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一度でいいからと望んだであろう世界で  作者: すずはっぱ
第2章 学校編
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48 明日には何がある? いや知らんがな

「それで、アリスちゃんはこの部屋で暮らすの?」

「そうしようかなって」


時刻は既に夜の7時を過ぎている。夕飯をすませ、部屋に帰ってきた僕達3人は、それぞれが寝る準備をしていた。

あの後結局ヒジリもフリスビーで遊び、2人して汗だくになっていた。そんなに楽しかったのだろうか。


「それじゃ、先にシャワー浴びちゃうわね」

「うん。あ、そうだ。

ヒジリ、アリスの面倒もお願い。僕は会長のところに行かなくちゃ」


危ない、毎日会長のお風呂のお世話をするのを忘れるところだった。


それを思い出した僕は、ヒジリにアリスを任せ、『転移』でお風呂場へ。

いつもの時間からは少し早いが、先に準備をしておこうと思う。


この『転移』は魔法ではないが、魔法でも同じようなものが作れるかというと、答えは否だ。

魔法では、生きているかどうかは全く関係なしに、『転移魔法』というものが存在しないようだ。

スキルの重ね合わせの技ということになる。

しかし、このことがもしばれたりしたら面倒なので、既にルノウにはスキルだと伝えてある。

そう言っておけば、僕自身もスキルだと認識しやすいので、他人に聞かれてもうっかり口を漏らす心配も減る。

まあ、そんなことを言う相手がいないんですけどね。


なんだこの汗は。とってもしょっぱいぞ。


「...しかし、いつ来ても立派な浴場だな」


漢字が違ったらとんでもないことになるようなセリフを口から漏らす僕。


改めてこの浴場、風呂場を見ると、確かにとんでもないのだ。

1度に50人は同時に頭を洗うことが可能で、さらには露天風呂まで完備。実際に行ったことはまだないが、いずれはそこにも行きたいと思う。

しかし、ここは地下4階なのに、どうして露天風呂があるのだろうか。星空でも見えるというのか。


まあ、それはいずれ確認したらいいか。今はルノウを迎える準備でもしようか。


「さて...」


脱衣所でいつも通り服を脱ぎ、綺麗にたたむ。

その中では時間が止まる『アイテムボックス』なるものがある僕からしたらたたむ必要は無いのだが、習慣と言うか、この1連の流れは抜けそうにない。

まあ、別に困ることも無いし、放置でいいだろう。


しかし、自分でも綺麗にたたむなあと思う。この体にも見なれたし、鏡を見ても、自分の顔だとわかる。

現代の、ここにいる僕の性別はもうわからなくなっているのだが、かなり器用だったということがわかる。

現代の僕のことについて分からなくなってきたことは、名前と性別だ。


「あら、早いのね」

「あ、ルノウ」


そんなことを考えていると、後ろからルノウの声がした。

振りむくと、そこには確かにルノウがいた。僕があげたお風呂セットを片手に、ドアを閉めている。

ちなみに、お風呂セットというのは、シャンプー、リンスー、コンディショナー、ボディソープ、そしてスポンジだ。

このスポンジも、ルノウのような綺麗な肌を傷つけないように柔らかい素材でできている。現代の日本人もびっくりな触り心地だと思う。

素材が何で出来ているのかは毎度のごとく知らない。


「ねえ、アイラちゃんは上手く溶け込んだ?」

「うん、おかげさまで」


服を脱ぎながら、ルノウはアリスのことについて聞く。

ルノウもルノウで心配だったのだろうか。まあ、前まではどこかに預けるとかそんなことを考えていたが、今は、アリスをどこかに預けるくらいなら僕がここを退学するまである。

それだけ愛しているのだ。アリスを。

決して、ロリコンではない。


「そう、それならいいわ。私もたまに部屋に様子を見に行くから」

「うん、その方が僕も助かるよ」


アリスのことを知っている人は大いに越したことは無い。

仮にアリスを悪用しようとしたのなら、僕の容赦のない鉄拳制裁が待っている。

それでも手を出したら、残念ながらこの世とはお別れである。


ルノウはセットを片手に、中に入る。

そのあとをついていく僕。

僕は今、なんとなく体にタオルを巻いているが、確か日本のルールだとこれはマナー違反だったような気がするが、なんとなく恥ずかしいのだ。

ちなみに、ルノウは堂々と歩いている。

僕もルノウの体は見なれた。決して、見あきたわけではない。


「さ、洗いましょうか」

「そうだね」


そんな感じで、いつも通りのお世話タイムが始まった。






「ただいまー」

「あ、お帰り」

「おかえりー」


部屋に戻ると、既にシャワーを終えたヒジリとアリスは、僕の机の上で何かを見ているようだった。

何を見ているのか気になる。


「何を見ていたの?」

「アリスが興味を持ちそうな本を探したんだけど、私の本棚には無くて。そこでアイラの本棚を見たら、アリスちゃんがすっごい興味を持ったものを見つけちゃって」

「なるほど、そういうことだったんだ」


しかし、アリスがそこまで興味を示した本と言うのはどんなものなのだろうか。


ヒジリの横を通り、アリスの頭の上から机をのぞき見る。

そこには、どこか見覚えのある、本と言うよりは薄いノートのようなものだった。

見覚えがあるのは当たり前なのだが、ここ最近でよく見かけたような気がする。


「...あ、これ僕の日記だ」

「あら、本じゃなかったのね」

「にっきー?」


どこかで、どこかでと思っていたら、ふと思い出した。ここまでの旅の記録を残した、僕の日記なのだ。

その日記も、ラノベのように書いているので、細かいところは僕の想像で書いているのだが、大体は僕がしてきた旅をそのまま書いている。

そんな、現代なら黒歴史に入るかもしれない物を見て、アリスは楽しいのだろうか。


後ろからアリスに聞いてみる。


「これ、見てて楽しい?」

「うん!」


あらまあ元気なことで。


しかし、僕のこれまでの物語がもろばれだし、ところどころ日本語でも書いている。

ああ、そうか、日記を読んでいたらかつての自分がわかるかもしれない。

その点では、アリスに感謝かな。


「♪」

「...」


しかし、その日記を楽しそうに見ているのを見た僕は、それを返してもらって僕が見ようなんて気は起きなかった。別に、後で見たらいいのだが、もうこの日記はあげようと思う。


僕がそういうと、アリスは飛び跳ねて喜んだ。

シャワーからあがったばかりのアリスのいいにおいがする。

いかん、これだと普通に変態みたいだ。


「さて、明日は少し早いわよ」

「あれ、何かあったっけ」


ヒジリがベッドにもぐりながらそう言うが、僕には何かがあったような記憶は無い。

あるとしたら、あと数日で行われるイベントだけだ。

というか、今更なのだが、イベント以外の名前は無いのだろうか。無いわけがないはずなのだが。


「ま、明日になったらわかるわ。おやすみ」

「おやすみー」


ヒジリはそれだけ言うと、そのまま寝がえりを打って僕達に背中を見せた。

そんなことを言われるとますます気になるのだが。

しかし、ヒジリはもう答えてくれそうにもないし、アリスも寝るという。

この中で僕がしつこく聞いても、ヒジリも不機嫌になるし、アリスの睡眠妨害にもなる。

なにより、情報は何も得られないだろう。


「うー...ん?」


そこで、何かひらめきかけたのだが、一体何をひらめきかけたのかを思い出せない。

何度か寝がえりを打って思い出そうとするが、すぐ隣で寝ているアリスを見て、僕も寝ようと思う。

というか、アリスは僕のベッドで寝ていたのを忘れていた。

もう1つベッドが欲しいところだが、まあ、これでもかなり優遇されている方だし、いろんな人がアリスに優しくしてくれている。

ルノウだってアリスのことを気にかけてくれているのだ。

あのルノウがあんなにデレるなんて、少しうらやましい。


ああ、どうだ。ルノウに聞くとしよう。








「こんな夜中に訪ねてきたと思ったら、そんなことを聞きにきたの?」

「そんなことって...気になって夜しか眠れないんだよ」

「それだけ眠れるなら十分じゃない」


先ほどもあったが、こんなに早く会うとは、僕も予想外だ。しかし、気になって仕方がない。眠くなると考えながらそのまま寝てしまうのだろうが、起きている間はずっとそのことを考えているなんていやだ。


ルノウは椅子に座ったまま、手元の書類に何かを書きこみながら言う。


「それで、同室のヒジリは何も言わなかったの?」

「明日になればわかるとしか」

「...なら、私からは何も言えないわね」

「ええー!?」


ルノウはこちらを一度も見ずに、冷たいことを言って僕を突き放す。

まさに凍てつく波動。


しかし、諦めきれない僕はルノウの机に手を置く。今のルノウは眠ろうとしているわけじゃないし、少ししつこくても大丈夫だろう。


「でも、気になるんだもん」

「...最初は、アリスのベッドを頂戴とか言うのかと思ったのに、聞かれたのがそんなこととは、とってもどうでもいいのだけど」

「えー...。ちなみに、ベッドは頼んだら」

「ダメに決まってるでしょ」

「ですよねー」


正直に言うと、そこは予想の範囲内だ。

しかし、これがどうでもいいこととは、僕でも見逃すことは出来ない。


机についている手で、机をバンバンと叩く。

バンバンと言っても、全然力は入っていないが。


「ねー、いいでしょー?」

「...私は仕事をしたいのだけど。というか、他の誰でもいいでしょうに」

「こんな時間に気軽に尋ねることができる人なんて、ルノウしかいないもん」

「そ、そう」


僕がそう言うと、ルノウは立ち上がり、窓から外を見る。

しかし、その窓の先は暗闇で外は見えない。現代と違い、この世界では夜では明りを点ける習慣は無く、必要なら点けるが、基本は寝るのだという。

それを考えると、この学院では明りは基本点いているので、現代に近いのかもしれない。

ちなみに、電気で点いているわけではなく、魔力を注ぎ込んで反応する結晶を使っている。

部屋にしか照明がないのは、結晶の照らせる範囲がそれしかないのだという。


脳内での話がかなりそれた。


ルノウは、少しの間外を見つめ、やがて僕の方に向き直る。


「ま、まあ、そこまで言うなら、教えてあげるわ」

「ホント!?」

「ええ」


赤い髪をいじりながら、横を向きながらそういうルノウ。


一体どういう心境の変わりようなのかは知らないが、それはもうどうでもいい。教えてくれるのだから。


しかし、ヒジリが教えないのなら私が教えるわけにはいかない、みたいなことはどういうことなのだろうか。


「ねえ、ルノウ」

「ん?」

「教えてくれるのは嬉しいんだけどさ。なんでヒジリが教えないのならルノウも教えないの?」

「まあ、驚かせようとしたんじゃないの?」

「驚かせようと?」

「ええ」


ルノウはそういうと、机の上のカップに紅茶を注ぐ。その紅茶、僕がもらってもいいでしょうか。


注いだ紅茶を1口飲むと、ルノウは口を開く。


「明日は、意思表明会があるのよ」

「意思表明会?」


それはあれだろうか。字のごとく、何かの意思を表明する場なのだろうか。

運動会や学祭、大会とかで見た、選手宣誓みたいなものしか思いつかないが、それ以外にもあるのだろうか。


「近いうちに、イベントがあるじゃない」

「うん、そうだね」

「その意気込みを、クラスの代表者それぞれが発表していくのよ」

「なるほど」


しかし、それとヒジリが内緒にする理由はどう関係しているのだろうか。


「これは予想なのだけど、アイラが発表させられるんじゃない?」

「え、私が?」

「まあ、あくまで予想よ」


ルノウは、あくまでと言うが、僕にはそれで決まりだという確信があった。

証拠は無い。しかし、勘が告げている。

なんとかして、明日はサボるとしよう。


あ、良いこと思いついた。


「ねえ、ルノウ。僕もルノウの部屋で寝てもいいかな?」

「別にいいけど、私は起きるのは早いから、起こしちゃうかもしれないわよ?」

「うん、それでいいんだ」

「...まあ、アイラが気にしないなら、私は別にいいわよ」

「やった」


これで、朝早くに起きることが可能で、ヒジリからも逃れることができる。

それと同時に、ルノウと一緒に寝ることが可能だ。

なんて一石二鳥。僕は天才かもしれない。

しかし、アリスを抱いて眠れないのは少し残念だが、明日はしっかりと抱いて寝るとしよう。


そして、僕が寝ることができたのは、ルノウの仕事が終わる時間、僕がここにきてから実に3時間後のことだった。

ふへへ、だいぶ遅れちゃいました。

反省はしていません(責任感0)。

だけど、土日で更新していくつもりです。

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