38 まあ、平和に終わってよかった
魔族の一件が片付き、僕は普通に授業に出ることができていた。
それも全て、ルノウのおかげなのだが、その礼は今度することにしよう。
「ねえ、アイラ」
「んー?」
僕の隣に座り、退屈そうに授業を受けているのが、ルームメイトでもあるヒジリだ。
彼女は、本当に授業に興味がなさそうにあくびをする。
現代なら先生のストレスが爆発するんだろうが、この学院は実力主義なのだ。
先生より強くなったヒジリは、基本的に僕が教える側に立たない限り、やる気を出さない。
それでも、いつ先生の怒りが爆発するか、僕としてはハラハラしているので、ヒジリを注意する。
「ヒジリ、しっかり授業を受けなよ」
「えぇー...」
普段の授業、というか、このクラスの授業は9割方実戦だ。
このような座学は非常に珍しい。
なので、僕としてはその貴重な時間は逃したくないわけだ。
「そういえば、この前の草原の話。あれってアイラなんでしょ?」
「んー、まあね」
僕とルノウが魔族と戦った場所の草原は、ここから1時間歩いたところにある。
つい先日、僕が焼け野原にしてしまったが。
ルノウの話によると、僕がやったのではなく、異常発生した魔物のせいということになっている。
それで納得するのか微妙だと思うのだが、ここの国民はそれで納得するのだという。
しかし、ハンターの人たちは少し殺気立っているというか、ピリピリしているのだとか。
それはまあしょうがない。
ルノウのせいだから、僕には関係ない。
「どうやったらそうなるのさ」
「...まあ、色々あったんだよ」
色々あったのは、確かである。
僕だって、これまでただ遊んで過ごしていたわけじゃない。
その間に魔法を作っていたとしても、何もおかしい話じゃないだろう。
「ふーん、色々ねえ」
「...」
そのまま授業は先生の一言で終わりを迎え、放課後のような状況に。
現在、時刻は16時。現代の放課後とそう変わらない。
「ねえ、アイラ。この後用事ある?」
「あー、ルノウ会長のところに行かないと」
「あら、そうなの。...じゃあ、リナでも連れて行こうかしら」
「どこかに行くの?」
「ええ、少しね」
あのヒジリが自ら出掛けに行こうと誘うのは珍しいし、ユサではくリナを誘うのは本当に珍しい。
何か変なものでも食べたのだろうか。
「それじゃ、また部屋でね」
「うん、それじゃ」
何やら用事のあるヒジリと別れを告げ、そのままの足で会長室へ。
会長室の扉の前まで行き、ノックをする。
「誰?」
中から声がする。ここ最近で1番声を聞いているのではないかと思う声だ。
僕はそのまま、自分が来たことを伝える。
「アイラです」
「入りなさい」
ルノウの許しを得て、中には入る。
そこでは、書類を眺めている会長がいた。
「ごめんなさいね、まだ終わってないものがあるから、少し待っててくれる?」
「わかった」
2人きりじゃないところでは、どうしても敬語を外せないのだが、こうして2人きりの時ならば、普通に喋れる。
『会長ファンクラブ』なるものがあると風の噂で聞いたことがある。
そんな人たちが見ているかもしれない状況で、ルノウのことを呼び捨てにしてみろ。
『あ、ルノウ』
『あら、アイラ、おはよう』
『なんだあいつ』
『会長のことを呼び捨てだと?』
『やっちまうか』
こんな感じで殺される。
そもそも、こっちの世界に『さん付け』なんてものがあるとは、最初こそ驚いたが、もう慣れた。
そもそも、そちらの方が慣れている。
ルノウを見ると、書類を片づけている最中だった。
「おまたせ。奥の部屋に行きましょうか」
「うん。でも、ここじゃダメなの?」
「誰が聞いてるかわからない状況で、国単位での隠し事の話はできないじゃない」
「確かに」
誰かに盗聴されでもしたら、この話は一瞬で国中に知れ渡り、ルノウは何かしらの被害を被るだろう。
まあ、ルノウなら、いっそ開き直りそうだが。
「さて、その後のことを話しましょうか」
「ぜひお願いします」
奥の部屋に行き、ベッドに腰掛けるルノウと僕。
とてもいいにおいがする。
「その後なんだけど。
私たちのことを見た人もいないし、何も手がかりがないってことで、誰かの仕業っていう線は無くなったみたいよ。
魔族の方も、人族との戦争は回避したいみたいで、知らんぷりをしてたわ。まあ、本当に知らないのかもしれないし、魔眼持ちの魔族をけしかけて、戦争まで発展させたかったのかもしれないけど」
ルノウは、ベッドに身を預け、天井を見上げる。
その角度だと見え...なかった。残念。
え、風呂場で見てるだろって?
こういった状況とはまた別なんだよ。
「でも、女王様はあなたにカマをかけてくるかもしれないわ」
「それって、僕のことを疑っているってこと?」
「そうなるわね」
ルノウはベッドから身を起こし、そのまま着替え始める。
この学院の制服から、かっこいいスーツのような服だ。
まあ、下はスカートなのだが。
しかし、羞恥心は無いのだろうか。
「...あまりじろじろ見ないでくれる?」
あった。
「私はこれから、そのことに関して上とお話をしてくるわ」
「頑張って」
「アイラにも招待状来てるわよ」
「...え?」
「どうせ事前に知らせても断るだろうと思って。さ、準備して頂戴」
「...」
ルノウに言われた通り、確かに事前に知らされたら逃げていただろう。
そんな目銅なのは、出来れば行きたくないし。
でも、さすがにこの状態からは逃げられないだろう。
「服は私のを使って頂戴。サイズはあってると思うから」
「...うん、そうするよ」
観念した僕は、ルノウのクローゼットの中から服を選び始めた。
その中に、白いドレスがあったのだが、やけに新品だな。
「ルノウ、これって」
「...ああ、それ。私の親が送ってきたのよ。
でも、私はそういうの着ないから、そのままになってるわ。着る?」
「...まあ、着られないというのも可哀そうだし、着るとするか」
と、いった感じで純白のドレスを身につけたのだが、早くも心が折れそうだ。
ルノウの自室には鏡があるので、それで自身の容姿を確認するが、これは単純にウェディングドレスだ。
こんなものを送ってきたのか、ルノウの親は。
「あら、似合うじゃない」
「...そりゃどうも」
しかし、ぱっと見ウェディングだが、細部はやはり仕様になっていた。
頭にかぶせるやつはそもそも無いし、足の部分にも切れ込みが入っており、動きやすいようになっている。
僕の胸が比較的小さくないということもあり、胸元が危ないというわけでもなく、しっかり見たらなんだこの服なのだが、やはり現代の人が見たら最初はウェディングドレスだと思うだろう。
「...いやな予感しかしない」
「別に、平気よ?」
ルノウはそういうが、本当にいやな予感しかしない。
具体的には女王様がいるだとか、僕のこの服が悪目立ちしてめちゃくちゃ見られるだとか。
...いやな予感しかしない。
ソフトクリームを食べていたら、1個食べきる前に胸がいっぱいになってしまいました。
年ですかね




