。いいわね?」
「はい、僕もそうした方がいいと思いますし、ヒジリもその方がありがたいかと」
「わかったわ。それじゃ、私はもう行くわね。ちなみに、ラピッドは私のクラスの子が優勝したみたいよ。これで同点ね」
「...」
さりげなく自慢された。
「アイラ、どうする?」
ルノウを見送り、扉が閉まると同時に口を開くヒジリ。
そんなに心配だろうか。
残りの競技は3つ。
ハンドボールのような競技、ゲート。
100×3みたいなリレー、ダッシュ。
5対5のトーナメント戦、トッパーだ。
次の競技はゲート。そして、ダッシュ、最後にトッパーだ。
全ての競技に出る僕とヒジリは、休めるときに休んでおきたいものだ。
なので、ラピッドに関しては出来るだけ時間を稼いでほしかったのだが、そうもいかなかったようだ。
しかし、アリスの姿が見えないのだが。
「あら、アリスちゃんならそこにいるわよ」
「え?」
ヒジリが指さしている方向を見ると、ベッドの横、隅っこで丸まって寝ているアリスがいた。
ホントに、この子は気配を消すのに長けている。
スキルを使わないとわからないレベルとか、ホントに暗殺者でも目指しているのだろうか。
「...まあ、次の競技は明日だし、作戦も何もないから、寝ようか」
「それもそうね」
ハンドボールのようなものと言ったが、あれはあくまでそのように見えるだけで、実際に試合開始のホイッスルがなると、全員鬼の形相に変化する。
ボールは力づくで奪えるため、ボールを持っているチームは、相手の魔法の妨害や、防御に。逆に、持っていないチームは、ひたすら攻撃魔法でたたきつぶすことになる。
この競技に使っているボールもまた特殊性で、魔力を込めて投げると、その方向に加速して飛んでいくという性質を持つ。
一体なんの魔物を素材に作っているのかは知らないが、これがかなり早い。
投げるのが下手なら、頑丈な人をゴールに置いておけば弾いてくれるが、上手な人が投げると、まず取れない。
それと、ヒジリのような魔力総量が多い人は、ボールに魔力をバンバンこめられるので、その速さもけた違いになるのだとか。
前回のゲートはこの荒業で、敵チームのメンバーを薙ぎ払いながらゴールを奪ったんだとか。
しかし、今回はそうもいかないのは、ヒジリだって承知の上のはず。
だから、作戦も何もないのだ。
ただ僕が、ひたすら魔力を込めて投げればいいのだから。
「ただ、魔力の枯渇には気をつけないと」
「そうね。その時は、私も手伝うわ」
「それは助かる」
まあ、常にこちらのボールではないのだし、交互に投げるのが無難なのかもしれない。
それはともかく。
「眠い...おやすみ」
「ええ、おやすみ」
別段疲れたわけでは無いのだが、激しい眠気に襲われた僕は、深い眠りについた。
明日の開始時刻を確認せずに....。
台風が来てますね。今回は史上最強なんだとか。
僕の家の側にあるバイク小屋が飛ばされないか不安です。




