28 本気じゃあないけど
時刻は既に21時を回っている。
普段の僕なら、既に就寝時間に入っているのだが、今日はそうはいかない。
この後、エキシビションマッチがあるのだ。
「それじゃ、私は控室に行くわね!」
「うん、行ってらっしゃい」
22時から行われるエキシビションなのだが、ヒジリはもうやる気のようだ。
相変わらず早い。
しかし、ヒジリのテンションが段々上がっているだろうことに対して、僕のテンションは段々下がっていった。
「...今更だけど、出たくないなあ」
僕次第なんて息巻いていたが、いざとなると出たくなくなるものなのだ。
「もし仮に全力で魔法をうっても大丈夫みたいなこといってたけど、本当に大丈夫なんだろうか」
もしそれでパリーン、ドカーンなんてことになったら、僕は責任を取れる気がしない。
時間が来た。来てしまった。
本来の力をセーブするための腕輪も無い。
可能性の話をするなら、ヒジリを殺してしまう可能性もあるし、僕が殺される可能性もある。
現在僕は、控室を経由しないでフィールドに出る道にいる。
なんとなく、ヒジリと同じ部屋にいるのは危険な気がしたのだ。
「さあ、選手の入場です!」
アナウンスの声が響く。
その声を受けて、ヒジリが先に入っていく。
僕は、それを見届けてから、フィールドに出る。
僕が来たのを、ヒジリも気づいたようだ。
僕の姿を認めるなり、笑顔になる。
「なんとなくそんな気はしていたのよね」
「...どうして?」
「いや、ちょっと出来る程度なのに、リースを倒せるわけないでしょ。まぐれでもなかったし」
「...見てたんだ」
たった1戦だったのだが、それでばれないと思っていたのは僕のミスか。
だが、手の内が全てばれたわけではない。まだ、なんとかなる。
能力オールS+は伊達じゃないってことを、証明してやる。
「ご主人様が出てきましたよ」
「ホントだ! 頑張れご主人様ー!」
「あはは...」
リナとユサの声がする。
観客席から応援してくれているようだ。少し恥ずかしいけど、元気は出たかな。
「試合開始!」
どこからともなくアナウンスが鳴る。
その一言で、すぐに突撃してくるかと思ったが、ヒジリはその場から動かない。
どうしたのだろう。もしかして、体調不良だろうか。
「ねえ、アイラ」
「何?」
そうではなさそうだ。
僕に話しかけるその立ち姿からはもちろん、言葉にも殺気がこもっている。
こうした正々堂々としたものだからいいものの、外で戦闘に鳴るたびになっていたら、魔物が逃げてしまいそうだ。
「もしかして、隠してた?」
「隠してたって、何を?」
「本当の実力」
まあ、それは思うだろうなあ。
こうして出てきているのだし、しかも、エキシビションマッチと称していろんな人を集めて。
誰が見ても、ヒジリと同じ実力は持っているのだと思う。
「...まあ、確かに隠していたけど、悪いことじゃないでしょ?」
「まあ、確かにそうなんだけどさ」
そう、悪いことじゃない。
これが、ギルドとかでのハンター登録で、自分の能力を偽っているのだとしたら、自分のことを過大評価しても過小評価しても、ギルドにとって悪いことしか起きない。
しかし、ここは学院だ。
誰かのために過ごしているわけではない。
「でも、なんだかいや」
「...」
今日はいつになくヒジリは喋るなあ。普段はあんなに戦うときはすぐに戦うのに。
もしかして、本当に体調不良なのではないだろうか。
「...全力、出して大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だと思うけど」
多分。
僕のその言葉を聞いたとたん、ヒジリは笑顔を浮かべた。
きっと、自分と同じぐらいの人がいなかったのだろう。
お互いを高めあえる、切磋琢磨出来るような仲間が。
自分の力をセーブしても、自分に勝てる人はいなかった。
だけど、今自分の目の前には、アイラという人物がいる。
もしかしたら、自分のライバルになってくれる存在かもしれない。
とでも思っているのかもしれない。
「...」
ヒジリは、静かに呼吸を整えた後、すぐに僕に突撃してきた。
そのスピードと顔からしてわかる。本気だ。
しかし、だ。
「よっ」
「!」
ヒジリが抜いた剣を、余裕を持って避ける。
早いには早い。だけど、それだけだ。
経験はまだ浅い僕だけど、わかる。
力をセーブしていた時には出来ていたことができなくなっているのだ。
それは、駆け引き。
「ふっ、やぁ!」
「...」
ヒジリがとてつもない速さで振る剣を、僕はひらりひらりと避ける。
フェイントが1つも無いのだ。
これでは、野球で160km程度の球をストレートでずっと投げているようなものだ。
先ほどまでの試合が高校野球だとすると、今の試合はメジャーだ。
そんなもの、目が慣れてしまう。
「...」
ヒジリの息が少し上がってきたところで、距離をとる。
僕の作戦は2つある。
剣か、魔法か。
剣で技術の差を見せつけ、降参させるのが1つ。
魔法で超強力な魔法を瞬間的に生み出し、戦意を削ぐ方法が1つ。
どちらにせよ、ごり押しになってしまうが、いたしかたあるまい。
ここは、ヒジリに聞く方がいいだろう。
「ねえ、ヒジリ」
「...何」
息を整えるのに集中しているようだ。
まあ、自身のトップスピードの剣を軽々と避けられたのだ。相手の剣技はそれ以上と見て普通だ。
しかし、僕にはまず聞くことがある。
「ヒジリは、どっちがいい?
魔法か、剣か」
「...どういうこと?」
「選ばせてあげる」
つまり、僕はこうも言っている。
『魔法であなたを倒すこともできるし、剣でも圧倒できる。好きな方で倒してあげる』と。
この2年間、トップとして君臨していたものからしたら、屈辱的な一言だろう。
だが、そうする必要がある。
こんな体験をしても僕の隣にいてくれるような人が、パーティーメンバーに欲しいのだ。
「...っ、あまりなめないで頂戴!」
さすがに起こったヒジリが、魔法を詠唱する。
「『ファイアバースト』『アイスブレイク』!」
「!」
かなり高威力な魔法を2連続。なるほど、優勝者の実力は伊達だじゃないってか。
これをまともに食らっては、死んでしまうだろう。
しかし、それは僕には当てはまらない。
「『マジックアーマー』」
ここで、これまでの研究の成果を発揮だ。
2つの高威力の魔法が僕を襲う。
灼熱の炎と、体の芯まで凍らせる魔法が同時に来ても、僕の体に変化は見られない。
なるほど、便利だなこれ。
「さて。反撃だ。魔法でいいんだよね?」
ヒジリにどっちがいいかと聞いたら、魔法で攻撃してきたんだ。そういうことだろう。
「さあ、行くよ」
腕を振り、2つの魔法を払いのける。
それを見た観客はさらにヒートアップ。
同じくユサも盛り上がっているのが見えたが、リナも少し興奮気味に見える。
珍しいな。
僕は右腕を前に出し、手のひらをヒジリに向ける。
「...!!」
それだけで、ヒジリはかなり緊張しているようだ。
まずは、小手調べ。
「『ファイアボール』」
手のひらから放たれた『ただの』火球は、ヒジリの全力突進よりも早いスピードで、ヒジリの横を通り抜けていく。
フィールドの壁が吹き飛ぶが、それ以上の被害は見られない。
なるほど、あれが『あーてぃふぁくと』とやらの能力ってやつか。
「ほら、避けないと死んじゃうよ?」
「...」
ヒジリは、目を見開いて、僕を見つめるだけで、何も動こうとしない。
ふむ、これは戦意を喪失できただろうか。
「...ま、まいりました」
数分の後、あり得ないと言いたいような顔で負けを認めるヒジリ。
少し、ひどいことをしただろうか。
いや、これでいいのだ。
もし仮に手加減をしたところで、ヒジリに怒られるのは目に見えているし、会長にも嘘をつくことになる。
しかし、こうして実力差を見せつけるような形になったとしても誰かの反感を買うかもしれない。
どちらがいいのかといわれると、難しいものである。
これがさらに加速していくのが、現代社会の特徴だと思うのだが。
「勝者、アイラ!」
試合開始の合図と同じ声の人が、勝利宣言をする。
それに伴い、観客の拍手が聞こえてくる。
視線を動かしていくと、会長の姿が見えた。
隣にいるのは、この間とは服装が違うが、国王だろう。
笑顔でこちらを見ている会長だったが、その笑顔は『ありがとう』と言っているような気がした。
それだけで、僕は少し救われたような気がしたのである。
「ねえ、アイラ」
「ん?」
敗北のショックから立ち直ったのか、いつもとあまり変わらないヒジリが僕に話しかけてきた。
その眼からは、闘志は失われていない。
「私も、なれるかな。アイラみたいに」
「...」
こればっかりはどうも答えられないのだが。
僕の今のこの力と見た目は、神様に告白したら振られた結果なだけで、特に努力はしていない。
だけど、なんとなくだけど。
「なれるよ、きっと」
「! なら、私に教えてくれない?」
「...何を?」
「魔法とか、剣とか!」
おっとこれもまた難しい問題が来たものだ。
先ほどと同じように、剣が使えるのは『総撃スキル』なるものがカンストしているせいで、何年も練習したわけじゃない。魔法もまたしかり。
「...そのうちね」
「やったぁ!」
なんとかその場しのぎで乗り切る僕。
なんともダメなやつである。
しかし、あれだけやったのに、上を向けるというのは、1種の才能かもしれない。
この学院を卒業したら、パーティメンバーに誘いたい。
無理にとは言わないが。
「アイラ、少しいいかしら」
「...会長?」
フィールドの入口に立っていた会長に話しかけられたが、その隣には謎のロリがいた。
なんだあのロリ...いや待てよ、なんか見たことがあるような。
「ああ、紹介するわね」
「ルノウの友達の、サイじゃ」
「...国王さまじゃないですか!」
まあ、ロリというのは耳にしていたが、ここまでロリだとは。
身長は約130cm。髪の色は紫で、腰まで長い。勝気なオーラを放っているのが特徴だろうか。
しかし、こんな幼女な王様まで友達だとは、会長の人脈はどうなっているんだろう。
「これでもこの子、もうじき100歳よ?」
「なっ、余計なことは言うでない!」
それを聞いて絶句する僕。ヒジリは知っていたのだろうか。
いや、ヒジリもだ。
「...まあ、それはともかく。わしはお主達に用があって来たのじゃ」
「僕達にですか?」
「そうじゃ」
そこで幼女な王様から言われたのは、こんなことだった。
「お主ら、わしの専属のメイドにならぬか?」
メイド。僕が想像できるのはリナだけであるのだが、それが果たして本当にメイドさんなのかはわからない。
「せ、専属? それって、かなり魅力的な話よね...」
ヒジリが声を震わせる。
しかし、メイドか。
確かに魅力的な話ではある。フリフリな可愛いヒジリを毎日見れるのだろうから。
だがしかし、僕にはやることがある。
「すみません、僕にはやることがありますので、辞退させていただきます」
「な、んじゃと...?」
まさか断るとは思っていなかったのだろうか。
会長も驚いた顔をしている。
しかし、僕のこの世界に来た第1に考えていることもある。
それだけは譲れない。
そう、ハーレムを作るのだ!
「...あなたなりの考えがあるのね?」
「はい、会長」
「うぬぬ...」
未だに唸っている幼女とは違い、会長は僕の意思を優先してくれるみたいだ。さすが会長。
さて、ヒジリはどうするのだろう。
ここで彼女がどうするのかは、彼女の自由だ。
「うーん、アイラがやるならどうしようかなって思ったけど、アイラがやらないならいいや」
アイラに教わることもおおいし、と最後に付け加えたヒジリだった。
まさか、ヒジリにも断られるとは思っていなかったのか、パクパクとしている幼女様。
そして、なんとなくこうなるだろうと予想していたかのような顔をしている会長。
ほんと、私たちとそんなに変わらない年のはずなのに、なんでそんなに頭が良いんですかね。
しかし、何はともあれ、こうして、エキシビションマッチは幕を下ろしたのだった。
だらだらと長くなってしまいました。
まあ、これからも好きに書くので、温かい目で見てください。




