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一度でいいからと望んだであろう世界で  作者: すずはっぱ
第2章 学校編
53/79

42 名前を。

だいぶ遅れてすみません。

ここから更新がんばります

「...」

「あー...僕の言うことわかる?」

「...?」


黒羽との死闘の次の日。

僕は朝から、拾ったあの女の子と会話していた。

授業には、今日は出なくてもいいとルノウに言われているので、暇な時間を使っているのだ。


「...あ」

「あ?」

「あ...あ...」

「...」


あ、しか言わないのだが、なぜだろうか。

...そうか、僕が最初に『あー』って言ったからか。


しかし、そうなると、この子は言葉が離せないことにあるのだが、どうしたもんか。

僕は子育てをしたことが無いし、教師の経験も無い。

スキルにそれ関連のものがあるかもしれないが...。


...いいことを思いついた。


「確か、黒羽が『付与スキル』がどったらとか言っていたな。それを上手く使えないだろうか」


さっそく、創造スキルで『付与スキル』を作成。

そのまま、この子にスキルを付与する。付与するスキルは、『言語理解』だ。


「そい」

「...」


小さく少女の体が光ったが、これで上手く言ったのだろうか。

まずは、さっきと同じことをしてみようか。


「よし。僕の言ってることわかる?」

「...うん、わかる」


やった、実験成功だ。

しかし、この付与スキルを上手く活用したら、それこそチートなんじゃないだろうか。

黒羽はたしか、『チートを倒すための』とか言っていたような気がするが。

チート能力をもって、チート能力が必要ない状況を作り出そうとしていたのだろうか。

それは面白そうなのだが、喋り方が敵を作っていたな。


「わたし、喋れてる?」

「うん、喋れてるよ」

「...夢じゃ、ない?」

「もちろん」


そういうと、少女はポロポロと泣き出してしまった。

どうしたのだろう、どこか痛むのだろうか。


「ど、どこか痛いの?」

「ううん...わたし、喋れなくなってたから...」

「...そっか」


恐らくだが、あの機械のせいだ。

あれを付けている間の彼女たちの目は、異常だったからな。

しかし、あの機械にも何かを『付与』していたのだろうか。

『付与』しほうだいだな。てことは、回数制限はないものとみたほうがいいか。

僕にちょっかいはもうかけないと思うのだが、僕の周囲はそうでもないかもしれない。

いずれにせよ、襲撃は警戒しておくことに越したことは...また使ってしまったか。

越したことはない少女になってしまうのだろうか。


「とりあえず、あなたの名前は?」

「...ない」

「ない?」

「ない」


...名前がナイなのか、それとも、名前が無いのか...。

うん、前者を信じよう。


「えっと、名前が存在しない方の無い?」

「そう」

「...そうか」


僕の儚い希望は砕かれたようだ。

しかし、そうか。名前が無いのか...。


「じゃあ、誰かにつけてもらおうか...」

「...ん」

「...え?」


ん、と言いながら少女が指をさしたのは、僕の顔だった。


正直に言おう。

僕はこれまでに2人の名前を付けた。だが、その2人も勢いで付けたものだし。リナに至ってはサリナに限りなく酷似している。

死んだアイドルの名前も付けたし、色々失敗がにじみ出ている。

それでもあの2人が特に文句を言わずに受け入れてくれたのが唯一の救いだが、果たしてこの子もそうなるだろうか。

もし、『その名前ダサい』とか言われたら、僕は立ち直れる気はしない。

間違いなく僕の心は砕けて再起不能になる。


「ほ、ホントに僕でいいの?」

「ん」

「そ、そっか。少し待ってね」


とりあえず、この子が僕に名前を付けてもらいたがっているのはわかった。

問題は、ちゃんとした名前を僕がつけてあげられるかどうかだ。


...あ、いいことを思いついた。


「ルノウに聞いてみよう」







「それで、私のところによく付けられる名前を聞きに来たわけね」

「その通り」

「はあ、少し待って頂戴ね」


少女を連れて会長室まで来るのに、どれだけ周りの目を気にしたかわからないが、すれ違う人誰もが特に気にした様子は無かった。

そんなに警戒する必要も無いのかと思っていたら、次にすれ違った人には、なぜそんなに小さい子を連れているのかめちゃくちゃ聞かれた。

ペラペラ喋ることもできないので適当にはぐらかせておいたが、あれで誤魔化しきれたかどうかは微妙なところだ。


ルノウは、そんな感じで会長室に入ってきた僕の状況をなんとなく察し、少し僕の話を聞いただけで、理解したようだった。

それだけの理解力が無いと、生徒会長は出来ないのだろうか。


手元の書類をまとめ、椅子から立ち上がる。


「さ、それじゃあ考えましょうか」

「あ、はい」


再び、会長室の奥、ルノウの自室に入る。

そこは今まで通りピンクピンクしているのだが、僕だったら恥ずかしてとても他人には見せられない。


「ほら、座りなさい」

「ん、ありがとう」


前に来た時には無かった机と椅子が3つ。

他人がこの部屋に入ることが増えたから、わざわざ持ってきたのだろうか。

ルノウがえっちらおっちら運ぶ姿を想定したら、すごくかわいかった。


「...なんか失礼なことを考えてない?」

「べ、別に?」


ルノウはエスパーだろうか。

僕の考えていることが筒抜けになっているかもしれない。何かしらの魔法が掛けられている可能性もあるから、そのうち自分の頭の中をチェックしよう。


「それで、名前を考えるんでしょう?」

「あ、そうだった」


少女に椅子に座らせて、僕はその隣に立って考える。

この国でよくつけられる名前なら、無難なのだろうが、それだとつまらない。

この国の中でも変じゃなくて、周りに埋もれない程度の名前。

...名前を付けるのはこんなに難しかったのか。僕の名前を付けてくれた両親には感謝だな。

相変わらず僕の名前は思い出せないけど。


「そうね、ここは、勇者の人たちの名前でも付ける?」

「勇者?」

「ええ」


ルノウによると、僕がここの世界に来る何年も前の話。

ルノウが生まれるよりも前の昔、魔族の中でも、最上級の魔王が暴れていたらしい。

しかし、『ニホン』から来たとされている4人組が魔王を倒し、人族の世界に安寧をもたらしたという。

その魔王によって苦しめられていたのは人族だけでなく、魔族もだったようで、その勇者は魔族にも感謝され、人族と魔族の平和協定に一役買ったのだとか。


「へえ...」

「知らなかったの?」

「ええ、まあ」


しかし、思いがけずここで情報を得た。

過去にも日本から送られていたのだ。

その勇者たちも僕のようなチート能力を与えられていたのかもしれないし、僕の能力なら延命も可能だろう。


「ふふ...」

「それで、その中から選んでいいの?」

「あ、うん。適当に案を出してくれたら、その中からこの子に選ばせるよ」

「...大丈夫なのかしら」


ルノウが本棚から出した本には、日本語で題名が書かれていた。


『柚太郎』


おい、なんだその名前は。


「さて、この中に出てくる勇者の名前は...」

「え、ちょっと待って。さっきの話の勇者たちの話が、その本なの?」

「ええ、そうよ。題名が勇者の故郷の言葉で書かれているから誰も題名がわからないのだけど、内容は私たちにも理解できる言語で書かれているから、私たちは『勇者の本』と呼んでいるわ」

「...さいですか」


とにかく、ルノウがそれを出してくるのなら、変な名前では無いのだろう。

その中から選ぶとしよう。


「さて、まず出てくる名前は...ジョウノウチ」

「...」


顎がすごそうだ。

そんな名前は選ばせる価値も無い。

素直に次回予告で死んでもらおう。


「次」

「えっと、サクラ」


一気に普通の女の子の名前になったな。

しかし、この名前もどうなのだろう。

この世界に桜という木が無いのだから、名前に意味が無いことになってしまうかもしれない。

この名前も付けられないな。


「サンタ」


季節系の名前が多いな。

春と思ったら今度は冬か。季節を1つほど飛ばしているぞ。


「クリトr」

「その名前はダメだ」

「...あらそう」


流石にその名前は不適切すぎる。

名前を『おにぎり』にするよりもひどすぎる。


ルノウはため息をつき、本を僕に渡す。


「なら、もうあなたが選びなさい」

「...そうだね」


確かに、ルノウに出してもらって、僕が確認をするのだったら、僕が直接見た方が早い。


「えー、どれどれ」


本を開く。最初に登場人物の名前と簡単な紹介をしているようだ。

ニホンの名前は勇者にしか無いだろうし、最初の方を見るとしよう。


「...『ミク』『リサ』『アイ』。色々あるなあ」


しかし、これでは勇者の名前ではなくて、勇者の故郷での2次元内での名前に近いと思うのだが。

一番日本人らしい名前は今のところ『ジョウノウチ』だ。


「うーん...」


というか、勇者の中で選ぶ必要はない。

この本に出てくる現地の人たちこそ、普通の名前だろう。


「他の人は...『アリス』。ふむ、不思議の国か...」


いいかもしれない。『アリス』。

確かに、この少女も不思議だしなあ。

そのうち、この少女の昔も聞き出し、故郷に送ってあげるのだから、不思議も無いのだろうけど。


「それじゃあ、君の名前は今日から『アリス』だ」

「...ん、わかった」


こうして、白髪の少し不思議なアリスが誕生した。

ネットの環境が無い場所があんなにつらいだなんて知りませんでした。

というか、毎年行っているのに初めて体験しました。

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