41 今回はマジだよ
とはいえ、思いがけず良い情報が得られた。
日本人疑惑の黒羽とか言う奴は確定で日本人だ。
その日本人が僕と同じような能力を持っているのかはわからないが、用心しておくに越したことはないだろう。
「...それにしても、パーティは疲れたなぁ」
ダンスパーティは特に大きな問題も起きずに終了した。
いろんな人に相手を迫られたが、女性が多かった。
僕がダンスを踊れないのを知ると、何故か人が増え、その全員が僕にダンスを教えてくれた。
スキルはないが、今日1日でかなり上達したと思う。
「さて」
女王様から教えてもらった、『擬似魔眼装置』とでも名付けられそうなものを開発しているという情報。
ルノウが知っているのかどうかは知らないが、1度話を通しておくことに越したことはないだろう。
...最近、越したことはない、って言葉を自分でも使いすぎていると思う。
僕が今いる場所は、パーティに参加した人に当てられた部屋だ。
僕とルノウは同じ場所に所属している扱いだから、同じ部屋だ。
部活とかの合同合宿とかみたいだな。
しかし、そのルノウはいない。
まだ話し合いが終わっていないのだろうか。
「どうしたもんかなぁ」
『擬似魔眼装置』がどの程度のものなのか知りたいが、どこで実験が行われているのかわからない以上、下手に動けない。
もしそれで僕のことがバレたら大変なことになるだろう。
少なくとも、平和な旅にはならないと思う。
そんなことを考えていると、ドアをノックする音が響いた。
…僕の部屋に何か用だろうか。
「黒羽です。夜分遅くにすみません…アイラさん、いますか?」
「…」
まさか、相手から来てくれるなんて。
丁度いい、僕に何の用なのかは知らないが、情報を出来るだけ聞き出してやる。
僕はドアを開ける。
「はい、いますよ。どうかしましたか?」
「いえ、少し僕の実験に付き合っていただきたくて」
「実験?」
「はい」
実験、か。
恐らくだが、その『擬似魔眼装置』を僕相手に試したいということなのだろう。
「大丈夫です、女王様とルノウ様には許可を頂いておりますので」
「…はあ。それはいいんですけど、ルノウが見ている前で行ってもいいですか?」
「ふむ…いいでしょう。それじゃあ、ルノウ様を呼びに行きましょうか」
そう言うと、黒羽は歩き出した。
ルノウを様付けするのか。ルノウがそれだけ偉いのか、それとも…。
いや、考えすぎだろうか。
とにかく、僕がルノウの前で行いたいと言ったには理由がある。
ルノウが実験を行うことを許可したのも僕を信頼しているからなのだろうが、実際に見て貰いながらやった方がいいのだ。
僕が気づけない異常にも気づけるかもしれないし、助けに入ってもらえるかもしれない。
「それでは、あそこでお待ちください」
「…ええ」
黒羽に連れてこられた場所は、以前学院で大会を行った場所によく似ていた。
指定された場所は、そのど真ん中。
これから出すから、そこで待っていろ、ということか。
観客席には、2人。
ルノウと女王様だ。
その近くに黒羽が歩いていく。
黒羽が何を仕掛けようとしているのかはわからないが、『擬似魔眼装置』は全く役に立たないということをここで思わせておくとしよう。
いざとなれば、最近また新しく作っておいた魔法が火を噴く。…と思う。
以前使った『ゴッド・オブ・インパクト』は使えない。
…一々言うのも恥ずかしいから、新しい名前でも付けるか。
『神越魔法』とでも名付けよう。
なので、新しい『神越魔法』を作ったのだ。
「____なるほど」
考え事をしていると、僕が入ってきた入口とは別のところから、何やら機械を背中につけた人が歩いてきた。
その人の顔に、生気はない。
…死んでいる、というような感じではないが。
「何をしたんだ…?」
そう言いつつ、魔法を唱える。
『マジックアーマー』と『フィジカルアーマー』だ。
これさえ張っておけばとりあえずは大丈夫なのだ。
「…」
そして、肝心の相手は顔が死んでいるが、こちらを睨み続けている。
僕に恨みでもあるんだろうか。
『…やれ』
黒羽の声が響く。
なるほど、黒羽の声に反応して動くのか。
しかし、『やれ』なんて指示は少し怖いのでやめて欲しいのだが。
「うぉっと」
「…」
そんなことを考えていたら、相手が超スピードで突っ込んできた。
とんでもないスピードだ。集中していなかったら避けるので精一杯。そんな感じだ。
「…『ソード』」
女の子のような声が聞こえたと思うと、その手から光の筋が伸びる。
その筋は何かを形取っていき、最終的に剣のような形になった。
…なにそれ。
「ちっ」
相手が刃物を振り回すとなれば、少し気を使わなければならない。
こちらも刃物を取り出すのは論外だし、相手が振り回しているもので相手を傷つけることも論外だ。
ただ、問題が1つ浮上した。
「こいつっ…」
僕に向かって剣を振るう度、何も持っていない拳を突き出す度、早くなっている。確実に。
『気づいたかね。そう、その実験台は戦闘行為をすると超加速度で成長していくのだ』
体はただそこにあるだけで、実際に動かしているのは科学と魔法ってか…。
しかし、それだと肉体が持たないのではないだろうか。
『気にする必要は無い。データさえ取れたらそれで十分だ』
「…クズ野郎が」
人間を人間として扱わないやつは腹が立つ。
この世界ではそれが普通な時もあるのだろう。それでも。
それでも、おかしいと思う。
「こいよ、お前が間違ってること、証明してやる」
光の剣が振り下ろされる。
それと回避。
攻撃を避けること自体はまだ余裕だ。
しかし、これが続けばわからなくなる。
相手の体が持つかどうかだ。
なら、一撃で戦闘不能まで追い込むのが1番だろう。
「背中についてるそれ、吹き飛ばしてやる!」
身体能力にものを言わせ、相手の攻撃を回避すると同時に後ろに回り込む。
そのまま、オリジナル魔法起動。
「『インパクト』!」
手のひらから出るこの衝撃は、人が簡単に吹き飛ぶ。
ビルの30階は余裕だろう。
その衝撃を、背中につけている機械にぶち込む。
その瞬間、ブチブチと何かがちぎれる音がして、吹き飛んでいった。
背中から剥がされた、見る限りに女の子な人は、そのまま倒れ込む。
機械を吹き飛ばす時にこの子も吹き飛んだらどうしようかと多少考えたが、結果オーライで良かった。
「…ふぅ」
なんにせよ、これで終わりだ。
『あら、やられちゃったわね』
『うむ。しかし、ルノウはなぜ嘘をついていたのだ?』
『嘘?』
『あそこにいるのはアイラなのだろう?』
『あら、バレちゃったわね』
あれ、なんでバレたんだ?
確かに、今着ている服は運動しやすいように僕が作った服だ。
それもかっこよく。
だけど、それだけでアイラだとバレるだろうか。
…もしかしたら、戦っている姿でバレたのかもしれないな。
今後は気をつけよう。
「でも、とにかくこれで終わり…」
『いやぁ、素晴らしい!』
黒羽のアナウンスが響く。
段々こいつの声を聞いてたらイライラするようになってきたな。
ぶっ飛ばすか。
…いや、落ち着け。
そんなことしたらこれからの生活を穏便に過ごせなく…。
『いやぁ、素晴らしいなあ。だが、今の戦闘データは頂いた。
これを学習したコンピュータを搭載した8体を相手にしても、生きていられるかな?』
「…」
黒羽の声に応じて、それぞれ別の入口から8体、フィールドに現れる。
その全員の目が、死んでいる。
しかし、あれだけの強さで機械を吹き飛ばしたのに、まだその機械は生きているのだろうか。
…そうなのだろうな。でなければ、学習するどころかデータを取ることさえ出来ないはず。
…同じことは通用しないかもしれない、と。
「ふぅー…かかってきな」
幸い、こちらは怪我をすることは無い。
恐怖心はあるが、それだけだ。
リトライがある殺し合いのようなものだ。
1体ずつ慎重にいこう。
そう思っていた時だった。
「ちっ…さすがにきついか」
8体による、機械に操られた精密なコンビネーションにより、捌ききれなくなってきた時。
腹部に相手の拳が迫り、吹き飛んだあとどうしようかと考えていた僕の思考は一瞬で吹き飛んだ。
相手の拳が腹部にめり込む。
体がくの字に折れ曲がる。
___痛い。
そのまま吹き飛ぶが、空中で僕は、混乱していた。
「げほっ…なんだ?」
『フィジカルアーマー』が解けたとは思えないし、魔法付与なら『マジックアーマー』が防いでくれるはず。
…僕の知らない攻撃方法なのだろうか。
「上等だ…コノヤロウ!」
着地し、最低限機械の装着者が死なない程度の攻撃を出す僕。
しかし、その攻撃は簡単に避けられ、カウンターを鳩尾に受けた。
「うっ…こはっ…」
なんだ?
何が起きてるんだ?
「…く、まずっ」
「…」
そのまま回し蹴りを側頭部にもらい、フィールドの端まで吹き飛ばされた。
痛い。
痛い。
痛い。
なんで、痛いんだ?
「…どうなって…げほっ」
口から血が盛れる。
どこか切ったのか…。
『確かに頑丈だが…我が『破盾スキル』を付与した攻撃は、さすがに通るみたいだなぁ?』
「…」
はじゅん…破盾か。
盾を破壊する…でも、それなら何かしらの違和感を感じてもいいんだろうが、『フィジカルアーマー』も『マジックアーマー』も、どちらとも破壊された様子はない。
どういったスキルなんだ…?
『そいつは、あらゆる効果を無視し、一定のダメージを相手に与えるスキルなんだ。
だから、お前がどんなに硬いシールドを張ろうが、そもそもの体が強かろうが、意味をなさないのさ』
「…なるほど」
つまり、貫通効果って奴か。
…こいつは少し面倒だな。
「…新しい魔法、今組みてるか」
作り出すのは、重力を操る魔法だ。
これで相手全員を空中に浮かせる。
空を飛ぶような様子はないし、仮に飛んだとしてもその魔法で動きを封じる。
そして、空中に1箇所に集めたら、空に向けて新しい『神越魔法』だ。
こいつは少し、範囲がデカすぎる。
月まで届くほどだ。
「…ふぅ、できた」
魔法自体は単純だから、数秒でできた。
まったく、黒羽が悠長に喋ってくれて助かるよ。
『さあ、フィナーレと行こうか』
「…そうだな」
全身が痛む。
こんな痛み、この世界に来る前も、来てからも、初めての経験だ。
だけど、これから旅をする上で、こんなことが起きるかもしれない。
だから、いい経験になった。
ただ、それだけだ。
「『リバース・グラビティ』」
僕が指定した8体の敵を空中に浮かせ、高さ50m程度で集合させる。
これで、準備は整った。
あとは、相手の、8人の命を刈り取る僕の気持ちが準備出来次第だ。
「…ごめん、救えなくて。最初の1人は、必ずなんとかするから」
空に向かい、右手を後ろに回す。
さあ、詠唱を始めよう。
「『刮目せよ この右手に込められし魔力は 天地開闢の調べ!』」
右手に集まる魔力が共鳴し、爆発的に増えていく。
「『人類が切り開く、始まりの一撃!』」
握った拳から光が漏れる。
さあ、『フィナーレ』だ。
「『マグナ・レイ』!」
一気に右手を開きながら突き出す。
今まで溜め込んだものを全て解放。
その力は全て、空にいる8体に向かう。
「…」
『なっ…!?』
数秒の後、跡形もなく消えた8体。
これなら、データも取れていないだろう。
『なっ、なっ、あぁ…!?』
狼狽した黒羽の声が聞こえる。
どうだみたかコノヤロー。
『わ、私の、チート共を倒すための道具が…!!』
『ちーと?』
『なんじゃ、その…ちーと、とやらは』
『…ちっ』
「…やれやれ」
今回もなんとかなりそうだが、魔力を使いすぎた。
フラフラする。
これからどうするか思考がまとまらない中、ルノウのアナウンスが聞こえた。
『アイラ、お疲れ様。もうあがっていいわよ』
「…うん」
あとのことは、ルノウに任せて、僕は休むとしよう。
黒羽のことも、こうして実験が明るみに出たのだから、自重をしなけらばならないだろう。
「あ、忘れてた」
最初の1人を探して目を動かし、フィールドに転がっているのが見えた。
…よく踏み潰されなかったなあと思う。
「しっかりと、面倒みなきゃね」
あの8人に約束したからな。
この子だけは、責任を取るって、
しかし、この子も白髪なのか。
こうして改めて見ると分かるのだが、背も小さい。まだ子どもなのか?
「ま、なんとかなるでしょ」
そんな感じで、波乱の1日は幕を閉じた。
最近1日1回しか投稿できてないので、近い日にまとめて投稿しようと思います




