43 犯罪級
「で、名前がめでたく決まったのはいいんだけど、その子どうする気なの?」
ルノウが僕にそう聞く。
その疑問ももっともだ。
この学院に置いておくことはできないだろうし、かといって、信頼できる知り合いがいるわけでもない。
とりあえず、僕の部屋にでも置いておくか。
「ね、ますたー」
「...僕の名前はアイラって言うんだけど」
「わかった、ますたー。それでなんだけどね?」
「...うん、なんだい?」
僕の周りには、僕のことを名前で呼んでくれる人は少ないようだ。
僕の知人の半分くらいはご主人様呼びだし。
「わたし、外でも生きていけるよ?」
「え、それは危ないというか、僕が心配というか...」
「でも、わたしつよいよ?」
「...」
とても心配だ。
もし仮に、僕とやった時と同じくらいの強さならまだ考えなくもないが、あれは黒羽が付けていた装置のせいでああなっていただけで、本人がそこまで強いわけじゃないだろう。
現時点での、アリスの能力を知る必要があるな。
「ねえ、ルノウ。学院で能力チェックとかできないの?」
「出来るわよ」
ルノウはそういうと、自室に戻って行った。
ダメもとで聞いたのに、あるのか。
さすがルノウ。さすルノ。
「はい、これ」
「ありがとう」
ルノウが自室から取り出してきたのは、謎の白い石だった。
これ、どうやって使うんだ?
「これの上に手を乗せるだけよ」
「なるほど」
身分証明書や、ギルドでカードを作った時と似ているのだな。
違う点と言えば、かざす対象がカードか石なだけだが、これはただ確認できるだけなのかもしれないな。
「さ、アリス」
「うん」
とてとてと歩きながら石の前まで来るアリス。
身長が僕よりさらに低いから、妹が出来たみたいだ。あほ毛が左右に揺れていて可愛い。
「...」
「...」
アリスの頭をなでながら待つこと数秒。実に短い。
アリスの目の前に、ゲームで見かけるようなウィンドウが表示された。
「...確かに、強いみたいね」
「ふむ」
レベルは僕と関わったからなのか表記は無いが、そのほかのステータスが飛びぬけている。
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アリス(9)
筋力 A
魔力 A+
知力 C
俊敏力 B+
判断力 B+
保有スキル
言語理解スキル 覚醒スキル 耐性スキル
パッシブスキル
索敵スキル 忠誠スキル 自由奔放スキル
___
スキルを除いてみたら、ルノウにも迫るかもしれないが...。
しかし、この『忠誠スキル』っていうのはなんだろう。
過去に誰かに忠誠を誓ったのだろうか。
まさか、黒羽?
だったら、このスキルは今すぐ消去だな。
「この『忠誠スキル』って、昔誰かに仕えてた、とか?」
そんなことを考えていたら、ルノウが聞いてしまった。
これで知らない名前が出てきたら反応に困るのでやめてほしい。
しかし、アリスは普通に、それが当たり前のように言った。
「ますたーだよ?」
「...あ、うん。わかったわ」
「」
ルノウは戸惑いながら辛うじて反応を返すが、僕は絶句するだけで精一杯だ。
このままだと、奴隷の少女2人と奴隷と同じような感じの少女1人を連れている頭のおかしい奴アイラになってしまう。
旅の仲間が増えるかもしれないのは僕も嬉しいのだが、アリスとはそのうち別れることになる。
故郷に送り届けるからな。
「まあ、それはそれとして。アリスの故郷ってどこなの?」
「知らないよ?」
「」
早くも、作戦を開始する前から失敗が見えてきた。
「そ、そっか」
「でも、ますたーのおそばがわたしのいばしょだもんね!」
「」
あかん、これはあかん。
いや、いっそのこと、もうそうしてしまうか。仲間に、入れてしまうか。
そっちの方が平和な気がしてきた。
「ま、その話はまたあとでしなさい。とにかく、今どうするかよ」
「あ、そうだった」
あまりにも衝撃的すぎて、忘れていた。
...なんの話だったか。
ああ、思い出した。アリスをどこに置くかだ。
「でも、僕の部屋においたところでなあ...」
「...良い方法があるわ」
「え?」
ルノウが腕を組みながら、やけに真剣に言う。
ルノウが『良い』と言うのだから、それは信用するに値するのだろうが、なぜそんなに真剣なのだろうか。
「それは、あなたの側に常に置いとくのよ」
「え、ちょっと待ってよ。それが出来ないからこうして悩んでいるのに」
「出来るように私が話を通しておくわ」
「権限乱用...」
しかし、ルノウのその話は僕にとっても安心できる話である。
アリスがいくら普通の人よりも強いといっても、強いだけだ。
弱くても常識が無い奴と、強くても常識が無い奴なんて、街中に出たら弱い奴の方が上手く生きていける。
ルノウはドアに手をかけ、振りかえる。
「とにかく、その子のことについてはアイラ、あなたに一任するけど、何か困ったことがあったら言いなさい。私がなんとか出来る範囲なら手伝ってあげなくもないわ」
「うん、ありがとう」
それでもう少しデレながら言ってくれれば良かったのだが、そんなことルノウはしないか。
そもそも同性だしなあ。
「それじゃ、私は話をしてくるから」
「あ、うん」
有言実行に移すのが早すぎる。まだこっちの準備が何も出来ていないのに。
準備とは何か。それは。
「...」
「?」
僕はアリスを見る。
外見は可愛い。中身も世間知らずな感じで可愛い。全部が可愛い。
服は最初に会った時に来ていたものをそのまま着てるから、制服を着せるとして...。
「問題は、僕の教室に置いて大丈夫かどうかだよなあ」
「ますたーのきょうしつ?」
「うん、そ」
若干口が回っていないような、舌足らずとでも言えばいいのだろうか、小さい子の喋り方で話すアリス。
そうだ、これぐらいの年の子供なら、こんな感じが普通だよな。
ユサはまだあれだけど、リナは大人すぎるよな。
今度リナを甘やかしておこう。そのうち我慢の限界が来るかもしれない。
「たのしそう!」
「...そっか」
まあ、アリスがどう思うか、それを見てからでもいいか。考えるのは。
でも、もし能力のことがバレでもしたら大変だし、スキルを付与しておいた方がいいかな。
今思ったけど、修行しないでスキルが手に入るって、『創造スキル』は相変わらずチートの極みだな。
「ただいま...って、まだヒジリは授業中か」
当然である。まだ昼前なのだから、この時間にここにいたら単純にサボっていることになるのだから。
まあ、あの実力主義な教室だと、ヒジリはそんな横暴が通ってしまいそうだが。
「ここがますたーのへや?」
「うん、そうだよ」
部屋の中に入り、そのまま奥へと向かう。
アリスをベッドの上に座らせ、僕は勉強机の椅子に座る。
アリスのスキルの中には、『自由奔放スキル』というものがあった。
今は僕の前にいるから『忠誠スキル』が打ち消しているのかもしれないが、もし仮にアリスが1人でいた場合、その『自由奔放スキル』が働いてしまう可能性もある。
そうなると、大変なことに巻き込まれるかもしれない。それだけは避けたいところだ。
「まずは...スキルの削除かな」
手のひらをアリスに向けて、スキルでスキルを作り出す。
『削除スキル』をいったん僕の中で作り出し、そのままスキルを使用。
『自由奔放スキル』』を消す。
そのまま、『護身術スキル』を付与。このスキルはパッシブでは無いので、Lv.で表示されるのだが、どうせ僕が付与しているのだから、10なのだろう。
今のところはこれぐらいで十分だろうか。
どうせこの学院にも数年は通わなくてはいけないのだ。その間にスキルの取捨選択でもしよう。
あと、新しい服も作らなきゃな。
「最初は制服を着せようと思ってたけど、普通に可愛い服を着せたいよなあ」
「ふく?」
「うん、そう」
しかし、この子には一体何が似合うのだろうか。
アリスと言う名前を付けたのだから、アリスのような服を着せてもいいのだが、別の服でもいい。
例えば、現代にいたときに1番好きだったキャラクターの服装の、下はミニスカの上はブラの上から直接白のパーカーを着るというのでもいい。
というか、しばらくそれにしておこう。男に襲われても、『護身術スキル』がある限り返り討ちに出来るはずだし。
数分後。
「に、にあうかな、ますたー」
「うん、ばっちり」
まだ幼い子供なのに意外と胸があるアリスには普通にアリス専用のブラを作り、そのまま僕の趣味を着せた結果、僕が鼻血を出すような出来になってしまった。
これでは、男どころか女も寄ってきてしまう。
犯罪だ。アリスは全ての人類を魅了できるスキルを持っているというのか...。
と、アリスを己の趣味に染め上げていたら、アナウンスが鳴った。
『生徒会長のルノウです。生徒の呼び出しをします。アイラさん、至急、会長室に来なさい』
「...」
「いまのなにー?」
「あ、さっきあった人が僕のことを呼んでるんだよ」
「そうなんだ」
とにかく、呼ばれたからには行かないわけにもいくまい。
アリスの手をとり、部屋を出る僕。
そして再び、生徒たちに見つからないように歩く僕だった。




